第111話 クリスマスナイト (2)

 ――クリスマスイブの夜


 幸子、ジュリア、ココア、キララの四人は、駿の部屋で買い物に行った駿の帰りを待っていた。


 ガチャガチャ ガチャリ


「ただいまー」

「あ、駿が帰ってきたよ~、お帰り~」

「うん、ココア、ただいま」

「ねぇ、駿! さっちゃん見て、驚くなよ!」


 ニコニコしながら立っているジュリア。


「ん、どういうこと?」


 駿が部屋に入ると、キララが例のリップを持っていた。


(げっ! バレたか……?)


「さっちゃんね、お化粧の練習しようと思って、このリップ買ったんだって」

「へ、へぇ~、そうなんだ」


(バレてないみたいだな……)


 幸子に目を向けると、背を向けている。


「それでさ、私がさっちゃんにこのリップを塗ってあげたんだけど……駿、見て驚かないでね?」

「う、うん……」

「さっちゃん、駿に見せてあげて」


 キララの言葉に、ゆっくり駿の方を向く幸子。


「わぁ……」


 駿は、感嘆の声をあげた。

 美しく艶のあるピンク色の唇は、幸子の魅力を大きく引き上げている。


「し、駿くん……似合いますか……?」

「可愛い……」

「えっ」

「スッゴイ可愛いよ、さっちゃん! 見違えたよ!」


 満面の笑みで幸子を褒めた駿。


「駿くん……ありがとう……」


 幸子は目に涙をためながら、笑顔で答える。

 それを見て、ギャル軍団はハイタッチしあった。


「さっちゃん、随分いいリップを買ったわね。色もナチュラルカラーでクドくないし、ケースにネームまで入ってるし、すごくセンスいいわ」


 ちらりと駿を見るキララ。


(あれ? まさか……)


「このリップ、口紅を塗る時のベースにしたり、口紅の上に塗ってツヤを出したりすることができるから、次は口紅がいいかもね」


 キララは、駿を見るとウインクした。


(あ……こりゃ、キララにはバレてるかな……)


 苦笑する駿。


「ほら! ゲーム大会やるんでしょ! はやくはやく!」


 ジュリアがコントローラーを持って、みんなを急かしていた。


「おぅ、そうだな! さっちゃん、一緒にやろう!」


 幸子に手を差し伸ばす駿。


「はい……!」


 駿の手を握った幸子。

 幸子は本当に嬉しそうだ。

 キララと目が合った。


(キララさん、本当にありがとう……)


 気持ちが通じたのだろう。

 キララは、笑顔で頷いた。


「タッツンとかが来た時に買った四人で遊べる『マリアパーティー(最大四人で遊べるミニゲーム集)』があるから、それやろうよ。『マリアパーティー』なら、さっちゃんやココアでも楽しめると思うし」


 駿の提案に、ココアが挙手した。


「駿~」


「なに、ココア?」

「『マリアパーティー2』買っちゃった~」

「へ?」


 スヴィンチの電源を入れて、インストール済みのゲームを確認する。


「『マリアパーティー2』がある! オ、オマエ、まさか……」


 オンラインストアの残高を確認した。


「!」


 残高がガッツリ減っていた。


「てへっ」

「オ、オマエーッ! てへっ、じゃねぇーだろぉ!」


 半泣きの駿を、大笑いするギャル軍団。


「まぁ、いいじゃん、あとで遊べるんだし」


 ジュリアが興味無さそうに答えた。


「パーティーゲームをひとりで遊べってか? 寂しすぎるだろ!」

「はいはい、じゃあ、あーしが一緒に遊んであげるから」

「私も、私も~」

「オマエらは、放課後にたむろするアジトがほしいだけだろ!」

「さっちゃん、誘ってあげるよ……」


 キララの一言に、急に真顔になる駿。


「……マジ?」

「駿、チョロ~イ」


 ココアは、そんな駿を見てケタケタ笑っていた。


「もー! 私をダシにしないでください!」


 クリスマスイブの夜、駿の部屋は暖かい笑いに包まれていた。


 ◇ ◇ ◇


「ぐわぁーっ! キララ、めちゃめちゃ上手い……勝てねぇよ……」

「駿くん、負けちゃいましたね……」

「ゴメンな、さっちゃん」

「最後のカーブまでトップでしたから……惜しかったですね」


 笑い合う駿と幸子。


 テレビの画面は四つに分割表示されていて、そのうちの一つには、女の子のキャラクター・マリアが表彰台の最上段で、優勝カップを手に笑顔を振りまいていた。キララが使っていたキャラクターだ。

