第85話 歪んだ悪意 - Threshold

19:23 幸[皆さん、こんばんは]


19:23 亜[(I LOVE YOU のスタンプ)]


19:23 駿[こんばんは!]


19:24 ジ[さっちゃん、おーっす!]


19:24 キ[さっちゃん、こんばんは]


19:24 達[おいっす]


19:24 コ[さっちゃん、こんばんわ~]


19:24 太[(エビフライのスタンプ)]


19:25 亜[ブレねぇな、デブ!]


19:25 太[www]


19:25 幸[今日は、皆さんにご報告があります]


19:25 キ[どうしたの?]


19:26 幸[私を階段から突き落とした犯人がわかりました]


19:28 幸[櫻井珠子(委員長)さんです]


19:28 亜[ウソでしょ?]


19:28 キ[さっちゃん、それって間違いないの?]


19:29 幸[防犯カメラにその時の映像が残っていました]


19:29 幸[今日、校長先生から彼女への処分について説明がありました]


19:30 幸[十日間の停学となります]


19:30 ジ[は?]


19:30 ジ[さっちゃん殺しかけといて、停学? 何それ]


19:31 幸[ごめんなさい、説明不足でした]


19:32 幸[本来は退学や警察沙汰になるところなのですが]


19:32 幸[条件をのめば、それらを免れるようにしました]


19:32 コ[どうして?]


19:32 ジ[なんで? 退学でいいじゃん。逮捕でいいじゃん]


19:33 幸[櫻井さんが学校に未練を持っていない場合]


19:33 幸[退学させると野放しになる可能性が高いです]


19:33 幸[そうなると、皆さんも逆恨みの対象になるかもしれません]


19:34 幸[だから、目の届くところに置いた方が良いと考えました]


19:34 キ[なるほどね、さっちゃんの考えは理解できたよ]


19:34 ジ[あーしは、ちょっと納得いかない……]


19:35 亜[さっちゃんが彼女に出した条件って?]


19:36 幸[私たちに今後一切関わらないこと]


19:36 幸[謝罪とかは不要なので、自宅とかに押し掛けないこと]


19:37 幸[普段通り登校して、きちんと卒業すること]


19:37 幸[こんな感じです]


19:37 コ[?]


19:38 ジ[三番目のがよく分かんないんだけど……]


19:39 幸[駿くん。ここから先の話、お名前を出します。ごめんなさい]


19:39 駿[全然いいよ、気にしないで]


19:39 幸[ありがとうございます]


19:40 幸[今回の彼女の行動は、駿くんへの歪んだ想いが原因だと思っています]


19:41 幸[そんな彼女への罰は、私たちが普段通り、何も変わらず]


19:41 幸[駿くんと楽しく過ごしているところを見せることです]


19:41 幸[彼女にとって駿くんは、どんなに想っていても]


19:41 幸[もう手が届かない存在になりました]


19:42 幸[その状況が卒業まで続くわけです]


19:42 キ[駿のことをずっと想っていたのであれば]


19:42 キ[それ以上厳しい罰はないかもね……]


19:42 幸[彼女が救われる道は、自分と向き合って、今の状況を反省して]


19:43 幸[駿くんを諦めて、新しい恋を見つけることです]


19:43 亜[さっちゃん、意外と残酷ね……]


19:43 幸[殺されかけましたからね]


19:44 キ[その代わり、退学や警察沙汰にならないメリットは大きいね]


19:44 幸[はい、キララさんのおっしゃる通りです]


19:44 幸[ですので、これは彼女へ与えた最後のチャンスでもあります]


19:45 幸[そこに気がついてくれると嬉しいのですが……]


19:45 亜[気が付かなかったら、また危ない目に会うんじゃない……?]


19:46 幸[はい、それを避けるために、もうひとり巻き込みました]


19:46 幸[中村(由紀乃)さんです]


19:46 亜[由紀乃が一番彼女と親しいもんね……]


19:47 幸[今日、放課後に説明をしました]


19:47 幸[何か兆候があれば、教えていただけることになっています]


19:47 幸[LIMEも交換しました]


19:48 幸[ただ、中村さん、ものすごく泣いてらっしゃいました]


19:48 幸[巻き込んだのは私ですが、もう見ていられませんでした……]


19:49 達[そこはしょうがねぇよ、いつか知ることだしな]


19:49 達[さっちゃんが気に病むことはないと思うぜ]


19:50 幸[タッツンさん、ありがとうございます]


19:50 ジ[あーし的には、やっぱりガツンとやっちまった方がいいと思う]


19:50 コ[鉄拳制裁!]


