第106話 クリスマスイブ (7)

 ――クリスマスイブ カフェ&ライブハウス BURN


 駿、幸子、ジュリア、ココア、キララの五人は、ライブハウスで開催されているクリスマスパーティに参加。

 駿は、ファンクバンド「サイケデリック・ファンキー・バニーズ」のリーダーの提案で、バンドの女性ベーシストで凄腕スラッパーのレイカと共演。レイカを上回る技量を見せ、パーティ会場は大いに盛り上がったのだった。


「ごめんね、汗だくになっちゃったから、着替えてきたよ」


 紙袋を手に、テーブルに戻ってきた駿。


 今は、白に近いベーシュのタートルネックTシャツに、ネイビーブルーのパーカーを着ている。


「駿くん、お疲れさまでした! すごくステキでした!」

「あーし、なんか感動しちゃったよ!」

「うん、ホントにスゴかった!」

「駿、カッコ良かったよ~!」


 四人は、奮戦した駿をねぎらった。


「みんなからパワーと勇気、もらったからね!」


 四人からのねぎらいを心から喜ぶ駿。


「でも~……」


 表情が雲るココア。


「?」


「駿くん、その……」


 幸子も何か言いたげだ。


「え? ど、どうしたの?」


 キララは、じとーっと駿を見ている。


「?」


「駿、あのさー……いつまでつけてんの?」

「何を?」


 自分の頬をちょんちょんと指差したジュリア。


「えっ! まさか……!」


 キララがバッグからコンパクトを取り出し、駿に向ける。

 そこには、くっきりとレイカのキスの跡が残っていた。


「げぇーっ!」


 そっとクレンジングシートを差し出すキララ。


「キララ、サンキュー!」


 駿は、シートで頬をゴシゴシ拭きまくった。


「落ちたかな……うん、落ちた! あはははは……」


 テーブルは、しらぁーっとした空気になっている。


「駿くん、あんなキレイな人にキスしてもらえて良かったですね」


 ニッコリ微笑む幸子からは、妙な圧を感じた。


「い、いや、さっちゃん、それは誤解……」


「私たちみたいな色気もクソもない女じゃねぇ……」

「キ、キララさん、何をおっしゃって……」


「あーしら、ガキだからね……けっ!」

「ジュリア、オ、オレそんな風に思って……」


「あぁ~あ、私たち可愛げもないしね~……」

「コ、ココアは、いつも可愛いですよ!」


 慌てている駿に、残念な視線を向ける四人。


「ケーキとコーヒー……」


 ポツリと呟いたジュリア。


「へ?」

「甘いもの食べちゃったりしたら……」

「機嫌良くなっちゃうかも~……」


 駿をチラリと見るキララとココア。


「ぷっ……ふふふっ……」


 幸子は口を手で抑えて、笑いをこらえていた。


「はい、はい、お嬢様方、今、お持ちいたします。まったくもう……」


 席を立ち、デザートコーナーへ向かう駿。


「いってらっしゃ~い」


 四人は楽しげに笑い合った。


 ◇ ◇ ◇


 その後も、生演奏の音楽を楽しみつつ、楽しく談笑する五人。


「あのさぁ、みんな」


 四人の視線が駿に集まる。


「今日は、パーティに来てくれて、本当にありがとね」

「それは、こっちのセリフだよ、駿」

「あーし、こんな楽しいイブ、初めて!」

「私、来て良かった~」

「駿くんの生演奏も見られましたしね」


 みんな満足してくれたようだった。


「実はさぁ、みんなにクリスマスプレゼントがあるんだ」

「えっ、カクテルじゃないの?」


 キララが駿に尋ねる。


「あれは、その場の思いつきだからね。それとは別に、ってこと」

「え、だって、私何も用意してないよ……」


 お互いに顔を見合わせた四人。


「オレのみんなへの普段お世話になってるお礼だよ。みんながいるから高校生活も充実しているわけだし」


 駿は、紙袋の中から小さなギフトバッグを四つテーブルに置く。

 ギフトバッグのロゴマークを見て、ジュリアは驚いた。


「えっ! それって人気ブランドのアクセサリーじゃないの⁉」

「正直悩んだんだよね……アクセサリーは好き嫌いあるし……でも、まぁ、見てみて、気に入ったら使ってよ」


 駿は、ギフトバッグのひとつを手に取る。


「これは……キララ」


 駿からギフトバッグを手渡されたキララ。


「開けていい……?」

「うん」

「わぁ、ステキ……」


 小さなジルコニアが埋め込まれたクレセントムーンデザインのシルバーのイヤリングだった。


「三人は、オレの中でイメージがあるんだよね」

「イメージ?」

「うん、キララは『月』。みんなをいつも優しい光で照らして見守っている、そんなイメージなんだ。それと、そのデザインとイヤリングだったら、キララの大人っぽいファッションの邪魔にならないかなって」


