第117話 クリスマスナイト (8)

 ――クリスマスイブの夜


 親からの駿の部屋での外泊許可を得たジュリア、ココア、キララ、そして幸子の四人は、インターネット中継による監視付きではあるものの、駿と共にゲームを楽しんでいた。


 ――午前〇時


「よっし! 見たか、ジュリア!」

「ちっくしょーっ!」


 悔しがるジュリアを、ドヤ顔でキララが見ている。


「ジュリアく~ん、振りが甘いよ~」

「駿! このコントローラー、壊れてる!」

「こら、機械のせいにすんな」

「だってー……」

「リズム系だったら、ジュリアの方がうまいだろ」

「クソッ、次こそは……」

「女の子がクソとか言わないの!」


 苦笑いした駿。


「あー、負けちゃいましたー……」

「やった~、さっちゃんに勝った~」


 三位争いは、ココアに軍配が挙がったようだ。


「おぉ、僅差だな」

「連続して振るところでポイントが稼げませんでした……」

「さっちゃんとだと、勝ったり負けたりで、すごくおもしろ~い」

「ココアさん、次は負けませんよ!」

「ふふ~ん、連勝しちゃうもんね~」


 時計を確認する駿。


「十二時回ったけど、眠い人いる?」

「すみません、私、ちょっと眠いです……」

「私も~……」

「さっちゃんとココアのふたりだね。もうちょっとだけゲームやって待ってて」


 駿はキッチンへ向かい、しばらくして部屋に戻ってきた。


「はい、さっちゃん、ココア」


 紙コップをテーブルに置く駿。


「熱いから、ふーふー冷ましながら飲んでね」


 幸子とココアは、紙コップを手に取り、ふーふーしている。


「わっ、甘くて美味しい……」

「何かすごくホッとする味~……駿、これ何~?」

「ハニーホットミルクを作ってみたんだ。安眠につながるかなって」

「駿くん、ありがとう!」

「駿、すごく美味しいよ~」

「ホントはマグカップとかで出せれば格好もつくんだけど……紙コップでゴメンな」

「ううん、すごく嬉しいです!」

「至れり尽くせりだね~、駿、ありがとう~!」


 ふたりに笑顔を返す駿。


「で、寝るところはベッドか、床に座布団並べて電気毛布のどちらかです……」

「し、駿くんのベッドで寝ていいんですか⁉」

「つーか、そこで寝ていただく他ないので……ベッドに三人ギューギューで寝てくれ。残りのひとりは床でよろしく」

「あの……駿くんは……?」

「オレは起きてるから大丈夫」

「えー!」

「あと、洗面所にさっき買ってきた旅行用の歯磨きセットと紙コップ、それとタオルを人数分置いといたから、適当に使ってね」

「駿くん、そこまで……色々ありがとうございます」


 幸子はペコリと頭を下げた。


「リゾートホテル高橋ですので。お気になさらず、お客様」


 駿と笑い合う幸子。


「え~? ラブホテル高橋~? しっぽりご休憩~?」


 パコンッ


「いたい~」


 思わず駿は、ココアの頭をチョップした。


「パパさんが見てるの忘れてねぇか?」

「あ」

「オレはもう庇い切れん……」

「駿、ごめんなさい~」

「ほれ、もう歯磨きして寝ろ」

「はい!」「は~い」


 順番に洗面所を使って、私服のままベッドに潜り込む幸子とココア。


「わぁー、駿くんのベッドだぁー……」

「私、二回目~」

「さっちゃん、思いっ切り男臭いと思う。ゴメンな」


 ベッドに潜り込んだ幸子は、笑顔で駿に答える。


「ううん、そんなことないですよ」


(駿くんのベッドで、駿くんの匂いに包まれて寝られるなんて……夢みたい……)


