第121話 クリスマスの朝 (2)

 ――十二月廿五日 クリスマスの朝


 駿の部屋に泊まったジュリア、ココア、キララ、幸子の四人は、駿の手によるサンドイッチの朝食バイキングを楽しんでいた。


 ――午前十時


「さて、ここでオレからの最後のクリスマスプレゼントをみんなに」

「え? まだ何かあるの?」


 キララは驚いた顔をしている。


「ちょっとしたデザートをね」

「デザート……」

「うん、みんなちょっとだけ待ってね」


 パタン


 キッチンに入っていった駿。

 四人は、駿からのデザートのプレゼントを想像して、心を躍らせた。


 ブイイイーン ブイイイーン

 ガリガリガリガリガリガリ


 キッチンから聞こえる謎の機械音や、何かを削るような音。


「し、駿は何やってんの……?」


 不安になるジュリア。


「デ、デザートを作っている……のかな……?」


 幸子も首を捻った。


「デザート作るのに、こんな音する……?」


 キララも心配し始める。


「きっと、新世代のデザートなんだよ~! だって駿だも~ん!」


 ひとり、笑顔で駿を待つココア。


 カチャッ


 部屋の扉が開いた。

 駿が持っているトレイには、乳白色の液体が入った、少し大きめな透明のプラスチックのコップが五個乗っている。どれも同じもののようだ。


「はい、みんな、お待たせ」


 四人の前に置かれるコップ。

 乳白色の液体は、少し泡立って、甘い匂いを漂わせている。


「今回のクリスマスの締めに、ノンアルコールのデザートカクテルを作ってみたんだ」

「これ、カクテルなんだ!」


 驚くジュリア。


「うん、『ミルクセーキ』ってやつだね。飲んでみて」


 四人は、コップに口をつける。


「甘くて美味しい! あーし、これ好き!」

「すごく懐かしい感じの味がする~」

「ちょっと緩めのミルクシェイクみたいだけど、すごくいい香りが……」

「シナモンですか?」

「おっ! さっちゃん、正解! 少しだけ香り付けにシナモンパウダーを振ってみたんだ」

「駿、ありがとね。最後の最後まで……ホントにステキなクリスマスだったわ」


 キララは、感慨深げに駿にお礼を言った。


「あーし、駿やさっちゃんと出会えて、本当に良かった……こんなステキなクリスマス、他では絶対味わえないもん」


 少し寂しげな憂いを感じさせるジュリア。


「もっともっと、みんなと一緒にいたいなぁ~……」


 ココアも寂しげだ。


「でも、またみんなで集まる楽しみができたじゃないですか!」


 笑顔で前向きな姿勢を見せる幸子。


「そうだよ、また第二回をやろうよ、な!」

「駿、言質取ったからね!」

「OKだ、キララ」

「約束だよ~?」

「オレは約束守るぜ。知ってるだろ、ココア」

「また、あーし、来ていい……?」

「オマエさんが来なきゃ始まんねぇだろ、ジュリア」

「私を忘れたらイヤですよ!」

「安心して、さっちゃんは、オレの中ではもう参加確定だから」


 駿の部屋の中は、暖かな笑いに包まれた。


「ところで、さっちゃん」

「はい、キララさん」

「なんだか、今日は朝からご機嫌じゃない? ずっとニコニコしてる」

「えっ! そうですかね?」

「あーしもそう思った。何かいいことあったの?」


 少し頬を赤く染める幸子。


「はい! とてもステキな夢を見ました」


 駿は、ドキッとした。


「とても、とても、ステキな夢でした……」


 どこか寂しげに笑う幸子。


「どんな夢を見たの? ねぇねぇ、教えてよ!」

「さっちゃん、教えて~」


 ジュリアとココアが幸子を問い詰めた。


「ふふふっ、それはナイショです」

「えー、教えてよー。夢叶えるの、あーし、協力しちゃうよ⁉」

「私も、私も~」


 また寂しげに微笑む幸子。


「夢は夢ですから。私は、それで十分です……」


 駿は、寂しげな幸子を見て、胸が張り裂けそうになる。


「さっちゃん」

「はい」

「その夢、オレが必ず叶えてあげるよ」

「えっ?」

「約束する」

「えっ、どういう……駿くん……?」

「もう一度言うよ。約束する」


 真顔で語る駿に、幸子は優しい微笑みを向けた。


「…………約束ですよ?」

「あぁ」

「……絶対ですからね?」

「わかってる」

「駿くん……」

「うん」

「ありがとう……」


 幸子の目がうるむ。

 ふたりの会話についていけないジュリアとココア。


「駿は、さっちゃんの夢の内容を知ってんの?」

「知らないよ」

「でも、今、約束したよね~?」

「約束したよ」

「?」「?」

「はい、はい、ふたりにしか分からないことだってあるでしょ、ね」


 キララのフォローに、駿と幸子は顔を見合わせて笑った。


「みんな、最後に乾杯しようか」

「さんせー!」


 駿の提案に四人は笑顔で賛同した。


「じゃあ、みんな『ミルクセーキ』を持って」


 全員がコップを持った。


「みんな、クリスマス、お疲れ様でした」

「お疲れ様でしたー」

「オレたちの永遠の友情と、みんなの来年の幸せを願って……乾杯!」

「かんぱーい!」


 四人の掛け声とともに、ミルクセーキの甘い香りが部屋の中を包んだ。


 ◇ ◇ ◇


 ――午前十一時


「やった~! パパが車出してくれるって~! それで、みんな送るって~」

「ココア、お父様はここに来てくれるの?」

「うん! キララも、みんなも、一緒に帰ろ~!」


 わぁっと盛り上がる女性陣。


「送り迎え付きかよ、いいなぁ。ココアのパパさんに感謝だな!」

「でも、用事済ませてから来るから、三十分ちょっと位かかるって~」


 目がきらりと光ったジュリアとキララ。


「三十分あったら十分でしょ……」

「あら、キララ、またあーしに敗北したいのかしら?」

「まだやるんかい……」

「当たり前でしょ!」「やるに決まってんでしょ!」


 テレビとスヴィンチの電源を入れるジュリア。


「ほら! 駿もやるわよ!」


 ジュリアが駿にコントローラーを放ってきた。


「駿くん、がんばってください!」

「さっちゃんにそう言われちゃあ、イイとこ見せねぇとな」

「みんな、がんばれ~」


 駿が『ランダム』にカーソルを合わせる。


「よーし! そんじゃ、やるか!」


 クリスマスパーティ、最後の対戦が始まった。


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