第107話 クリスマスイブ (8)

 ――クリスマスイブ カフェ&ライブハウス BURN


 駿、幸子、ジュリア、ココア、キララの五人は、ライブハウスで開催されているクリスマスパーティに参加。

 駿は、普段から仲良くしてくれているお礼に、女性陣へのクリスマスプレゼントを用意していた。


 しかし――


「ココア……? どうしたの?」


 キララが、おとなしいココアに気付いた。

 複雑な表情を浮かべているココア。


 「わ、私、これもらえない……」


 駿は、用意したネックレスが気に入らなかったのかと慌てた。


 「あ……ゴメンな、ココア……じ、じゃあ、今度買いに行くか! な!」

 「違うの! 違うの……」


 涙をポロポロこぼすココア。


 「わ、私、いつも駿にも迷惑かけてばっかりで……いつも助けてもらってばっかりで……そのお礼すらで、できてないのに……わ、私……私、駿に何にも返せてないよ……」


 ココアは涙をこぼしながら、自分の膝の上で手をぎゅっと握っていた。

 その手を両手で包み込む駿。


「ココア、こっち向いて」


 ココアは、涙をこぼしながら駿を見つめた。


「オレ、ココアからはいつも元気をもらってるよ。それでも十分だけど、もしもココアがそれに納得いかないなら、約束してよ」

「約束……?」

「うん、これからもオレと仲良くするって、友達でいるって。それで、オレが困った時にオレを助けてよ」

「そんなことでいいの……?」

「ココアたちとは、小学生時代からの知り合いだけど、こうやって仲良くなったのって、高校生になってからだよな」


 頷くココア。


「オレさ、今、すごく楽しいんだよ。さっちゃんがいて、ジュリアがいて、キララがいて、そしてココアがいてくれてさ。可愛い女の子に囲まれて、オレ、ウハウハなんだぜ」

「ぷっ……」


 ココアは、思わず吹き出した。


「みんな可愛いだけじゃなくて、優しいイイ子ばっかりで、そんなココアたちとアホなこと言いながら、勉強したり遊んだりするのが楽しくて仕方ないんだよね」


 涙ながらに微笑むココア。


「だから、オレとこれからも仲良くしてくれよ。このネックレスは、その前払いのお礼だ」


 ココアは、涙をこぼしながら何度も頷いた。


「ねぇ、駿。ココアにもつけてあげてよ」

「え、私……」

「OK!」


 キララの提案に、ふたつ返事で返す駿。

 ココアは、慌てた様子で幸子をチラチラ見ている。


「さ、さっちゃん、ゴメ――」


 ココアの手をそっと握った幸子。


「ココアさん……ね?」


 幸子は、優しい微笑みをココアに向けた。


「うん、ありがとう……」


 ネックレスをココアにつける駿。

 が、苦戦する。


「なにやってんのよ、ぶきっちょね!」

「ジ、ジュリア、そんなに煽るなよ……ほら、できた!」


 ココアの胸元で、ジルコニアが輝いている。

 健康的な黒く焼けた肌ときれいな銀髪に、ゴールドのネックレスが良いアクセントになっていた。


「ココアさん、キレイ……」

「うん、胸元の輝くダリアがすごく良い感じ!」

「駿、センスいいわね……」

「みんな、ありがとう~……駿、どうかな……?」

「うん、似合ってる。ものすごく可愛いよ」


 笑顔で答えた駿。


「えへへ、嬉しい……駿、ありがとう……私、大事にするからね……」


 胸元のダリアを両手で包み込み、抱きしめるココア。

 駿たち四人は、お互いにサムズアップして笑顔を交わした。


 女性陣は、お互いにもらったアクセサリーを見せ合いながら、ファッション談義に花を咲かせている。


(みんなに喜んでもらえて良かった……! でも、もう一個……)


 駿のコートのポケットには、リボンのついた小さな包みが入っていた。


(みんなには友達として……これは、さっちゃんだけ特別に……って、気持ち悪がられるかな……)


