第108話 クリスマスイブ (9)

 ――クリスマスイブ カフェ&ライブハウス BURN


 駿、幸子、ジュリア、ココア、キララの五人は、ライブハウスで開催されているクリスマスパーティに参加している。


「さっちゃん、ゴメンって~」


 幸子に、両手を合わせて謝っている駿。


「駿くんは、レイカさんのところにでも行けばイイんじゃないですか?」

「さっちゃ~ん」


 幸子は、そっぽ向いてしまう。


「ご、ごめんね、さっちゃん、ちょ、ちょっと調子乗っちゃった……」

「あーしもつい余計なことを……」

「えへへ、さっちゃんのオッパイ揉んじゃった~」

「ココア!」


 キララとジュリアがココアを叱る。


「ご、ごめんなさ~い……」

「ココアさんたちもヒドいです! もう!」


 ご機嫌斜めなままの幸子。


「あ! じ、じゃあ、私ケーキ持ってくるよ! 新しいのが出てたから!」

「あーしも! キララ、あ、あーしも一緒に行く!」

「わ、私、飲み物取って来る~」


 三人は幸子のご機嫌を伺うべく、デザートコーナーへと向かっていった。

 テーブルでふたりきりになる駿と幸子。


「あの……さっちゃん……」

「なんですか……」


 幸子は、駿をじとーっと見つめた。


「ちょっとだけ、お話が……」


 幸子の顔色を伺い、モジモジしている駿。


「ぷっ……まったくもう! はい、なんでしょうか?」


 そんな駿を見て思わず吹き出し、幸子は笑顔で駿と向かい合った。


「あのね、さっちゃん……その……」


 幸子は笑顔が見られると思っていたが、なぜか駿はまだモジモジしている。


「えーと……」


 顔がどんどん赤くなっていく駿。


「駿くん……?」


 駿は、ポケットから小さな包みを取り出した。

 ピンクのリボンで飾られた、白いかわいい包みだ。


「あの……もらってくれないかな……」

「えっ……?」


 チラチラとデザートコーナーを確認する駿。

 キララたちは、まだ向こうでワイワイやっていた。


「さっきのリングは、友達としてのプレゼントでね……その……」


 意を決したように顔を上げ、幸子を見つめる駿。


「これはオレの個人的なさっちゃんへのプレゼント……」

「わ、私に……?」

「気に入ってくれるか分からないけど……もらってくれたら嬉しい」

「あ、開けていいですか……?」

「うん」


 リボンを解き、包みを開けると、高級ブランドのリップが入っていた。

 しかも、ケースに『SACHIKO』と刻印までされている。


「駿くん、これ……」


 苦笑いした駿。


「ゴメンね、リップが精一杯なんだ。そのうち、もっといいのを――」


 幸子は、首を左右に振り、言葉を被せる。


「これ以上いいものなんて無いよ……私なんかのために、本当にありがとう……」


 声を震わせて涙を浮かべる幸子に、駿は優しく微笑んだ。

 そして、幸子も意を決したように顔を上げる。


「駿くん!」

「は、はい!」

「あのね……わ、私も……」


 自分のポシェットからスカイブルーの小さな包みを取り出した。

 白いリボンがかけられている。


「どうしても勇気が出なくて……渡すのは諦めようって、思っていました……」

「さっちゃん……」

「駿くん……私からのクリスマスプレゼント、もらっていただけませんか……?」

「喜んで! 開けていいかな?」

「はい、喜んでいただければいいのですが……」


 リボンを解き、スカイブルーの包装紙を開くと、無地の白い箱が出てきた。

 そして、箱の中には、小さな木の箱が入っている。

 そこには『SHUN』と刻印されていた。


「オレの名前!」


 手に取り、そっと蓋を開ける。

 そこには木製のピックが三枚入っていた。

 そのすべてに『SHUN』の刻印がされている。


「木製ピックだ……! さっちゃん、ありがとう!」

「お小遣いで買える範囲のものなので、良いものかどうか分かりませんが……」

「そんなの関係ないよ! さっちゃんからのプレゼントだもの! これ使わせてもらうね! あっ、その時は、さっちゃんにも聴いてもらうからね!」

「はい! 楽しみにしています!」


 ふと、デザートコーナーに目をやる駿。


「や、やばい、アイツらが帰ってくる……さ、さっちゃん!」

「はい! か、片付けましょう……!」


 ふたりは、慌ててお互いのプレゼントをしまった。


「はい、さっちゃん! お待たせー……って、随分ご機嫌ね」


