第88話 歪んだ悪意 - Noise Gate

22:12 幸[駿くん、起きてらっしゃいますか?]


22:13 駿[起きてるよー]


22:13 駿[個別チャット、珍しいね]


22:13 駿[(WELCOME! のスタンプ)]


22:14 幸[そうおっしゃっていただけると嬉しいです]


22:14 駿[(サムズアップのスタンプ)]


22:14 駿[どうしたの? 何かあった?]


22:15 幸[駿くんだけには、お話ししておこうと思いまして]


22:15 駿[うん、何でも聞くし、誰にも言わないよ]


22:16 幸[ありがとうございます]


22:16 幸[今日、中村(由紀乃)さん立ち会いの元]


22:16 幸[櫻井(委員長)さんと話をしてきました]


22:17 駿[委員長、どんな様子だった?]


22:17 幸[中村さんが説得したようで]


22:17 幸[自分の行ってきたことに、ようやく気付いたようです]


22:18 駿[気が付いてくれたんだね。それだけでも良かったよ]


22:18 幸[はい]


22:18 幸[それは良いニュースなのですが、悪いニュースもあります]


22:19 駿[悪いニュース?]


22:19 幸[私と駿くんだけの心に留めておきたい話です]


22:19 駿[わかった、絶対に口外はしない]


22:21 幸[花壇を荒らしたのも]


22:21 幸[ジュリアさんとココアさんの噂を流したのも]


22:21 幸[残念ながら櫻井さんでした]


22:22 駿[そっか……]


22:22 幸[思わず声を荒げてしまったのですが]


22:22 幸[櫻井さん、罪悪感に押し潰されそうになっていて]


22:23 幸[これ以上責めると、危険な判断をしそうで]


22:23 幸[それ以上は何も言えませんでした]


22:23 駿[うん、それで正解だと思う]


22:24 駿[悲しいし、腹も立つけど]


22:24 駿[文化祭で大勢の人にコスモス畑を楽しんでもらえたんだし]


22:24 駿[あんなことがあったから、キララたちとも親しくなれたんだし]


22:25 駿[そう思うようにしようよ]


22:25 幸[はい、駿くんに同意します]


22:25 幸[駿くんが優しい方で本当に良かったです]


22:26 幸[それと、条件を守ることを誓ってくれました]


22:26 駿[本人もそういった姿勢であれば]


22:26 駿[さっちゃんが襲われるようなことも、もう無さそうだね]


22:27 幸[はい、もう無いと思います]


22:28 幸[駿くんにお願いがあるのですが]


22:28 駿[いいよ、何でも言って]


22:29 幸[中村さんが櫻井さんについてくれているのですが]


22:29 幸[彼女たちに助けが必要な時、助けていただけませんでしょうか]


22:29 幸[もちろん、私も助けます]


22:29 駿[彼女たちが困っていたら、助けるのは当然でしょ!]


22:30 幸[ありがとうございます]


22:31 駿[さっちゃんもすっかり独り立ちって感じだね!]


22:31 幸[えっ! 私、駿くんたちとお別れなんですか?]


22:31 幸[私、イヤです]


22:31 駿[あー、ごめん! そういう意味じゃないよ!]


22:32 駿[オレを頼ってくれる機会が減っちゃうというか]


22:33 駿[あー、もうはっきり言っちゃうと、前にも言ったけど]


22:33 駿[さっちゃんの前でカッコつけたいんだよ、オレ]


22:34 駿[なんか、もう、心が狭くてすまん]


22:34 幸[駿くんは、いつもカッコイイです]


22:34 幸[私の中で、駿くんは頼れるヒーローですから]


22:36 駿[さっちゃんにそう言われると、マジで照れるな……]


22:36 幸[だから、また頼ってもいいですか?]


22:36 駿[もちろん!]


22:37 幸[それと、私のことも頼ってもらえると嬉しいです]


22:37 幸[駿くんの役に立ちたいです]


22:37 幸[何でもします]


22:38 駿[さっちゃん、ありがとう]


22:38 駿[お互いに支え合っていこう!]


22:38 幸[はい!]


22:39 駿[今回は、本当に大変だったね]


22:39 駿[被害者であるさっちゃんの勇気ある決断で]


22:40 駿[良いところに落ち着いたと思う。本当にお疲れ様でした]


22:40 幸[ありがとうございます!]


