第92話 図書室の少女 (4)
※ご注意※
物語の中にイジメの描写がございます。
お読みいただく際には十分ご注意ください。
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達彦に脅迫を伴う色仕掛けで迫った牧原。
しかし、達彦に防犯カメラのブラフをかけられ、撃沈。
さらに、自分の身体で誘惑するも、達彦にはまったく相手にされなかった。
カーストの高い位置にあり、その高いプライドを傷付けられた牧原は、怒りの感情を達彦ではなく、自分にとってイジメの標的である静に向けるのだった。
――昼休み 女子トイレ
パタン カチャッ
個室に入った静。
便座に腰掛けると、他の女子がトイレに入ってきた。
「しーずーかーちゃ~ん」
(牧原さん……!)
「ねぇ、アンタさぁ、谷くんをどうやって手懐けたのぉ?」
「…………」
「アンタだけズルいじゃな~い、ねぇ、教えてよぉ~」
「…………」
「シカトしてんじゃねぇよ! 根暗ブス!」
ガンッ
個室の扉を蹴飛ばす牧原。
(何なの……一体何なの……?)
静は個室の中で怯えていた。
「ねぇ、静~、今小さい方してんの? 大きい方してんの?」
牧原の恐怖に返答ができない静。
「私がキレイに流してあげるよぉ~」
ガチャ ズルズルズル
静は扉の向こうを伺い知れないが、トイレの一番奥にある掃除用具入れの扉を開け、何かを取り出し、引きずっているようだ。
「マッキー、やりすぎだよ……もうやめよ……?」
取り巻きが牧原を諌めている。
「今さら何言ってんのよ! アンタたちだって、散々静にやってきたじゃない!」
「だって、もう冗談じゃ済まないよ? ごめんなさいじゃ済まないよ?」
「だから何よ!」
「誰か来たらどうするの? 川中(静)だって、もう可哀想だよ……ねぇ、マッキー、お願いだからやめて……」
「うるさい!」
「私たち、もうマッキーについていけない……」
取り巻きたちがトイレから去ったようだ。
「チッ!」
舌打ちする牧原。
「静ちゃ~ん、今、キレイにするからねぇ~」
キュッ キュッ キュッ
水道の蛇口をひねる音がした。
(えっ、まさか……)
ジャーッ
天井の隙間から大量の水が降ってくる。
「きゃーっ! つ、冷たい! やめて! 水を止めて!」
水を全身でかぶり続ける静。
「あはははははは! アンタのションベン、流れたかしら?」
ジャーッ
静は、個室の隅っこに身体を寄せ、恐怖と水の冷たさに震えていた。
キュッ キュッ キュッ
水が止まった。
「あぁ、掃除って楽しいわぁ~」
個室の扉の向こうから牧原の満足気な声がする。
静は為す術もなく、ずぶ濡れになっていた。
「ねぇ、静~、もう谷くんに手を出さないでくれるぅ~?」
「谷くんには、勉強を教えているだけ……」
ガンッ
再度、個室の扉を蹴飛ばす牧原。
「それが手を出してるって言ってんのよ!」
静は震えていた。
「代わりに、アンタには別の男をあてがってあげっから」
別に達彦とはそういう関係じゃないと言いたかったが、静は口をつぐむ。
「いいな、谷くんには手を出すな!」
「…………」
「あっ、そうそう、アンタのジャージ、蔵書保管室に置いておいたからぁ~。着替えを用意してあげておくなんて、私って優しいなぁ~」
ズルズルズル バタン
ホースをしまったようだ。
「じゃあねぇ~、静ちゃ~ん。風邪引かないようにねぇ~。あははははは」
牧原は、トイレを出ていった。
トイレの中は静寂に包まれる。
ポッ ポッ ポッ ポッ ポッ
長い髪やスカートの裾から落ちる水滴の音が、静の耳には妙に大きく聞こえた。
(何で私がこんな目に……)
静は、こみ上げてくる涙を堪える。
(とにかく……昼休みが終わるまでここにいて、授業が始まったら、蔵書保管室に行こう……)
濡れた便座に腰掛け、静は時間の過ぎるのを待った。
◇ ◇ ◇
――昼休み終了後
カチャリ
寒さに震えながら静が個室から出てくる。
すでに午後の授業が始まっており、トイレの外は静かだ。
(さ、寒い……は、早く着替えないと……)
静はトイレを出て、図書室の隣にある蔵書保管室へ急ぐ。
蔵書保管室は、図書室に隣接しており、廊下からも入ることができるが、いずれからも図書準備室(貸出カードの管理などをしている小部屋)を通る必要がある。
蔵書保管室に入るには、図書室から図書準備室に入り、そこから入るか、廊下から図書準備室に入り、そこから入る必要があるのだ。
図書室と廊下の扉は通常施錠されており、図書準備室と蔵書保管室をつなぐ扉も、南京錠で施錠されている。
(図書室のカギ……牧原さんに預けっぱなしだけど、中に入れるかしら……)
図書室の前までやってきた静。
図書室の扉を開けようとする。
(ダメだ……カギがかかってる……)
濡れた身体が冷えて、震えが止まらない。
静は、図書準備室の廊下側の扉に手をかける。
ここの扉は、普段カギを開けることはない。
カラカラカラ
(開いた!)