 鋭いツッコミを入れるキララ。


「そ、そんなことないですよ……」

「ね、キララ、言った通りでしょ?」

「そうね、ジュリアの言った通りね」

「えっ? 何がですか?」

「うふふ~、駿とふたりきりにしとけば、さっちゃんの機嫌良くなる~って」

「だから、中々帰ってこなかったんですか⁉」


 ニヤニヤしながら幸子を見つめるジュリア。


「なんかふたりでコソコソしているから、お邪魔しちゃ悪いかなぁって」

「だって、近寄れない雰囲気だったもんね」

「そのまま帰っちゃおうかと思っちゃった~」


 駿は、何とも言えない表情をしながら頭を抱えた。


「え……あの……と、とにかく、ケーキ食べましょう!」


 照れる幸子の様子を見て、ケラケラ笑っている三人。


(まさか、さっちゃんもオレのために用意してくれていたとは……まぁ、オレもプレゼント渡せたからいっか……)


 幸子は、また三人から揉みくちゃにされていた。


(こんなフニャチン野郎でも、勘違いしちゃっていいのかな……)


 じゃれ合う幸子たちを見て、駿はひとり複雑な表情で微笑んだ。


 ◇ ◇ ◇


「みんな、もう八時になるけど、時間は大丈夫?」

「うん、私は大丈夫だよ」

「あーしも」

「私もOKです~」

「さっき、お母さんに連絡入れたので、まだ大丈夫です」


 デザートもたくさん食べ、みんなコーヒーで一息ついているところだ。


「じゃあ、どうしよっか。カラオケでも行く? イブだし、混んでるかな……?」


 ニヤリと笑うジュリア。


「ねぇ、駿。さっき、ウチらでこの後のことをちょっと話したんだけど……」

「うん、ステージワン(複合大型娯楽施設)でもいいぞ。ダーツでもやるか?」

「みんなでダラダラとダベりたいなぁと……」


 キララがリクエストを出した。


「んじゃ、いつものカフェレストランでドリンクバーがいいかな? ここにいてもいいし」


 にっこり笑ったココアが顔を近づけてくる。


「駿の部屋に行きたいなぁ~」


 驚く駿。


「えっ、ウチ⁉」

「ほら、イブの夜を男の子の部屋で過ごすって、ステキじゃない」


 キララは、夢見る少女だった。


「い、いや、男の子ったってオレだし、しかもあの狭い部屋だぞ……」

「そこは我慢すっから」


 ジュリアは、現実的だった。


「我慢するくらいなら来んなっつーの……」


 苦笑する駿。


「でも、ステキな思い出になるよね~……駿、ダメ~……?」

「う~ん……あっ! でも、ほら、さっちゃんはボウリングとかの方が――」

「駿くんのお部屋に行きたいです!」


 幸子は即答した。


「ほーら、あーしたちだけじゃなくて、さっちゃんも行きたいって!」

「マジか……」


 頭を抱える駿。


「わかったよ……そんじゃ、ウチ行くか」

「やった~っ!」


 四人は歓声を上げた。

 小さくため息をつく駿。


「ちょっと、駿! あーしたちみたいな美少女が、アンタの部屋に遊びに行くんだから! ちょっとは喜びなさいよ!」

「ばんざーい……」

「何かムカつくんですけどー……」


 ジュリアは、人差し指を駿の頬に押し当てて、グリグリした。


「まぁまぁ、ジュリアいいじゃない。駿も快諾してくれたんだし」

「そうそう、気の変わらないうちに早く行こう~」

「二回目ですけど、やっぱりドキドキしちゃいますね!」


(四人が喜んでくれるなら、いっか……)


「よし! みんな支度しておいて!」

「は~い」


 帰り支度を始める四人。

 駿は、そのすきにテーブルの食器類を片付け始めた。


「あっ、いいよ、私やるから……」


 駿の行動を察して、キララは席を立とうとしたが、駿はそれ制止する。

 三人は気付いていないようだったので、コソッと話した。


「こっちは大丈夫だから……」

「いや、だって……」

「今日はそういう日ですよ、キララお嬢様……」


 駿は、クククッと笑い、食器類を乗せた銀トレイを持ってバーカウンターへ向かっていく。


(まったく、あの天然女たらしは……まいったわね……)


 頬を赤く染めつつも、複雑な表情を浮かべるキララ。


「キララさん……?」


 幸子が心配そうな顔をして、キララを見ていた。


「ん? 何でもないよ! さ、早く支度しちゃお」

「はい!」


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