 キララは、嬉しそうにイヤリングを眺めている。


「はい、これはジュリア」

「あ、あーしにも……? 開けていいかな?」

「うん、見てみて」

「こ、こんなの、いいの……?」


 駿は笑顔で頷く。

 小さなクリスタルが散りばめられたピンクゴールドのブレスレットだ。


「ジュリアは『星』。いつもキラキラ輝いて、みんなの視線を独り占めするようなイメージだね。ギャルっぽいファッションでも、今日みたいなファッションでも、手元にアクセントがあると、ジュリアの魅力が増すかなって」


 ジュリアは、ブレスレットを手に持ち、光にかざしている。


「はい、ココア」

「嬉しい……開けちゃうね?」


 笑顔で頷く駿。


「わぁ、可愛い~」


 小さなジルコニアがいくつも埋め込まれた、太陽のようなダリアデザインのゴールドのネックレスだった。


「ココアは『太陽』。いつも笑顔でみんなに元気を分け与えてくれる暖かなお日さまのイメージ。キレイな銀髪にはゴールドが合うかなって。ガーリーなファッションでも、このデザインなら合うんじゃないかな」


 ココアは、愛おしそうにネックレスを眺めている。


「はい、さっちゃん」

「駿くん……見ていい?」

「うん、開けてみて」

「えっ! これ……!」


 指輪のケースが入っていた。

 色めき立つギャル軍団。


「えっ、えっ、駿、ついにプロポ――」

「んなわけあるか!」


 変なことを口走るジュリアに、駿は思わずツッコむ。


 そっとケースを開けた幸子。

 ハートのデザインがあしらわれ、ローズクォーツとジルコニアが埋め込まれたホワイトゴールドの小さな指輪が入っていた。


「あ! ピンキーリングだ! 可愛い!」


 キララが声を上げる。


「ピンキーリング?」

「うん、小指にはめる指輪なんだ。サイズもぴったりのはず。何度も手を握っちゃったからね」


 思わず照れた駿。


「右手につけると自分の能力や魅力が上がって、左手につけるとチャンスを呼び寄せて、願いが叶うって言われてるよ」

「ステキ……」


 幸子は、ピンキーリングを手に取り、埋め込まれた石に光をかざしている。


「えーと……正直、どれも安いヤツなんで、そこはご理解を……」


 苦笑いした駿。


「バカ! 値段なんて関係あるわけないでしょ!」


 キララは、本当に嬉しそうだ。


「ねぇ、駿、見て! 似合う?」


 クレセントムーンのイヤリングは、アダルティなファッションのキララによく似合っていた。


「おぉ、キララ、マジでイケてる!」

「ホントだ! キララさん、スゴく似合ってて、とってもキレイ!」

「ふふふっ、駿、さっちゃん、ありがと!」


 ご満悦の様子のキララ。


「わ、私はどうかな……」


 ジュリアの手元のブレスレットが、照明に照らされて、上品にキラキラ輝いている。

 ピンクゴールドの色合いも、ジュリアには良く似合っていた。


「うん、色合いや輝いているところも煩くないし、ぐっと大人っぽくなったよ!」

「マジ⁉ ふふ~ん、嬉しいな~」


 ジュリアも満足そうだ。


「ねぇ、ところで駿」

「ん? なにジュリア?」

「つけてあげた方がいい女の子はいませんかー?」


 幸子をチラチラッと見るジュリア。

 それに気付いた幸子は、慌てて自分でピンキーリングをつけようとした。

 が、キララに取り上げられた。


「はい、駿。分かってるよね?」


 取り上げたピンキーリングを駿に手渡す。


「じ、自分でつけますから……」

「ダーメ!」


 ジュリアが幸子を制止した。

 自分がやろうとしていることを客観的に考え、頭から湯気が出そうなほど顔が真っ赤な駿。


「さ、さっちゃん……」

「はい……」

「指輪……つけさせてもらっていいかい……?」

「はい……」


 幸子は、顔を真っ赤にしながら、左手を駿に差し出した。

 幸子の左手を手に取り、小指にそっとピンキーリングをはめる駿。


「あの……駿くん……ありがとう……」

「ど、どういたしまして……」


 駿は、照れまくりで、頭をポリポリかいていた。

 その横で「してやったり」と、ジュリアとキララはハイタッチする。


「ココア……? どうしたの?」


 キララが、おとなしいココアに気付いた。

 複雑な表情を浮かべているココア。


「わ、私、これもらえない……」


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