図書準備室に入る静。
蔵書保管室の扉を見ると、あるはずの南京錠が無い。
(やった! 開いてる! 本当にジャージがあれば……)
カラカラカラ
静は、蔵書保管室に入った。
それほど広くはない部屋には本棚があり、沢山の本が収まっている。
静にとっては、見慣れた光景だ。
部屋の中をゆっくりと散策するように歩く。
(ジャージがある……!)
部屋の隅にジャージが置かれていることに気が付き、手に取った。
(私のだ!)
ジャージが上下揃っていることを確認。
(でも、扉にカギがかからない……)
「ヘ……ヘ……ヘクチュッ」
(ダ、ダメ……さ、寒い……さっさと着替えちゃおう……)
部屋の隅で、慌ててジャージに着替える静。
(下着がそれほど濡れてなかったのは、不幸中の幸いね……)
濡れた制服やシャツを、部屋の椅子の背もたれに掛けた。
(これ……保健室で乾かせないかな……)
背もたれに掛けた制服をもう一度手に取る。
静は、保健室に向かおうと扉に手をかけた。
ガヂンッ
(あれ……?)
ガヂンッ ガヂンッ
(扉が開かない!)
予想外の事に焦る静。
「しーずーかーちゃ~ん」
(!)
扉の向こうから、牧原の声が聞こえる。
「もうちょっとそのままで待っててねぇ~」
「牧原さん、カギを開けて!」
ガンッ!
牧原は、扉を蹴飛ばした。
「ちょっと待ってろって言ったろ!」
何が何だか分からず、困惑する静。
「いい思いさせてあげるから、大人しくして待っててねぇ~」
静は、牧原の気持ちの悪い言い方に、得も知れぬ恐怖を感じた。
(一体何がしたいの……仕方ないわ……一か八か……)
◇ ◇ ◇
――図書準備室
牧原が、スマートフォンで時間を確認している。
(先輩、遅いわね……授業抜け出せなかったのかしら……)
コンコン
扉がノックされた。
カラカラカラ
「よぉ、牧原」
ひとりの三年生の男子が入ってくる。
オレンジ色に染めた短髪で、耳にいくつもピアスをつけていた。
「お待ちしてましたぁ~、吉村センパイ!」
扉を締め、牧原は吉村とハグをする。
「で、何、好きモンの子がいるんだって?」
吉村が牧原に尋ねた。
「はい、ウリやってる子なんで、ぜひ援助してほしいなぁ~って!」
吉村に媚びた笑みを送る牧原。
「タダじゃねぇのかよ……いくら?」
「センパイですから、特別に一枚でいいですよ」
「わかったよ、ほら」
吉村は、一万円札を牧原に渡した。
「毎度ぉ~」
ニッコリ笑う牧原。
「その子、乱暴されるようなシチュエーションの激しいプレイが好きなんで、そういうので楽しんでくださいねぇ~」
「ドM?」
「そうですね、『きゃ~、やめてぇ~』みたいのが燃えるらしいですぅ~」
「何か男心をくすぐるな……」
「でしょ~?」
ガチャリ
牧原は、南京錠を開けた。
「またここ閉めちゃいますけど、一時間後に開けに来ますのでぇ~」
「OK、それまでは楽しめるわけだな」
「はい! そういうことですぅ~」
カラカラカラ
吉村の目に、ジャージ姿の静が映る。
「だ、誰……!」
ニヤリと笑った牧原。
「センパイ、もうプレイは始まってるみたいですぅ~」
「プ、プレイ……?」
静は、不安気な表情を浮かべる。
そんな静に向けて、牧原がにやけながら言った。
「たくさん気持ち良くしてもらいなさい……じゃあねぇ~」
カラカラカラ ガチャン
扉が閉められ、南京錠で施錠されたようだ。
獲物を狙うように、静に近付く吉村。
「こ、来ないで……」
距離を置こうとする静。
「いいねぇ、こういうシチュエーション! 俺も好きだぜ!」
吉村は、笑みを浮かべながら、目をギラつかせた。
「い、いや……来ないで!」
目に涙を浮かべている静。
ダッ
吉村は一気に距離を詰め、静を捕まえ、そのまま床に押し倒した。
「いやぁーっ! やめて、やめて!」
暴れる静を押さえつける吉村。
「こんなのが好きなんて、オマエもよっぽどだな!」
吉村はいやらしい笑みを浮かべた。
「お願い! やめて、やめてーっ!」
無理矢理ジャージの上着のチャックを下ろそうとする吉村。
静は、涙を流しながら叫んだ。
「助けて! 谷くん! 谷くん、助けて! 谷くん!」
◇ ◇ ◇
――図書準備室
牧原がひとりニヤけていた。
(金も手に入ったし、静には吉村センパイたちをあてがっときゃいいだろ)
「……! …………! ……!」
蔵書保管室の中から、静が抵抗している声が聞こえる。
(私に逆らうようなことするからだ、バカな女……あとは、吉村センパイが楽しんだ後に写真を撮っておいて、客を取らせるか……)
カラカラカラ
図書準備室から廊下に出た牧原。
「あ……」
牧原は、声がした方を見る。
そこには、小柄な一年生の女子がいた。
幸子だ。
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