第116話 クリスマスナイト (7)
――クリスマスイブの夜
親からの外泊許可を得たジュリア、ココア、キララ、そして幸子。
駿は、部屋の様子をいつでも見られるように、ノートパソコンとコミュニケーションアプリを利用して、インターネット中継を開始。
四人が、そのアドレスを自分の親に送ったところ、娘が心配なのか、興味があってなのか、次々とアクセス。駿を交えた五人とコミュニケーションを図っていた。
ピンポ~ン♪
「千客万来! やっぱり心配なんだな……みんな愛されてる証拠だよ」
「そうなのかな……」
キララがポツリと呟いた。
「キララ、もしもお父さんに『勝手にすれば』とか『一々連絡してくんな』とかって言われたら、どう?」
「そっか……」
「うん、そういうことだよ」
お互いに微笑み合う駿とキララ。
「さて、今度いらっしゃったのは……はじめまして、高橋と申します」
『先程は電話で色々ありがとう、ココアの父です』
「パパだ~」
『ココア、高橋くんに迷惑をかけてないかい?』
「うん、かけてないよ~」
「ココアさーん」
「駿、な~に?」
駿は、にこやかな笑みを浮かべながら、テレビを指差す。
そこには、ココアが勝手に購入した「マリアパーティー2」のタイトル画面が映し出されていた。
「あ」
ヤバイッという顔をするココア。
『ココア、高橋くんに何をしたんだ』
「な、なにもして――」
『ココア!』
「あぅ~……高橋くんのお金で勝手にゲームを買いました~……」
ココアの父親は、画面の向こうで頭を抱えた。
一方で、こちらではジュリアが大笑いしていた。
『ココア、オマエはパパに、高橋くんのことをいつも何て言ってる?』
「私を救ってくれた優しいヒーロー……」
「!」
ココアの言葉に、赤面して頭をかく駿。
『そうだな。高橋くんは優しい。きっと今回のことも笑って水に流してくれるだろう。でも、ココアはそれでいいのか?』
「…………」
『高橋くんの優しさに寄りかかっているだけではいけない。優しくされたら、ココアも優しさを返しなさい』
「はい……」
「あのココアさんのお父様……」
『何だい、高橋くん』
「私、いつもココアさんから優しさや元気をいただいていますし、とても仲良くさせてもらっています。ゲームのことを言ったのも、ちょっとココアさんをからかってやろうと思っただけなんです。全然問題ありませんので……」
『ココア、高橋くんはまたオマエを庇ってくれているぞ』
「…………」
『これが当たり前だと思うなら、もう高橋くんとの友達付き合いはやめなさい。外泊の許可も取り消す。すぐに帰ってきなさい』
部屋の中がザワつく。
「えっ、なんで……」
『高橋くんに失礼だ』
「あ……」
ココアは反論できず、うつむいてしまった。
「お父様、ココアさんを責めないでください。これが私たちの付き合い方ですので」
『付き合い方?』
「はい、お互いにバカやって、お互いに許しあって、お互いに笑い合って……高校生の今しかできない付き合い方だと思います」
『ふむ……』
「ここにいるみんなは、そうやって支え合って高校生活を送っています。私は、これもひとつの絆だと思っています」
『しかし、こんなことが続けば、高橋くんだってココアを見限るだろう』
ビクッと身体を震わせるココア。
「いいえ、それは絶対にないです」
『なぜそう言い切れる』
「約束しましたから」
『約束?』
「はい、ココアさんを絶対に守ると」
ココアはバッと顔を上げ、駿を見た。
「駿、それはもう……」
「『もう』? 『まだ』有効だぜ」
ココアに笑顔で答える駿。
「それに、さっき新しい約束をしましたから」
『新しい約束……』
「はい、これからも仲良くすると」
『それは、ココアを甘やかすだけにならないかね』
「本当にダメなこと、イヤなことをされれば、それはハッキリと言いますが、そんなことをされたことはありません。ココアさんは、本当に優しい心を持った女の子です。お父様が愛情を注いで育てられた証だと思います」