 その隣の画面には、カートに乗った犬のキャラクター・ヴォッシーが表彰台の一段低いところで、マリアを拍手していた。こちらは駿が使っていた。


「駿はねぇ、コーナーのコース取りが甘いんだよね」

「最終コーナーで、ドリフトしているオレの内側をドリフトで抜けていったもんな! 敵ながら、カッケー! ってなったよ!」


 ふふんっ、とドヤ顔のキララ。


「やった~、勝った~♪」

「いやぁーっ、ココアに負けたぁーっ!」


 バンザイして大喜びしているココアと、床に頭をつける位ガックリしているジュリア。


「ジュリアちゃんに勝っちゃった~」

「あー、もー! 次よ、次! 次は、得意なリズム系のゲームが出ますように……」


 ジュリアが「ランダム」を選択して、コントローラーのボタンを押す。

 収録されているパーティーゲームの中からランダムにミニゲームが選び出される仕組みだ。


「来い……来い……来い……」


 テレビの画面に「リズムでお掃除」の文字が表示される。


「キターッ! さぁ、早く対戦するわよ!」

「これカンタンだから、さっちゃんやってごらん」

「はい! 頑張ります!」

「う~……私、鈍くさいからリズム系苦手~……」

「ここらでジュリアの鼻っ柱を折ってやりますか」


 リズムに合わせて、コントローラーを振っている四人。

 真剣なジュリア、楽しそうな幸子、ちょっともたついているココア、涼しい顔のキララ、それぞれ性格が出ていて、駿は見ているだけでも楽しかった。


「いっちばーん!」


 ジュリアは、ガッツポーズを決める。


「チッ……」


 悔しそうな二番のキララ。


「やったー、ココアさんに勝ったー!」

「あ~ん、さっちゃん強い~……」


 幸子が三番で、残念ながらビリはココアだった。


「さぁ、張り切って次行くわよー!」

「あぁ、悪い。ちょっとタンマ」

「なに、駿! 今、いい感じなんだから、用があんなら早く!」

「ジュリア、落ち着け」


 苦笑いする駿。


「もういい時間だから、そろそろお開きにしようよ。ほら」


 駿が指さした時計は、もうすぐ午後十時であることを示していた。


「バスはまだ余裕あると思うけど、念のため、ここらで切り上げた方がいいでしょ」

「えー」


 ジュリアは、不満の声を上げる。


「また今度、みんなで集まって遊ぼうよ、な」


 みんなも何となく不完全燃焼な感じだ。


「ねぇ、駿~……」

「ん?」

「あの~……」


 ココアは、うつむいてモジモジしている。


「家まで送っていこうか?」


 首を振るココア。


「あのね~……」

「うん」


「泊まっちゃダメ……?」


「へ?」


 おずおずと挙手したジュリア。


「あのー……あーしも、泊まりたいなぁ……なんて……」

「い、いやいやいや、待てって! それはダメだって!」

「えー、なんでー?」

「なんでって、ひとり暮らしの男の部屋に泊まるって、明らかにダメだろ!」

「みんないるし~」

「全員女の子だぞ、ダメでしょ!」


 そんなやり取りを見て、幸子はひとりあたふたしている。


「じゃあさぁ、駿。こういうのは?」

「な、なに、キララ」


 ニッコリ笑ったキララ。


「親の承諾を得たらOKっていうことで、どう?」


 駿は悩む。


「分かった……ただし、プラスアルファ、条件がある」

「条件?」


 頷いた駿。


「きちんと男子の家に泊まるって言う事。それと、オレにもみんなの親と話をさせること」

「ふむ……」


 キララは、駿から条件をつきつけられて、考え込む。


「親にウソついてウチに泊まるくらいなら、ここでお開きにしよう」


 四人を見渡した駿。


「どうかな?」


 キララは頷く。


「うん、分かった。親に正直に話して、許可を得るよ。みんなもいいよね?」


 渋々ながらも頷いたジュリアとココア。


「さっちゃんは家まで送っていくからね。安心して」


 駿は優しく微笑んだ。


「駿くん! わ、私も、お泊り、し、したいです…!」

「えっ?」

「ちゃんとお母さんから許しを得ます……だ、だから、私も泊まっていいですか……?」


 うつむいたままの幸子。


「うん、OKだよ。ちゃんとお母さんと話をしてね」


 嬉しそうな表情を浮かべて、顔を上げる幸子。


「はい!」


 こうして四人は「男の部屋での外泊許可」を得るために、自分の親と連絡を取り始めた。


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