「さっちゃん、寝よっか~」

「はい、ココアさん」

「さっちゃん、ココア、おやすみ」

「駿くん、おやすみなさい」

「駿、おやすみ~」


 そう言いながらも、幸子とココアはベッドの中でおしゃべりをしている。


「ジュリア、それずるいよー!」

「むはははは、ずるくなーい! 勝てばいいのよ、勝てば!」


 ジュリアとキララは、引き続きバッチバチに対戦継続中だ。


「ほら、駿もやるわよ!」


 ジュリアが、コントローラーを駿に放ってきた。


「ふふふっ、カモがネギしょってやってきたわ……」


 目つきが変わるキララ。


「しょうがねぇな、ぐうの音もでないようにしてやるよ」


 駿はコントローラーを手に、ふたりの間に腰を下ろした。


「よーし、次の対戦いくわよ!」

「おう!」「来なさい!」


 この後、しばらく三人の熱戦が続くのだった。


 ◇ ◇ ◇


 ――午前一時


 ベッドの上では、幸子とココアが静かに寝息を立てていた。

 その横では――


「あー……もう! ちっくしょー!」

「キララ、パーフェクトスコアじゃねぇか……上手すぎるよ……」

「ジュリアも、駿も、相手じゃないわね。おほほほほ」


 ――三人がゴリゴリに対戦していた。


 悔しがるふたりに、勝ち誇るキララ。


「あー、もうあーし眠くなってきた……」

「うん、私もさすがに……」

「ふたりもハニーホットミルク、飲むかい?」

「飲む!」「飲みまーす!」


 駿は、目を輝かせるふたりを見て笑った。


「はい、はい。今作るからちょっと待っててな」


 キッチンへ向かい、しばらくして帰ってきた駿。


「はいよ、熱いから気をつけてな」


 テーブルに置かれた紙コップを手に、ふーふーしているふたり。


「んぐ……わぁー……ホッとする……」

「イブの夜に、男の子の部屋でホットミルク飲むなんて……少女マンガの世界みたいだよ……ね、ジュリア」

「うん、ホントにありがとね、駿」

「こんな狭いアパートの部屋で、紙コップってのが締まらねぇけどな」


 顔を合わせて笑い合う三人。


「それと、どっちがどっちで寝るかはふたりで決めてくれ」


 ベッドを見ると奥にココアが、真ん中に幸子が寝ており、一番外側にもうひとり、かろうじて寝られるスペースがある。


「ジュリアがベッドで寝て。さっちゃんと一緒に寝たいでしょ?」

「キララ、いいの?」

「いいけど……さっちゃんに変なことしちゃダメだからね」

「さすがに寝ているさっちゃんには何もしないよ! 多分……おそらく……努力します……」

「ジュリア、今から帰るか?」

「絶対しません!」


 焦るジュリアを見て、駿とキララはケラケラ笑った。


「んじゃ、歯磨きしてきな。その間に床へ寝るところの準備しとくから」

「うん」「はーい」


 ふたりが順番に洗面所を使っている間に、寝床の準備をする駿。


「じゃあ、ジュリアがベッドな。狭いけど勘弁な」

「ううん、さっちゃんと密着して寝られるし! ムフッ」


 ジュリアは、ニマニマと笑顔を浮かべている。


「ジュリア、カメラで監視されてんのを忘れんなよ」

「わ、分かってるわよ!」


 ベッドに潜り込むジュリア。


「んふふ~、さっちゃ~ん」


 ジュリアは、幸子をぬいぐるみのように抱きしめる。


「まぁ、まだ理性は保ててるようだし、大丈夫……かな」

「私はここでいいのかな?」

「悪いなキララ、こんな即席の寝床で」

「ううん、全然問題ないよ」


 床へ用意された寝床に潜り込むキララ。


「わっ、あったかーい……」


「電気毛布のスイッチ入れておいたからな」

「ありがとう、駿! ねぇ、駿は本当に起きてるの……?」

「うん、オレのことは気にすんな」

「でも……」

「おやすみ、キララ。良い夢を」

「うん……ゴメンね……おやすみ、駿……」


 駿は、部屋の明かりを消した。


 ◇ ◇ ◇


 ――午前一時三十分


 ベッドの三人からも、キララからも、静かな寝息が聞こえてくる。

 駿は、寝ている四人に光が漏れないように、部屋の端へ寄せたテーブルにLEDスタンドを置いて、DTMの解説本を読んでいた。


 バサッ


「ん? あー……しょうがねぇなぁ……」


 ベッドから放り出されたジュリアの足を元に戻して、布団をかけた駿。


「幸せそうな顔しやがって……」


 笑みを浮かべたような顔で眠っているジュリア。

 駿は、テーブルに戻って、解説本を読み進めた。


 ◇ ◇ ◇


 ――午前二時三十分


 ゴソ ゴソゴソ ゴソゴソ


 物音に気付き目を覚ましたキララは、駿がコートを羽織ろうとしている姿が目に入った。


「駿……?」

「あっ、ゴメン、起こしちゃったな……」


 ベッドの三人を起こさないように、小声で会話するふたり。


「どうしたの……?」

「ちょっと、みんなの朝ごはん買ってくるよ……」

「私も行く……」

「いいよ、いいよ。大丈夫だから、キララは寝てな……」

「行くって言ったら、行くの……!」

「わかったよ、じゃあ一緒に行こう……」

「すぐに支度するね……」


 キララは寝床から出てきて、髪を整え、自分のコートを羽織った。


「ちょっと待っててな、カメラの方にメッセージを流しとくから……」


 何やらパソコンを操作している駿。


「OK……ほら、キララ。こんな感じ……」


 キララがパソコンの画面を覗くと、カメラの画面の下の方にメッセージが横に流れていた。


『高橋と伊藤(キララ)さんは、近所の二十四時間スーパーへ外出しています。三十分程度で戻ります。戻りましたら、レシートをお見せします。お急ぎの場合は、高橋の携帯までご連絡ください』


「これなら、キララのお父さんも安心だろ……」

「ここまでやる必要ある……?」

「こんな深夜に高校生の男女が姿消すなんて、キララのお父さんじゃなくても心配するだろ? ちゃんと安心してもらわないとな……」

「そっか……そうだね……」

「じゃあ、いこっか……?」

「うん……」


 駿とキララのふたりは、深夜の街へと出掛けていった。


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