『むぅ……』
「それに、ココアさんに微笑まれると、大抵のことはどうでもよくなっちゃいますね」
駿は、たははっと笑った。
「駿のスケベー」
「ココア、胸大きいしね」
「駿くん、やっぱりオッパイ大きい方がいいですか……?」
「オマエらは、すぐそうやってすぐオレをからかうんだから! さっちゃんまで!」
苦笑いする駿を、大笑いする三人。
『ココア……』
「はい……」
『お前は良い友達に恵まれたな……』
「うん……!」
『みんなへの感謝を忘れないように、いいね?』
「わかった!」
『高橋くん、ココアをよろしくお願いいたします』
「はい、大切にお預かりいたします」
『じゃあ、ココア。時々覗かせてもらうから』
「パパ」
『なんだ?』
「メリークリスマス」
『うん、ココア、メリークリスマス』
パソコンの画面から、微笑みを浮かべたココアの父親の姿が消えた。
駿の胸に飛び込むココア。
「優しいパパさんで良かったな」
ココアは、駿の胸の中で頷いた。
「ココア……そろそろ離してくれないと……パパさん見てるかと……」
「ふふふ~、じゃあ、離さな~い」
「ちょっ……! パパさん、見てるって! オレ、パパさんに殺されるよ! みんなも笑ってる場合じゃねぇって!」
ひとり焦る駿を、女性陣はみんなで大笑いしていた。
少し名残惜しそうに身体を離すココア。
「これでジュリアのお母さんから連絡が来たら、コンプリートだな」
「あー……今日は店も忙しいだろうし、さすがに連絡はしてこねぇよ」
「そっか、イブだからお客さんも多いか……」
「寂しい男どもの慰めの場だから」
「そういう風に言うなって……世の男たちは、みんな疲れてるんだから」
「駿も将来常連になっちゃうかもな」
「お母さんによろしく言っといてくれ……」
ジュリアは、ケラケラ笑っている。
ピンポ~ン♪
「お? 誰だろ…………ジュリア」
「ん?」
「コンプリートだ」
「ウソ⁉」
「こんばんは。はじめまして、高橋と申します」
『ジュリアの母です。ジュリアがいつもお世話になっております』
パソコンの画面に映ったのは、ジュリアの母・
「ママ!」
『あ、ジュリア! 皆さん、ウチの娘です』
『ママさん、娘さん、すごい美人じゃない!』
『うわっ、ホントだ! こんばんはー!』
「マ、ママ? これは何事……?」
『ゴメンね、常連のお客さんがジュリアを見てみたいって』
「あのね……」
『ゴメン、ゴメン。はい、皆さん、終わりですよー』
『ジュリアちゃん、じゃーねぇー』
『娘ちゃん、メリークリスマース!』
「お客さん、いい感じに酔っ払ってるね……」
『みんな仕事が忙しいし、ストレスにさらされて、大変なのよ。せめてお店で呑んでる時くらいはね……ジュリアは楽しんでる?』
「うん、みんな一緒だし、楽しいよ!」
『そっか、それなら良かったわ』
「うん」
『たくさん遊んで、楽しい夜を過ごしなさい』
「うん……」
『せっかくクリスマスイブに男の子の部屋にいるんだしね、ふふふっ』
「…………」
『どうしたの?』
「…………」
『ジュリア?』
「ごめんなさい、ママ……」
『えっ?』
ジュリアは、我慢できず涙をこぼす。
「ママ、働いてるのに……遊んでてごめんなさい……」
『ジュリア……』
「い、いつも、わがまま言って……あぅ……ご、ごべんなざい……」
『やだ……ジュリ…………』
画面の向こうでも、紅葉がハンカチで目頭を押さえている。
その様子を見ていた客が声を掛けた。
『ママさん、良かったな! 娘さん、ママさんの苦労をちゃーんと分かってるよ』
『ジュリアちゃんだっけか。その言葉が、ママさんには一番のクリスマスプレゼントだよ』
『ママさんは幸せもんだな。こんな優しい娘さんがいて』
顔を上げた紅葉は、目に涙を浮かべながらも、満面の笑みだ。
『えぇ、私、世界一幸せな母親だわ! だって、世界一の娘がいるんですもの!』
