第103話 クリスマスイブ (4)

 ――クリスマスイブ カフェ&ライブハウス BURN


 駿、幸子、ジュリア、ココア、キララの五人は、ライブハウスで開催されているクリスマスパーティに参加し、みんなで舌鼓を打っていた。


「この春巻き、皮がパリパリで美味し~! 冷凍モノとかじゃないの!?」

「筑前煮も、味がしっかり染みて、すごく美味しいです……!」

「ローストビーフ美味し~、ソースも絶品です~」

「ブッフェにありがちな唐揚げすら、すっごい美味しいんだけど……」


 ニッと笑う駿。


「これ、全部定期的に色々な店から作りたてを運んでるんだ」

「えー、随分贅沢なブッフェね!」


 キララは驚いた。


「音楽好きな店主さんが多くて、ウチの店の常連さんも多いんだ。それで、この超忙しい中、格安で協力してもらってるってワケ。その代わり、お店のチラシとかも置いてあるから、お気に入りの料理があったらぜひ持って帰って、機会があったらお店に行ってみてね」


「や~、この八宝菜も絶品~」

「ピザも一口大に切ってあって、生地がまた美味しい!」

「このパエリア、何でこんなに美味しいの……」

「ミニ茶碗蒸しの上品な味……お母さんにも食べさせてあげたい位……」

「みんな、少しお腹に余裕持たせておいた方がいいよ」


 頭にハテナマークが浮かぶ四人。


「オレの個人的な意見だけど……一番オススメなのは……」


 ズズズイ、っと四人は駿に顔を寄せた。


「バターチキンカレーと麻婆豆腐だね」

「!」


 女性陣は、今にもよだれが垂れそうな顔付きになった。


「お腹いっぱいになっちゃうと他のモノ食べられないから、シメにぜひ! あっ、ケーキとかのデザートもあるからね!」

「太ってもいいから、全部食べたい……」


 ジュリアの目が光る。


「き、今日くらいはいいよね……?」

「だ、大丈夫よ~、うん、大丈夫~」


 そわそわし始めたキララとココア。

 幸子は、そんな三人をニコニコ見守っている。


「そういえば、さっちゃんって、結構食べる割に……」

「はい、私、どうも太りにくい体質のようでして……」


 という幸子の言葉に、ピクリと反応した三人。


「さっちゃんは、あーしたちの敵だー!」

「そうだ、そうだ~、敵だ~!」

「えー! ジュリアさんも、ココアさんも、何で……キララさん!」


 幸子は、キララにすがる。

 キララは、そんな幸子に優しく微笑んだ。


「さっちゃん」

「キララさんは私のみか――」

「さっちゃんは、私の敵です」

「えーっ!」


 そのやり取りを見て、大笑いしている駿。

 三人は、幸子をじとぉーっと見つめた。


「皆さん、誤解しています!」


 必死に弁解する幸子。


「太らないのは確かですが、育ってほしいところが、全然育たないってことなんですよー……」


 三人の視線が幸子の胸に集まった。


「いつまで経ってもチビのままですし、胸はペチャパイどころかペッタンコですし、お尻も……」


 半泣きの幸子。


「さ、さっちゃん、男のオレもいるし、も、もうその辺で……」

「うー……だって、ホントのことなんだもん……」


 痛々しい幸子に、駿は苦笑いする。


「こ、この話題は、もうやめよう、な」

「そ、そうね、あーし、食べたいモノを食べる!」

「うん、ジュリア、それがいいよ! わ、私カレー食べようかな!」

「わ、私、麻婆豆腐食べる~」

「そうそう、人間食べたいものを食べるのがベスト!」


 むーっとした顔の幸子。


「さっちゃんは、キララと同じスレンダーで、ステキだと思うよ」

「キララさんと同じ……?」

「うん、キララもスレンダーでモデルさんみたいだろ。背はまだ伸びるんだから、さっちゃんだって……ね?」

「駿くんがそう言ってくれるなら……」


 駿は、むくれる幸子の頭を笑顔で撫でた。


「おい、駿。さっちゃんを泣かすんじゃねぇぞ」


 駿が顔を上げると、そこにサンタのコスプレをした龍司が立っていた。


「泣かしてないって……つーか、随分ガラの悪いサンタさんだな……」

「綾にも同じこと言われた……」


 遠くを見つめる龍司。


 四人は、全員席を立った。


「叔父様、今日はクリスマスパーティにご招待いただいて、本当にありがとうございます」


 キララが頭を下げる。


「文化祭の時も大変お世話になりまして、ありがとうございました」

「おかげで大成功いたしました~」


 ジュリアとココアも頭を下げた。


「叔父様のバックアップで、私も歌を歌うことができました。本当にありがとうございました」


 最後に頭を下げる幸子。


「おいおい、やめろって、女子高生にそんな頭下げられたら……ちょっと気分いいな」

「おじさん!」


 駿は、思わずツッコんだ。


「まぁ、みんな座んなよ」


 席につく四人。

 龍司はテーブルに顔を寄せて、こっそりと囁いた。


「どうだ、みんな、クリスマスだしさ、こっそりお酒でも飲んでみないか……?」

「ちょ……おじさん! 絶対ダメだからな!」


 龍司のとんでもない提案に、慌てて止める駿。


「こんなお固いだけの駿といたってつまんねぇだろ? おじさんと冒険しちゃおうよ……?」

「おい!」


 すでに若干引いてる女性陣。


「ちょっとくらい酔っても大丈夫だから。休む場所もあるからね、ね……!」


 バッ


 駿は、胸ぐらを掴んで、龍司を立たせた。


「おぉ、なんだ駿。俺とやるってか?」

「やらねぇよ」

「?」

「綾さん、お願いします」

「へ?」


 バインッ


 龍司の側頭部を銀トレイが捉えた。


「おおおぉぉ…………」


 頭を押さえて、しゃがみ込み、呻く龍司。

 周りの客は、それを見て、手を叩いて大笑いしている。


「汚れた取皿、溜まってるんだから、さっさと洗え」


 襟首をつかまれ、奥へ引きづられていった龍司。

 それでも、必死で四人に手を振っている。

 四人は全員苦笑いしながら、龍司に手を振り返した。


「みんな、ああいう悪いオッサンに引っ掛からないようにね……」


 全員深~く頷いた。


 そして、キララは隣のテーブルをうっとりと見つめた。


「でもさ、ほら、あんなカクテルが似合う大人になりたいな……」


 隣のテーブルでは、若いカップルが見た目にもキレイなカクテルを楽しんでいる。


「うん、憧れちゃうね~」

「あんな風に、カッコイイ彼氏と一緒に……なーんてね」

「ステキですね……」


 四人は、お酒にちょっとした憧れがあるようだ。


「…………」


 手を顎にあてて、何か考え込んでいる駿。


「よし!」


 駿は、何かを思いついたかのように立ち上がった。


「駿、どうしたの~」

「うん、みんなにちょっとしたプレゼントをしようかなって」

「え~、プレゼント~? ねぇ、みんな、駿がプレゼントくれるって~!」

「え、なになに?」

「また駿は、そうやって気を使う……」

「キララさん、ここは駿くんにカッコつけてもらいましょう」

「お、さっちゃん、分かってるね!」


 笑い合う駿と幸子。


「じゃあ、みんな、ちょっとだけ待っててね」


 そのままどこかへ立ち去っていった駿。


 駿からのプレゼントとは何か?

 四人の女の子は、期待に胸を膨らませた。


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