第115話 クリスマスナイト (6)
――クリスマスイブの夜
親からの外泊許可を得たジュリア、ココア、キララ、そして幸子。
駿は、部屋の様子をいつでも見られるように、ノートパソコンとコミュニケーションアプリを利用して、部屋の様子のインターネット中継を開始。
四人は、そのアドレスを自分の親に送った。
ピンポ~ン♪
パソコンからチャイムの音がした。
「おっ、早速見に来てくれたのかな」
駿は、ノートパソコンの画面上で点滅している呼び鈴マークをクリックする。
「澄子さん、こんばんは」
『高橋(駿)くん、こんばんは』
「えっ、お母さん?」
驚く幸子に、画面の向こうから手を振る澄子。
『さっちゃん、元気?』
幸子は、満面の笑みで画面の澄子に手を振った。
「うん! 元気だよ!」
「さっちゃんのお母さんなの?」
驚くジュリア。
「はい、そうです! あっ、お母さん、みんなを紹介するね!」
『うん、ぜひお願い』
「こちらがジュリアさん! いつも仲良くしてくれてるの! それから、いつも優しく抱きしめてくれるココアさん! いつも助けてくれる私の王子様のキララさん!」
『皆さん、いつもウチの幸子がお世話になっております』
画面の向こうで頭を下げる澄子。
「とんでもございません。私たち、いつも幸子さんに助けていただいていて、本当に救われています」
「あーしのことも、身体張って助けてくれたもんね!」
「さっちゃん、大好き~」
ココアは、幸子を抱きしめた。
『さっちゃん、良いお友達ばかりね』
「うん!」
『皆さん、これからも幸子と仲良くしてやってください』
「お母様、それはこちらのセリフです」
「そうそう、もうあーしたち、さっちゃん無しじゃ生きていけないもんね!」
「ねぇ、さっちゃ~ん」
画面の向こうで優しい微笑みを浮かべる澄子。
「澄子さん、この映像はみんなが帰るまで常時中継していますので、いつでもご覧いただいて、何かあれば先程のように呼び鈴を鳴らしてください」
『はい、わかったわ』
「さっちゃんのママさん! しっかり監視した方がいいですよ!」
『あら、ジュリアさん、なんで?』
「高橋くんと幸子さん、ちょっと目を離すと、すぐにイチャイチャし始めるから……」
「キ、キララ! オ、オマエ、何を言い出すの!」
「イ、イチャイチャなんてしていません!」
『あー……さっちゃん、家でも「駿くん、駿くん」って……』
「わぁーっ! ちょっと! お母さんまでなに言ってるの!」
「さっちゃん、家でもそうなんだ~」
「違います! お母さんの勘違いです!」
駿は、そんなやり取りを見て、顔を赤くして頭をかいている。
『高橋くん、幸子と仲良くしてあげてね』
「は、はい! それは、もちろんです!」
「お母さん、もういいでしょ! もう終わり!」
『はいはい、たまに覗かせてもらうわね』
「はい、いつでも呼び鈴鳴らしてください」
『それでは、皆さん、失礼いたします』
澄子の表示が消えた。
「キララさん! 何てこと言うんですか!」
「いやぁ、まさか家でも『駿くん、駿くん』言って……」
「わぁーっ! 言ってません! 言ってません!」
顔を真っ赤にして、必死で否定する幸子をニヤニヤしながら見ているギャル軍団。
「もーっ! みんなだいっきらいです!」
いつものセリフを吐いた幸子を囲んで、ギャル軍団は大笑いしていた。
ピンポ~ン♪
「お、次は誰だろう……『イトウ』って出てるからキララのお父さんかな?」
「えー……今度は何よ……」
駿がパソコンを操作すると、画面に綺麗な女性が現れた。
「わっ! お父様じゃなかった……キララのお姉さん?」
ニヤつくジュリアとココア。
画面の向こうで女性が嬉しそうに微笑んだ。
「あの……母です……」
「えーっ!」
駿と幸子は、驚きの声を上げた。
「キララさんのお母様、すごくお若くて、すごくキレイ……」
「いや、お姉さんだろ、絶対……」
ハッとする駿。
「あっ! 挨拶が遅れました! はじめまして、高橋と申します。この度はお騒がせしまして、誠に申し訳ございません」
『はじめまして、伊藤キララの母でございます。キララの姉妹に間違えていただけるなんて、とても嬉しいですわ』
微笑むキララの母親に、思わず顔が赤くなる駿。
「あの、今夜のことですが、決してキララさんを傷付けるような真似はいたしません。お約束いたします」
『話は聞いております。こちらも高橋くんやキララのお友達に大変無礼があり、本当に申し訳ございません』
画面の向こうで頭を下げたキララの母親。
「いえ、父親として当然の振る舞いかと思います。キララさんがご両親からの深い愛情に包まれて育てられたことがよく分かりました」