19:51 幸[ジュリアさん、ココアさん、ありがとうございます]


19:51 幸[でも、それは絶対にしないでください]


19:52 幸[停学になったことも、わざわざ吹聴する必要はないと思います]


19:52 幸[私たちが普通に過ごしていることが、彼女には一番の罰です]


19:53 幸[ジュリアさんやココアさんが彼女に何かしたせいで]


19:53 幸[学校側から処分されるようなシーンは見たくないです……]


19:53 キ[ジュリア、ココア、ここはさっちゃんの考えに従おう]


19:54 ジ[わかった]


19:54 コ[うん、わかった]


19:54 ジ[さっちゃん、ゴメンね。あーし、バカだからさ]


19:55 幸[ジュリアさんのお気持ち、本当に嬉しいです]


19:55 コ[さっちゃん、安心して! 私たちがボディーガードするからね!]


19:55 キ[うん、私もそれを心掛けるよ]


19:56 幸[ココアさん、キララさん、本当にありがとうございます]


19:56 亜[三人とも、さっちゃんをよろしくね]


19:56 キ[任された!]


19:57 ジ[中澤(亜由美)よりも深い仲になっとくから]


19:57 コ[私も、さっちゃん、ぎゅーってして離さない!]


19:58 亜[神はなぜ私をさっちゃんと同じクラスにしなかったのか……]


19:58 太[普段の行い]


19:58 太[(プギャー! のスタンプ)]


19:59 亜[デブ、週明け覚えとけよ……]


19:59 太[wwwww]


20:00 駿[とりあえず、委員長の停学明けは]


20:00 駿[さっちゃんはもちろん、みんなも十分気をつけてな]


 ◇ ◇ ◇


 ――二週間後


 珠子(委員長)の停学が明ける。

 教室に姿を現す珠子。


「あれ? 委員長、おはよう。体調の方はもう大丈夫なの?」


 珠子は、突然クラスメイトから話し掛けられた。


「え、ええ、お陰様で……」

「良かったね! 無理しないでね!」


 笑顔で廊下に出ていくクラスメイト。


(私が停学だったこと、みんな知らない……?)


 珠子は、教室の一番隅にある駿の席に目を向ける。

 駿と達彦、そして幸子が談笑していた。


 それを憤怒の眼差しで見つめる。

 強く噛み締め過ぎて、奥歯がギリッと鳴った。


「委員長、おはよう。どうしたの?」


 後ろから声をかけられ、振り向くと由紀乃が立っていた。


「由紀乃……いいえ、何でもないわ……」


 由紀乃に背を向け、自分の席へ向かう珠子。


「何でもなくないじゃない……」


 悔しそうに呟く由紀乃の言葉は、珠子に届くことはなかった。


 ◇ ◇ ◇


 ――昼休み


 駿の席には、いつものように八人が揃って、楽しそうに昼食を取っている。

 珠子は、その光景を横目に睨みつけた。


「委員長……」

「な、なに、由紀乃?」

「様子が変だけど……」

「まだ調子が戻っていないのよ……気にしないで……」

「本当に気にしなくていいの……?」

「大丈夫って言ったら、大丈夫なの! 由紀乃、しつこい!」

「そう……」


 寂しい表情に変わる由紀乃。

 珠子は、それにすら気が付かなかった。


 ◇ ◇ ◇


 ――放課後


 自席で帰り支度をしている幸子。

 幸子の席は、一番前の一番廊下側、教室の扉の目の前だ。


 その前を、帰宅する珠子が通る。

 幸子を憎悪のこもった眼差しで見る珠子。

 幸子はそれに気付くが、意に介さない。

 教室を出ていく珠子。


 その後ろを追うように由紀乃がやってきた。

 幸子は、由紀乃にアイコンタクトをとる。

 由紀乃は泣きそうな顔になり、頭を左右に振った。

 そのまま由紀乃も教室を出ていく。


「委員長待って、一緒に帰ろ!」


 そして――


 ポコン


 幸子がスマートフォンを確認すると、由紀乃からLIMEが届いていた。

 メッセージは一言だけだった。


「話をしてみる」


 そっと目を閉じる幸子。

 由紀乃の気持ちを思うと、幸子の胸は張り裂けそうだった。

 しかし、直接関わりを持たないと決めた以上、幸子は話が良い方向に向かうことを、ただただ祈るしか無かった。


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