第102話 クリスマスイブ (3)
――クリスマスイブ カフェ&ライブハウス BURN
駿、幸子、ジュリア、ココア、キララの五人は、クリスマスパーティが開催されるライブハウスへやって来た。
いつもとは違い、ライブハウスの中は明るく照明で照らされており、まだ夕方にも関わらず、多くの客がお酒や料理を楽しんでいる。
ステージにはまだ誰も上がっておらず、生演奏はこの後、順次行われるのだろう。
バーカウンターの脇には、沢山の料理と飲み物が並んでおり、ライブハウスの中を美味しそうな匂いで満たしていた。
「駿、みんな、いらっしゃい」
綾がやってきた。
「わぁ~、綾さん、可愛い~!」
綾の格好を見て、幸子が声を上げる。
綾は、ミニスカサンタのコスプレをしていた。
「さっちゃん、ありがとう。でも、こんな格好できる年じゃないんだけど……」
「えー、すごく似合ってますよ!」
「綾さん、スタイルがいいから、何着てもキレイ!」
「うん、可愛くて、すごく色っぽいです~」
ギャル軍団の三人も、綾を賛美する声を上げる。
「あら、こんなオバサン褒めたって、何も出ないわよ」
ふふふっ、と笑う綾。
「あーし、綾さんみたいになりたいな……」
ジュリアはポツリと呟いた。
「ふふっ、ジュリアちゃんなら、私なんかよりずっとキレイになるわよ」
「えー……そうですかね……」
自信なさげなジュリアを抱擁する綾。
「ココアちゃんも、キララちゃんも、さっちゃんも、みんなすごくステキな女性になる。間違いないわ」
微笑む綾に、四人とも顔を赤くして照れていた。
「でも、一緒にいるのが駿じゃねぇ……」
綾は、駿をジトッと見る。
「うっ……」
思わず目をそらした駿。
「綾さん、私たち、駿が誘ってくれたから来たんです。ちゃんとエスコートしてくれましたよ、ね?」
助け舟を出すキララ。
ココアは、スッと駿と腕を組んだ。
綾は、その様子を見て、ハァとため息をつく。
「駿……アンタ、女の子にこんな気を使わせてどうするの……」
頭を抱えた綾。
「め、面目ない……」
「気を使うのは男の役目! もっとしっかりしなさい! いいわね!」
「はい……」
駿は、苦笑いしながら頭を掻いている。
「みんなはごゆっくり。この後、バンドも入るから、音楽と食事を楽しんでいってね」
女性陣にウインクした綾。
銀のトレイを片手に去っていく。
「駿くんも、綾さんにはタジタジですね。ふふふっ」
幸子は、駿を見て笑っていた。
「くそぉ、またさっちゃんにみっともないとこを見せちゃったな……」
「それも含めて、駿くんの魅力ですから」
「くくくっ、さっちゃんにも気ぃ使われてやんの」
ジュリアの言葉に、女性陣はみんな笑っている。
「うっせぇ、うっせぇ! ほら、テーブル確保すんぞ!」
照れ笑いしながら、空いているテーブルへ向かった駿。
ジュリアとココアが後ろをついていく。
キララと幸子は、そんな様子を見ていた。
「駿も、変なところでかわいいところがあるよな」
「はい、それも含めて……」
「駿の魅力なんだろ?」
「はい!」
「ふふふっ、ほら、さっちゃん行こ」
キララは、幸子の手を取って、三人の後を追いかけて行く。
五人は、ステージ真正面の良いテーブルを確保することができた。
全員席につき、ほっと一息。
「みんな、食事はブッフェなんで、悪いけど食べたいものをあそこから持ってきてくれ。でも、ここらで評判の店に協力してもらっているんで味は申し分ないと思うし、和洋中それぞれ種類も結構あるから、かなり楽しめると思うよ」
わっ、と女性陣が笑顔になった。
「飲み物もたくさんあるからね、好きなの飲んで」
うんうんと頷く女性陣。
「ただし! 分かってると思うけど、アルコール類は絶対ダメだからね。ソフトドリンクコーナーにあるやつを飲んでね」
「は~い」
素直に返事をする女性陣。
「じゃあ、オレ荷物見てるから、みんな取っておいでよ」
「じゃあ、早速行ってくる!」
「あ~、ジュリアちゃん、待って~」
