第91話 図書室の少女 (3)

※ご注意※


物語の中にイジメの描写がございます。

お読みいただく際には十分ご注意ください。

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 達彦は、迫る期末試験の対策のため、二年生の 川中 静 と図書室で勉強に励んでいた。

 そこに現れたのは、同じく二年生のギャル・牧原とその取り巻きたち。

 ふたりの邪魔をする牧原は達彦に追い返されたが、その目は静への嫉妬に燃えていた。


 ――授業中 二年生の教室


 ビッ ポフッ


「背中だから一点ね……」


 ビッ コンッ


「よっしゃ、頭だから三点ね。クククッ」


 授業を真面目に受けている静。

 そんな静の背中や頭に、ノートの切れ端を小さく折り畳んだ紙くずが当たった。

 静より後方に座っている牧原の取り巻きが、輪ゴムをパチンコ代わりにして、紙くずを飛ばしているのだ。


 静にとっては、いつものことだった。


(我慢してれば、そのうち飽きる……)


 何をしても文句を言わず我慢してしまう静は、牧原たちの格好のイジメのターゲットになっている。

 幸い暴力を振るわれるようなことはないものの、無理矢理使い走りをさせられたり、休み時間中にペットボトルの水を机の上に撒かれたり、昼食の弁当をわざと床に落とされたりと、陰湿なイジメを受けていた。

 周囲もその状況を知っていたが、庇ったことで自分がターゲットになりかねないため、静を助けるクラスメイトはいなかった。

 それでも牧原の目が無い時は、周囲も静に同情的になり、静の世話を焼いている。

 静自身もそういった状況を良く理解しており、イジメの被害拡大を防ぐため、周囲には無理しないように話をしていた。


 ◇ ◇ ◇


 ――放課後


 図書室へ行こうとカバンに荷物を詰めていると、牧原がやってきた。


「ねぇ、静。アンタ、今日も図書室行くの?」

「う、うん。谷(達彦)くんに数学を教える約束してるから……」


 ニヤリと笑う牧原。


「静、アンタ今日は、体調不良で図書室には行けないんだよな?」

「え?」


 牧原は、周囲から見えないように、静の髪の毛を掴んだ。


「私が代わりに行くから、な?」


 髪の毛を強く引っ張られる静。


「い、痛い……で、でも、谷くんが……」


 牧原は、静の耳元で囁いた。


「お前みたいな根暗なブスが、彼と一緒にいるなんて百万年早いんだよ……!」


 さらに髪の毛を強く引っ張られる。


「い、痛っ……わ、わかった……行かない……行かないから……」


 髪の毛から手を離した牧原。

 静は、渋々牧原に図書室のカギを渡す。

 笑顔を浮かべた牧原。


「じゃあ、静。私の代わりに掃除よろしくね」


 牧原は、取り巻きを連れて、ウキウキで教室を出ていった。


 静は、自分のカバンをじっと見つめる。

 カバンの中には、昨晩作った模擬試験問題が入っていた。


(谷くん……ごめんなさい……)


 ◇ ◇ ◇


 ――図書室


「あれ?」


 静がいるものだと思って図書室にやってきた達彦。


「誰もいねぇな……静先輩、まだ来てねぇのか……」


 達彦は、テーブル席に荷物を置く。


 カラカラカラ パタン カチャリ


「?」


 音がした入口を見ると、開けっ放しのはずの図書室の扉が閉められ、ひとりの金髪ギャルが立っていた。

 見覚えのある顔だ。


(牧原とか言ったか……)