その言葉に、画面の向こうで客が大きな拍手を送った。
「ママ……」
『ジュリア、ママこそゴメンね……あまり母親らしいことができてなくて……』
「ママは、世界一のママだよ!」
『ありがとう……ジュリア、愛してるわ』
「ママ、私も愛してる」
ふたりは、画面を通じて笑顔を送り合う。
『ジュリア、今、楽しめる時にたくさん楽しみなさい。そして、皆さんとの友情や絆をしっかり結びなさい』
「うん」
『これから大人になっていく中で、色々な辛いことや不条理なことがジュリアの身に降り掛かってくると思う』
「うん」
『そんな時に、皆さんとの友情や絆は、必ずジュリアの力や糧になるからね』
「うん」
『そして、皆さんが辛いことや不条理なことに苦しんでいたら、ジュリア、必ずアナタから手を差し伸べなさい。いいわね?』
「わかった、ママ」
『高橋くん、キララちゃん、ココアちゃん、それに、さっちゃん、だったわよね』
「はい、山田 幸子と申します」
『うん、ジュリアからよく話を聞いているわ。ジュリアと仲良くしてくれて、ありがとう』
「とんでもございません。こちらこそ、ジュリアさんには、いつもお世話になっております」
画面に向かって頭を下げる幸子。
『ふふふっ、可愛い子ね』
紅葉は、優しい微笑みを浮かべた。
『皆さん、ジュリアをよろしくお願いいたします』
深々と頭を下げる紅葉。
「ジュリアさん、大切にお預かりいたします」
『高橋くん、よろしくね』
「はい!」
『じゃあね、ジュリア』
「ママ! 年末年始、お休みだったら……その……」
『一緒に寝よっか』
「うん! またおしゃべりしよ!」
『楽しみにしてるわ。じゃあね』
紅葉との通話が終わった。
「ジュリアは、ママさんのことを気にかけてたんだな……」
「うん、あーし、いつもわがまま言って迷惑かけてるから……」
「でもさ、そんなわがままも、ママさんはきっと愛おしく感じてると思うよ」
「そんなこと……」
「ジュリアは、無理なわがままは言ったりしないだろ?」
「うん……」
「そういう優しい気遣いを、ママさんは分かってると思う」
「うん……そうならいいな」
「ほら」
ジュリアにハンカチを差し出す。
「ありがと……何かみっともないとこ見せちゃって……」
「どこがだよ。こんなにキレイな涙、オレ見たことねぇよ」
「そうだよ、ジュリア。深い親子愛の証でしょ」
「私も感動した~」
「ジュリアさん、お母様とのやり取り、とてもステキでした!」
ハンカチで目頭を押さえたジュリア。
「みんな、ありがとね……」
駿は、ジュリアの頭を軽くポンポンと叩いた。
「それにしても、全員の親御さんから連絡来たな。ライブ中継、大人気!」
「駿もよく思い付いたよね……お父さん、落としちゃったもんね……」
「まぁ、でもこれで安心してもらえればね。みんなも安心だろ?」
「根性無しの駿が、私たちに手を出すとは思えな~い」
「あーしも特に心配はしてない。駿、チキンだし」
「大事なところで意気地なしだからね、駿は」
「オ、オマエら……オレだって一応男なのに……」
ガックリ落ち込む駿。
「あ、あの、駿くん、私、心配ですよ。や、やっぱり男の子の部屋にいますので、ハイ!」
幸子は、明らかに気を使っていた。
さらに落ち込む駿。
「よし、よーく分かった……この悔しさは『マリアパーティー2』で晴らす!」
「よっしゃ! あーしも腕が鳴るぜ!」
「ジュリアの鼻っ柱をバッキバキに折ってやるわ……」
「私も今度は一位取れるように頑張ります!」
「打倒さっちゃん~! ビリはもうイヤ~!」
みんなコントローラーを持って、目が燃えている。
「じゃあ、ゲーム大会を再開すっか!」
「おーっ!」
無事外泊許可が取れた四人は、駿と共にゲームをたっぷりと楽しむのだった。
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