「駿くん、お先に行ってきますね」
「はいよ、みんな行ってらっしゃい」
駿は、楽しげにブッフェコーナーへ向かう幸子たちを笑顔で送り出した。
そんな中、そっと駿に顔を寄せるキララ。
「駿、ごめんね、いつも気を使わせちゃって……」
「それはオレのセリフ。さっきは、ありがとな」
「王子様が困ってる時は、助けてあげないとね」
駿にウインクするキララ。
「キララまで何言ってんの……ほら、キララも行っておいで」
「うん!」
キララは、手招きする幸子のところへ急いで向かっていった。
(王子様ねぇ……まぁ、女の子がそう言ってくれるのは嬉しいよな)
ひとり微笑む駿。
コトリ
駿の目の前に、烏龍茶の入ったグラスが置かれた。
「駿くん、烏龍茶で良かったですか?」
駿の飲み物を幸子が持ってきてくれたのだ。
「さっちゃん、ありがとう!」
幸子はにっこり笑うと、そのまま、とてとてとてっと料理のある方へ戻っていった。
「ねぇ、駿、料理メッチャ美味しそうだよ~」
「ゴメン、正直あーしナメてた! マジウケるって!」
「だろ! 味もバツグンだから!」
テーブルに、ココアとジュリアが持ってきた料理が並ぶ。
そこに、キララも料理を持ってやってくる。
「色々食べたいから、みんなでつつこうって話になって。駿、いいかな?」
「みんなが気にしないんだったら、オレは全然構わないよ」
「誰も気にしないって! じゃあ、色々持ってくるね!」
料理をテーブルの上に置き、また料理を取りに行くキララ。
入れ替わりに、幸子が取皿とフォーク、紙ナプキンを持ってきた。
「なんか、オレ、何もしなくてもよくなってない……?」
「はい、王子様はこちらでお待ちください」
幸子は、ふふふっ、と笑った。
「なんか、王子様っつーか、偉そうにふんぞり返ったダメダメな王様みたいだけど……」
笑い合う駿と幸子。
そうこうしている間に、テーブルの上には様々な料理が並んだ。
「ねぇ、これでまだ全種類制覇してないんだけど……元取れるの……?」
ジュリアが変な心配をし始める。
「トントンってところかな。ほら、別料金のアルコールメニューとかもあるし。あとは、叔父さんが好きでやってる部分もあるからね」
「そうなんだ」
「うん、気楽に楽しくパァーっとやろう! ってね。だからたくさん食べてあげて。それが一番喜ぶから」
「そう言われると、あーし、燃えちゃう!」
フォークを片手に食べまくる気満々のジュリア。
「ジュリアー、太るわよー」
キララがニヤニヤしてジュリアを見る。
「あら、あーしは誰かさんと違って、栄養が胸に行くから大丈夫だし」
ふふんっ、とキララにやり返したジュリア。
「私も~」
ココアの無自覚な追撃。
顔に笑みを浮かべつつも、額には青筋が浮かぶキララ。
その横では、幸子が自分の慎ましい胸を悲しげに押さえている。
「こらこら、やめなさいって。料理冷めちゃうよ」
苦笑いしながら駿が仲裁に入った。
「じゃあ、駿が乾杯の挨拶して!」
ジュリアが駿に促す。
「はい、はい。じゃあ、かんたんにな」
姿勢を正した四人。
「まずは、ジュリア、ココア。追試突破、おめでとう!」
ハッとするジュリアとココア。
「あ、ありがとう……ホントにみんなのおかげです……」
「あの……三学期からは、ホントにもっとちゃんとやります~……」
ジュリアとココアは、思わずうつむいてしまう。
「三学期は、定期的にみんなで勉強する機会でも作るか」
「あーし、それに参加したい!」
「私も~」
ふたりの様子を見て微笑むキララ。
「よし! じゃあ、三学期も頑張ろうな!」
ジュリアとココアは、嬉しそうに頷いた。
「それでは、みんなグラスを持って」
全員がグラスを持つ。
「オレたちの永遠の友情に……メリークリスマース!」
「メリークリスマース!」
全員笑顔での号令で、いよいよクリスマスパーティが始まった。
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