第101話 クリスマスイブ (2)
――クリスマスイブの夕方
駿、幸子、ジュリア、ココア、キララの五人が、クリスマスパーティが行われる「カフェ&ライブハウス BURN」に向かって街を歩いていた。
四人の後ろをついて歩く駿。
「そういえば、今日は四人ともオシャレで可愛いね」
嬉しそうに振り向くキララ。
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」
キララは、ブラックのハイネックと、淡いブルーグレーのワイドパンツ、ブラックに近いダークブルーのショートブーツを合わせて、小さなブラックレザーのショルダーバッグを手に持っている。
アウターは、ブラックでオーバーサイズのステンカラーコートを羽織っている。
メイクは抑えめながら、全体的にブラックでまとめて落ち着いた雰囲気を醸し出しつつ、淡いブルーグレーのワイドパンツがブラックの重さを払拭するようなアクセントになっており、無彩色でアダルトな印象の装いだ。
「キララは、すごく大人っぽいよな。可愛いっていうか……」
「可愛いっていうか……?」
「キレイなお姉さんだね」
うんうんと、笑顔で頷く駿。
「あ、ありがとね……」
キララは、駿からの「キレイ」という言葉に、思わず照れた。
「ねぇ、駿~……」
「おぅ、どうしたココア」
「わ、私は……?」
ココアは、白のタートルネックセーター、赤地にイエローのチェック柄の台形スカート、ダークブラウンのスエードのロングブーツを合わせてレザーの小さなトートバッグを持っている。
アウターは、白に近いベージュのファー付きダッフルコートを着ている。
メイクは薄めで、グロスの乗った桃色のリップが目を引く。
ココアの可愛らしさを倍増させるような、それでいて黒ギャルなココアとのギャップが魅力的な可愛いガーリーなファッションだ。
「ココアはいつも可愛いけど、それがパワーアップしてるな」
「ホント⁉」
「うん、ガーリーでスゴく似合ってるよ!」
「やった~」
「わっ!」
駿に抱きつくココア。
「まったく……ココアは甘えん坊だな」
「えへへ~」
駿は、ココアの頭をポンポンと叩いた。
「んんっ!」
咳払いをするジュリア。
ジュリアは、ホワイトのセーターと、黒っぽい緑地に淡いイエローのチェック柄の台形スカート、黒のスエードのロングブーツを合わせて、下品にならない程度のシルバーの小さなポシェットを肩に掛けている。
アウターは、ブラウンに近いベージュのファー付きショートダッフルコートを着ている。
いつもはメイクをビシッとキメているジュリアだが、この日は必要最低限のメイクのみ。リップすらも薄めで、ギャル然とはしているものの、ジュリア自身の可愛さをアピールするような、ジュリアにとっては冒険的なメイクだ。
「ジュリアは元がいいから、メイクがそれ位でも可愛いよな」
「マジ……?」
「そのメイクと、いつものギャルギャルしてないファッションが、新しいジュリアの魅力を引き出してると思う」
「ア、アンタ、天然の女たらしよね……」
「マジか! オレは思ったことを言ってるだけだぜ、ホントに」
「いや、まぁ、正直、あーしも嬉しいんだけどね……」
照れてしまい、思わずそっぽ向くジュリア。
「ただ真打ちには敵わないよねぇ……」
落胆するキララの言葉に、ギャル軍団は、じっと幸子を見る。
「あー……」
諦めのため息をついたジュリア。
「さっちゃん、今日は一段と可愛いもんね~」
ココアは、うらやむ目で幸子を見つめる。
「え? わ、私ですか!?」
幸子は、ホワイトのオフタートルネックのケーブル編みニットを白地に淡いブルーとレッドのチェック柄のナロースカートにインして白ソックスとダークブラウンの底が厚めなウォーキングシューズを合わせている。
ブラウンのフェイクレザーの小さなポシェットをたすき掛けして、頭にはボリュームのあるプクッとしたアイボリーカラーのカチューシャをしている。