22:41 幸[何だか、無性に皆さんに会いたいです]


22:41 幸[明日、学校に行くのが楽しみです]


22:42 駿[うん、オレも明日さっちゃんと会うのを楽しみにしてるよ]


22:42 駿[おやすみ、さっちゃん]


22:42 幸[駿くん、おやすみなさい]


 ◇ ◇ ◇


 その後、珠子は条件通り毎日登校。

 登校後は、由紀乃と落ち着いて過ごしている。

 幸子やジュリアたちに絡んでくるようなことは無くなった。


 また、学級委員長は、体調不良を理由に辞任。

 由紀乃が後任の学級委員長となった。


 さらに、珠子は自身の心に問題があることを受け止めた。

 現在は、カウンセリングを受けながら、心身の復調に努めている。


 幸子へは、由紀乃から時折連絡が入っていた。

 それによると、当初は精神的に不安定で弱気になり、泣き出してしまうこともあったようだが、落ち着きつつあるとのこと。


 今のところ、幸子や駿に助けを求めるような事態にはなっていない。


 ◇ ◇ ◇


 ――放課後の帰り道


 冷たい風が吹く田園風景の中、並んで歩いている珠子と由紀乃を、夕陽がオレンジ色に染めていた。

 ふたりの表情は明るい。


「ねぇ、由紀乃」

「ん?」

「今さらだけど、私、わかったよ」

「なにが?」

「山田(幸子)さんには絶対かなわないって」

「そっか……」

「うん……自分を殺しかけた相手に、情けかけるような子だよ。かなうわけないよ」


 苦笑する珠子。


「由紀乃の家で会ったとき……」

「あの時か……」

「うん……別れ際に、私が『ありがとう』って言ったら、山田さん『その言葉を聞けて良かった』って、私に微笑んでくれたの」

「そうだったね」

「私が停学になったこと、噂にもなっていないし」

「うん」

「山田さんに勝てる要素が全然ないよ……」


 寂しげに微笑んだ珠子。


「由紀乃……」

「なに?」

「私みたいな薄汚い女でも、彼氏ってできるのかなぁ……」


 珠子は、微笑みながらもうつむく。


「できるよ」


 笑顔で答えた由紀乃。


「ホント?」

「珠子は、今、自分の心をクリーニングしてるじゃない?」


 珠子は、この後も、カウンセリングの予約が入っている。


「うん」

「そうやって自分から逃げずに、ちゃんと向き合って頑張っている女の子って、とても魅力的だよ。私はそう思う」

「由紀乃にそうやって言われると嬉しいな……」


 頬を赤く染めた珠子。


「まぁ、でも、私の方が先に彼氏作ると思うけどね」


 由紀乃は、ふふんっ、と胸を張る。


「えー」


 不満気な珠子。


「私に彼氏ができたら、珠子の相手なんてしてらんないからね」

「えー、なによそれー」

「あー、早く彼氏作んなきゃなぁ~」

「わ、私の方が先に彼氏作るもん!」

「珠子には無理じゃな~い?」


 由紀乃は、ニシシッといたずらっぽく笑った。


「あー! 言ったわね! 見てなさいよ! すっごいステキな彼氏作るから!」

「いいじゃない、それで山田さんたちに見せびらかしてやりましょうよ」

「それいいわね! あの子たち、驚かしてやるんだから!」


 むふぅー、とやる気を出す珠子。


「まぁ、夢見るのはタダだからね」


 由紀乃は、ふふふっ、と笑った。


「そうやって言ってるうちに、由紀乃も私の彼氏をうらやむことになるから」


 珠子も負けじと、ふふんっ、と笑った。


「ぷっ……」

「うふふふ…」

「あははははは!」


 ふたりの楽しそうな笑い声が通学路に響く。


 由紀乃は、珠子がまだ駿に心を残していることを知っている。

 それでも、駿を振り切り、新しい恋を見つけようと明るく振る舞う姿に、珠子の未来を感じた。


(珠子なら大丈夫! ステキな彼氏ができるよ!)


 由紀乃は、珠子を優しい眼差しで見つめた。


 ふたりに吹き付ける風は冷たく、冬の到来を感じさせる。

 それでもふたりは笑顔のまま、夕陽に照らされながら通学路を歩いていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る