 牧原はカウンターに制服の上着を置くと、シャツのボタンを外しながら、達彦に迫ってきた。

 下着が見えてもお構いなしで迫る牧原に、焦る達彦。


「お、おい、ちょっと……」


 牧原は、そのまま達彦に抱きついた。


「ちょ、ちょっと、離せって……」


 抱きつき離れない牧原を引き離そうとする達彦。


 その時――


 カシャッ カシャッ カシャッ


 取り巻きふたりが、そのシーンをスマートフォンで写真に収めていた。

 突然のことに呆然とする達彦。

 牧原がニヤリと笑った。


「谷くん、私たちの関係、写真に撮られちゃったねぇ~」

「はぁ?」

「この写真、谷くんとラブラブでしょう〜って、みんなに見せたらどうなっちゃうかなぁ~」


 取り巻きたちもニヤニヤ笑っている。

 優しい表情に変わった牧原。


「ねぇ、谷くん、私たち付き合っちゃおうよ?」


 上目遣いで、媚びた視線を達彦に送る。


「私彼女になったら、すっごいサービスしちゃうよ?」


 牧原は、ボタンを外したシャツを広げ、下着をあらわにした。


「ものすごく気持ち良くしてあげるから、ね?」


 達彦の股間をまさぐってくる牧原。

 そんな牧原に、達彦はニコリと笑顔を送った。


「ふふふっ、すぐしちゃう? いいよ……」


 牧原は、口づけをねだるように、達彦に顔を向け、目をつぶる。

 自分の額や頬を達彦が触れている。

 牧原は、達彦が自分をじらしていると感じた。


「ねぇ、はやく……」


 顔を寄せる牧原。


「あいよ」


 達彦は一言返事をすると、右腕に力を込めた。


「いっ! いたたたたたたっ! 痛い! 離して! 痛いぃ!」


 達彦は、牧原の顔面を右手で思い切り掴んだ。

 いわゆるアイアンクローである。


「痛い! ホントに痛いの! 離して! 痛いってば! 離してぇ!」


 達彦が手を離すと、牧原はその場に倒れ込んだ。

 取り巻きが牧原のそばに寄る。


「あ、あんた女の子に何すんのよ! バカじゃないの!」


 激怒した牧原。

 達彦は、それを見てニヤニヤしている。


「さっきの写真、バラ撒くからね! 涙流してアンタに襲われたって訴えれば、アンタはもう終わりよ!」


 涙目でスマートフォンの写真を見せつけた牧原。


「いいよ、バラ撒けよ」

「!」


 牧原は、涼しい顔の達彦に驚く。


「ア、アンタ、絶対退学になるからね!」

「あっそ。うん、だからバラ撒いていいって言ってんだろ」


 取り巻きたちと顔を合わせて不思議がる牧原。

 達彦は、それを見てニヤニヤしていた。


「なぁ、オマエら、アレって何か知ってるか?」


 達彦は、図書室の天井の隅っこを指差す。

 そこには、黒い小さなドーム上のものが設置されていた。


「アレ、防犯カメラ」


 血の気が引く牧原たち。


 一般の教室には設置されていないが、学校の資産や薬剤などの盗難防止のため、図書室と実験室には、夏から防犯カメラが試験的に設置されていた。


「今までのやり取り全部撮影されてっけど、それでもその写真、バラ撒くの?」


 この時間、カメラは機能していないのだが、達彦はブラフをかける。


「ま、バラ撒きたきゃ、勝手にバラ撒け」


 ブラフが効いて、うなだれた牧原たち。


「さて、静先輩来ねぇなら、帰っか」


 達彦はカバンを持ち、帰ろうとする。


「ね、ねぇ、谷くん、ごめんなさい! この事は内緒に、ね!」


 達彦にすがりついた牧原。

 達彦は呆れ顔だ。


「あ! じゃあ、私とさせてあげる! したいでしょ! ね! ほら!」


 必死に媚びた笑みを浮かべ、下着を取って自分の胸をあらわにする牧原。

 達彦は、大きなため息をついた。


「オメェなんかと、金もらってもやらねぇよ、バーカ」


 達彦は、呆れきった表情をしている。


「静先輩に数学教えてもらえるはずだったのに、ったく……」


 苛立ちを隠さずに、達彦は図書室を出ていった。


 静かになった図書室。

 校庭から野球部の掛け声が聞こえてくる。


 立ち尽くす牧原に、取り巻きのひとりが声を掛ける。


「ね、ねぇ、マッキー(牧原)、もう帰 ……ヒッ!」


 胸をあらわにしたまま、牧原は憤怒の表情を浮かべていた。


「私より……私とするより……静との勉強の方がいいなんて……絶対ありえない……!」


 この時、牧原の怒りは、達彦ではなく、静へと向かっていた。


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