『まだ高校生の高橋くんに、そのように気を使っていただいて……』
「大切な娘さんを、男の私のところでお預かりしているわけですから、取り乱さない方がおかしいです。こちらこそ、急なお願いで申し訳ございませんでした」
駿は、深く頭を下げる。
「お母さん、外泊したいのは私のわがままなの……心配かけてごめんなさい……」
『親に心配をかけている自覚はあるのね?』
「はい……」
『わかった、それならいいわ。それからもうひとつ』
「はい」
『高橋くんがどんな思いで今私と話をしているのか、どんな覚悟で私に頭を下げたのか、それをよく考えなさい』
「はい……」
『あなたの為に頭を下げた高橋くんへの感謝を忘れてはいけません。いいですね?』
「はい……駿、本当にありがとう……」
頭を下げたキララ。
「バッ……キララ、やめろって……キララのためだったら、頭の十個や百個は下げるって」
「駿、それは下げすぎだよ」
ふたりは、顔を合わせて笑い合う。
「キララのママさん、こんばんは! ジュリアです!」
「ココアもいますよ~」
『あら、ふたりとも久しぶりね。最近、遊びに来ないから寂しいわ』
「あ! 新しいスイーツ発見したんで、今後それ持って遊びに行きます!」
『うふふふ、楽しみにしてるわ。待ってるからね』
「はい! キララ、今度遊びに行かせてね!」
「私も行くからね~」
「はいはい、じゃあ後でスケジュール決めよう」
にわかに盛り上がるギャル軍団。
「あ、あの、お母様……」
『はい』
おずおずと幸子が声をかけた。
「はじめまして、山田(幸子)と申します。キララさんには本当にお世話になっておりまして……」
「あっ、ゴメン、さっちゃん! お母さん、紹介します。私たちのアイドル、山田さんです」
『やだ、可愛い子ね! この子がさっちゃん?』
「はい。夏休みに、私を悪漢から救ってくれた白馬のお姫様です」
「白馬のお姫様はチビりませんよ……」
苦笑いする幸子。
キララは、そんな幸子を抱き寄せた。
「大好き……さっちゃん……」
キララの背中に、笑顔で手を回す幸子。
「私もキララさんが大好きです!」
『ふふふっ、ふたりは仲良しみたいね』
「でも、お母さん、もっと仲の良い人がここにいますから」
キララは駿に視線を送った。
「んっ⁉」
突然の振りに驚く駿。
『あら、山田さんと高橋くんは、そういう関係なの?』
「はい」
「!」
幸子と駿は、即答するキララに驚いた。
「ち、ちがいます、ちがいます! わ、私なんて、とんでもないです!」
「オレはそう間違えられても、全然一向にかまわないけどな」
「し、駿くんは、何を言ってるんですか! もう!」
頬を赤く染めながら怒っている幸子。
『みんなとても良い関係みたいね。安心したわ』
「はい、みんな大切な友達です」
『うん、わかったわ。楽しそうだから、たまに覗かせてもらうわね』
「キララさんのお母様、本当にありがとうございます。常時中継していますので、お好きな時に覗いていただいて、何かあればお気軽に呼び鈴で呼び出してください」
『高橋くん、娘をよろしくお願いいたします。じゃあね、キララ。お父さんにも私からもう一度話をしておくから、今夜はクリスマスを楽しみなさい』
「お母さん、ありがとう……」
パソコンの画面から、キララの母親の表示が消える。
「キララは、お母さん似だな」
「き、急に何を言い出すの!」
「美人で、真面目で、真っすぐで……お母さんの良いところを全部受け継いでる感じ」
「あーしもそう思う。キララ、お母さんにそっくりだもん」
「わ、私を褒めたって、何も出ないわよ!」
「うふふ~、キララ、照れてる~」
「コ、ココア!」
わいわいやっている中で、ひとりノッてこない女の子がいた。
キララをふくれっ面して睨んでいる幸子だ。
「ど、どうしよう……また調子に乗っちゃった……」
ひとり焦るキララ。
「今回は、あーしとココアは何も言ってないよ」
「言ってな~い」
「し、駿……」
「えー、オレに振る? なんだよ、もー……」
駿は幸子の隣に座り、片手を耳に当てて、幸子から話を聞く素振りを見せた。
「ふむふむふむ……」
(?)
ハテナマークの幸子。
「キララ、大好きって、抱きしめてくれたら許すってさ」
「え! 私、そんなこと――」
キララは幸子に抱きついた。
「何度でも言うよ……さっちゃん、大好き……」
幸子が駿に視線を送ると、駿はいたずらっぽく笑った。
(まったくもう……)
「キララさん、私も大好きです!」
抱きつき返す幸子。
駿とジュリア、ココアは、お互いに笑顔でサムズアップしあった。
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