 自分のことになると、途端に自信の無くなるチキンな駿であった。


「へぇ~、駿にしちゃ気の利いたことやってんな」


 仕事の合間に、再び龍司がテーブルに顔を出す。


「みんなには、いつも世話になってるからね」

「いい心掛けじゃねぇか。ただ、もうちょっとどうになんねぇか?」

「というと……?」

「女の子には、もうちょっとイイやつをあげろよ、駿」

「オレ的に精一杯なんだけど……」

「どっかから金借りてくりゃいいじゃねぇか。紹介してやろうか?」

「返済し切れないタイプの金貸しでしょ、それ!」

「男は見栄張ってなんぼ。少し位借金抱えたって構わねぇだろ」


 視線を落として、頭をかく駿。

 龍司はテーブルに身を乗り出した。


「なぁ、みんな、おじさんがもっといいヤツをプレゼントするよ。今度、みんなでジュエリーショップ行こうか! その帰りにどっか遊び行こうよ! ね!」


 資本力の差を見せつける龍司。

 駿は、複雑な表情を浮かべていた。


「叔父様」

「お、なんだい、さっちゃん! おねだり聞いちゃうよ!」

「そのお話、私はお断りします」

「えー、さっちゃんに似合うもっとイイ指輪を買ってあげるよ?」

「今、目の前に一億円の指輪を差し出されても、私はこの指輪を選びます」


 自分の左手に輝くピンキーリングをそっと触れる幸子。


「そのデザインが好きなら、同じので、もっとちゃんとした宝石のヤツを……」


 幸子は、首を左右に振った。


「私が求めているのは、金銭的な価値ではありません。気持ちです」

「気持ち?」

「はい、駿くんが一生懸命アルバイトして、私のことを思って買ってくれたこの指輪は、どんなに高価な指輪よりも私にとっては価値があります」

「さっちゃん、若いねぇ。社会に出れば分かると思うけど、結局はブランドとか金銭的なところで判断されちゃうのよ。そんなの着けてたら、周りから笑われちゃうかもよ?」

「笑いたければ、笑えばいいと思います。笑う人は、金銭でしか物の価値を計れない可哀想な人だと思いますので。叔父様も、そんな可哀想な人なのでしょうか?」

「…………」


 困ったような微笑みを浮かべ、言葉の出ない龍司。


「それと、この指輪を『そんなの』呼ばわりするのはやめてください。不愉快です。駿くんにも失礼です。撤回してください」

「いや、そうじゃなくて――」

「撤回してください」

「さっちゃ――」

「撤回してください」


 困ったように笑う龍司。


「わかった……撤回する。ごめんな、さっちゃん、駿」


 幸子は、ほっと息をついた。


「みんなもゴメンな、ちょっとからかってやろうと思っただけなんだよ。駿も冗談だから気にすんな」

「叔父様……」

「おう、キララちゃん……だったよな」

「はい。私たち三人も、さっちゃんと同じ気持ちです。駿からもらえたから嬉しいんです」

「あーしたち、男の子からプレゼントもらったのなんて初めてだし……」

「こんなに気持ちのこもったプレゼント、嬉しくないわけないです~」


 顔を見合わせながら笑う四人。


「そっか……そうだよな。おい、駿、良かっ……」


 駿は、目頭を押さえたままうつむいていた。

 駿の頭をクシャクシャっと撫でる龍司。


「駿、安心したぞ」


 龍司は優しく微笑んだ。


「みんな、ゆっくりしてってな。邪魔しちゃって悪かった」

「叔父様、生意気言って、申し訳ございませんでした……」


 立ち上がり、頭を下げる幸子。


「さっちゃん。駿のこと、よろしくな」

「はい!」


 龍司は立ち去っていった。


「駿くん……」

「ごめん……」


 幸子の呼び掛けに、震えた声で返した駿。

 幸子は、そんな駿の頭をそっと自分の胸に抱き寄せる。

 そんなふたりを、三人は優しい眼差しで見守っていた。


 駿が顔を上げる。

 目が赤い。


「あー、もー、オマエらの優しさが胸に来ちまったよ」


 そんな駿に、ニヤニヤしながらキララが尋ねる。


「駿、さっちゃんの胸はどうだった?」

「な、何言ってるんですか、キララさん!」

「そりゃもう、ふわふわで柔らかでした」

「駿くん!」

「そうなのよ! 私も揉んだことあんだけど、ぺったんことか言う割に、ほのかな柔らかさが……」

「ジュリアさんまで何言ってるんですか! ……って、ココアさん?」


 ココアが幸子を後ろから抱きしめていた。


「むっふっふ~……えいっ!」


 幸子の胸を後ろから鷲掴みにして、揉みしだくココア。


「わぁ~、さっちゃん、やわらか~い」

「コ、ココアさん! 何やって……ちょ……もうーっ!」

「駿もやってくれば」


 キララは、しれっと駿をけしかけた。


「じゃあ、さっちゃんからクリスマスプレゼント、もらっちゃおうかなぁ~」


 幸子に向けて、両手をワキワキと何かを揉むように動かす駿。


「駿くん! ……もうみんな、だいっきらいです!」


 そんな幸子の可愛い拗ね方に、四人は大笑いした。

 パーティ会場では、どのテーブルよりも、駿たちのテーブルが一番楽しそうだった。


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