今日は、ナチュラルメイクを施しているようだ。
少々子どもっぽい雰囲気の装いではあるが、小柄で端正な顔付きである幸子の愛らしさをグッと際立たせるファッションで、男性であれば思わず守りたくなるような、女性であれば母性本能をくすぐられてしまうような仕上がりになっている。
幸子をじっと見る駿。
「こ、子どもっぽくないですかね……?」
幸子は、不安そうに駿を見つめた。
「あの……すごく……可愛いです……」
顔に熱が帯びていくのを感じる駿。
「またジュリアたちに『たらし』って言われちゃうかもだけど……さっちゃん、冬の妖精みたいです……」
「!」
駿は、顔を真っ赤にして頭を掻いた。
「し、駿くん……そ、それは、言いすぎです……」
顔が真っ赤なのは、幸子も同じだった。
それを眺めるギャル軍団。
キララが声を掛けた。
「おふたりさーん、私たちお邪魔だったら帰っちゃうよー」
驚くふたり。
「道端で何やってんだかねー」
ジュリアは、ニヤニヤしながらふたりを見ていた。
「でも、お似合いです~」
にっこり微笑むココア。
「か、からかわないでください!」
「オ、オマエらも同じように褒めただろ!」
「そうですよ! ジュリアさんも、ココアさんも、キララさんだって、みんな顔真っ赤だったくせに!」
幸子の言葉に、三人は思わず動揺した。
「だ、だって……」
「ねぇ~……」
「あぅ……」
急に恥ずかしがる三人。
「私たち、そういうの言われ慣れてないからねぇ……」
「まぁ、あーしたちも嬉しかったわけで……」
「駿しかいないからね~、こんなこと私たちに言ってくれるの~……」
たはは、っと寂しげに笑った三人。
そんな三人に、幸子は笑顔を送る。
「じゃあ、私と同じですね! 私も褒めてくれるの、駿くんしかいませんから」
「ふふふっ、そうだね。さっちゃん、おいで」
キララは幸子に手を広げた。
幸子は、そこに飛び込んで抱きつく。
キララは、幸子の耳元でそっと囁いた。
「私たち、みんなさっちゃんを応援してるからね……」
幸子は、キララに囁き返す。
「みんなそう言いますけど……駿くんの隣は、こんなチンチクリンじゃダメです……皆さんみたいに、キレイで可愛い女の子じゃないと……」
幸子の言葉に驚いたキララ。
「私も皆さんを応援してますからね……」
キララは少し身体を離し、複雑な表情で幸子を見つめる。
そんなキララに、笑顔で可愛く舌を出した幸子。
「生意気だぞ、こんにゃろめ」
キララは、幸子の鼻の頭を指先で、ちょんとつつく。
「へへへ」
いたずらっぽく笑う幸子をぎゅっと抱きしめた。
幸子もそれに返礼するように、キララをぎゅっと抱きしめる。
「今日は、駿もカッコイイよね~」
「そうそう! あーしの知ってるラフな駿と違うんだよね!」
幸子とキララの横で、駿のファッションチェックをしていたココアとジュリア。
「えっ? そんなに大層な格好してないけど……逆にまた怒られるかと思ってた……」
今日の駿はホワイトのタートルネックTシャツの上にブルーグレーのパーカー、そしてブラックのスキニージーンズに、シンプルなブラックのスニーカーを合わせている。
アウターには、濃いグレーのステンカラーコートを羽織っている。
コートを脱げば、いつものカジュアルなファッションなのだが、無彩色に近い色選びと、アダルティなステンカラーコートが駿の男性としての魅力を大きく底上げしていた。
「ううん、駿、すごくカッコイイよ~」
「ココア、ありがとう! 褒められると嬉しいもんだな!」
「あーしもカッコイイと思う! いつもそうならいいのにねぇ……」
「悪かったな、いつもはダサくて!」
笑い合う駿とジュリア、ココア。
「駿、ゴメンね。さっちゃんとお喋りしちゃった」
キララは、幸子と手をつないでいた。
それを見て微笑む駿。
ライブハウスは目の前。
もうすぐクリスマスパーティが始まる。
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