第53話 二学期の始まり (6)

 文化祭でのライブ開催のため、山辺生徒会長に相談した駿とキララ。

 その結果、会長から提案された「生徒会主催の講堂最終公演」を実現するため、会長自ら文化祭実行委員と掛け合ってもらえることになった。


 ――翌日の放課後


 音楽研究部の八人は、教室の中でそわそわしていた。


「駿、い、今、会長さんが交渉してくれてんだよね?」

「そうだよ、亜由美。ちょっと落ち着け」

「ま、まだかな、まだかな、駿」

「まだだよ、太。ちょっと落ち着け」

「ね、ねぇ、もう、あーし、お、落ち着かなくて……」

「いや、だから……」

「ドキドキだね~、ドキドキだね~、もうドキドキだよ~」

「…………」


 とにかくそわそわしていた。


「落ち着けっての!」


 その様子を見て苦笑する、達彦、キララ、幸子。


「見ろ、タッツンを! ドーンと構えてんだろ! こうあるべきだろ!」

「あーし、そうは見えないんだけど……」

「えっ?」


 駿が達彦を見ると、珍しく貧乏ゆすりしていた。


「あー、すまん……俺も落ち着かん……」


 ガックリする駿。

 大笑いしたキララと幸子。


「駿くん、落ち着かないのは仕方ないですよ」

「そうそう。まぁ、一番落ち着かないのは駿だと思うけど」


 キララは、ニヒヒッと笑う。


「まぁ、そりゃな……内心ドキドキだよ……」


 ポコン


 LIMEのメッセージが届いた音だ。

 慌ててスマートフォンをチェックする駿。


「会長からだ……」


 全員、身を乗り出した。


「ライブは……」


 全員が息を呑む。


「開催決定だ!」


「ぃやったーっ!」


 みんな抱き合い、大歓声を上げた。

 教室にいたクラスメートたちは、何事かとこちらを見ている。


「駿、やったね!」

「バッカ、何泣いてんだよ、亜由美!」

「だって、だって……」


 亜由美の頭を撫でる駿。


「タッツン! 太!」

「おぅ!」

「うん!」

「メロディーはタッツン、リズムは太、オマエらふたりがバンドの肝だからな!」

「おぅ、任せといてくれ!」

「う、うん、ボク頑張るから!」


 ふたりとハイタッチした駿。


「ジュリア、ココア、キララ!」


 抱き合って喜んでいる三人。


「オマエらには、ステージの演出や照明をお願いすることになる。ステージがカッコ良くなるか、ショボくなるかはオマエら次第だ! 頼んだぞ!」

「あーしに任せろって!」

「うん、私もがんばる~!」

「駿、サポートとバックアップ、よろしくな!」


 三人とハイタッチした駿。

 そして駿は、幸子に目を向ける。

 優しい微笑みを駿に向けていた幸子。


「駿くん、私がんばるから! きっと上手に歌ってみせるから! だから、また勇気をくださいね!」


 駿は、幸子の言葉にニッコリ微笑む。


「頼んだぜ、さっちゃん!」

「はい!」


 笑顔でハイタッチを決めた。


 ライブ開催という念願の目標を達成し、歓喜の声を上げる八人。

 賑やかなやり取りは、この後もしばらく続いた。


 ◇ ◇ ◇


「みんな落ち着いたね」


 全員椅子に座り、駿の話を聞いている。


「よし、改めてみんなの役割を説明していくね。まず、オレ」


 自分を指差した駿。


「バンマス(バンドの統括者)として、全体のマネジメントを行う。何か分からないことや困ったことがあったら言ってほしい。バンドのメンバーとしては、ボーカル兼ベースを担当する」


 みんな、駿の説明に頷く。


「次に、タッツン」

「おぅ」

「タッツンは、引き続きバンドのメンバーとして、リードギターの担当をよろしく頼む」

「OK、これまで通りだな」


「次は、太」

「うん」

「太もこれまで通り、バンドのメンバーとしてドラムを頼む。オマエがバンドの屋台骨だから、頼むな。それと、ご覧の通り女子が多いから、力仕事とかのサポートも積極的に頼む」

「うん、任せて!」


「亜由美」

「はーい」

「亜由美には、また色々やってもらうことになる。サイドギター、キーボード、あとはSE(サウンドエフェクト)とかだな」

「大丈夫、音作ってPC持ち込むわ」

「いつも悪いな」

「ノー問題よ」


「さっちゃん」

「はい」

「ボーカルを頼む。予定通り、一部でリードボーカルを取ってほしい。他の曲ではバックに回ってもらう。進化したさっちゃんに期待してるからね、よろしく!」

「はい! がんばります!」

「それと、花壇の世話との両立、大変だけど一緒に頑張っていこう!」

「はい!」


「ジュリアとココア」

「あいよー」

「は~い」

「ふたりには照明をお願いしたい。電気をつけたり、消したりだけじゃない。明るさを調整する調光器とかの操作をやってもらう。カラーのLEDステージライトを借りてくる予定なので、ふたりで手分けして、上手にステージを演出してほしい。それプラス、ピンスポットライトとかの操作だな」

「え、そんな機械の操作、あーしにできるかな……」

「難しい~……?」

「大丈夫、事前に操作の練習もしてもらうし、操作そのものも難しくないから。オレもサポートするから、安心して挑戦してほしい」

「う、うん、駿がそういうなら、あーし、頑張るよ!」

「私もここでがんばって、駿に恩返しする~」


 ふたりに笑顔でサムズアップする駿。


「最後に、キララ」

「うん」

「キララには、ステージの演出をお願いしたい。実は、オレの方で考えていることがあるので、パソコンでその演出の作成と、当日はその操作をお願いしたい。あとは、ジュリアとココアのサポートかな。観客目線で照明がどうかとか、そういうのをお願いできるかな」

「パソコンの操作、あんまり慣れてないけど……」

「これも操作自体は、まったく難しくない。演出の作成は、オレが教えるから、一緒にやっていこう」


 笑顔でOKマークを出したキララ。


「それと、ジュリア、ココア、キララには、朝練の参加をお願いしたい。実はオレたち、音楽室のスケジュールの都合で、早朝しか練習できないんだ。悪いけど協力してもらえるかな? スケジュールは後で教えるから」

「うん、キララが起こしてくれっしょ」

「キララが起こしてくれるし~、大丈夫だと思う~」

「ふたりとも私頼りかよ……」


 キララは頭を抱える。


「あー……キララ、頼むな」

「はーい……」


 キララの様子に、苦笑した駿。


「さて、役割についてざっくり説明したので、ライブについて、もう少し詳しく説明したい」


 全員姿勢を正す。


「まず今回は、生徒会主催の『さよなら講堂』という来校者向けのイベントに協力して、あの講堂で取り壊し前の最後の公演として演奏するかたちになる。オレらがおかしなことをすれば、学校や生徒会の顔に泥を塗ることになるので、そこはみんなもきちんと認識しておいてほしい」


 全員が頷いた。


「それから、事前に講堂を使用する許可も得てるけど、演奏のリハーサルは騒音の問題でできない。機材の事前のセッティングや、照明のリハーサルはできるので、ジュリア、ココア、キララ、その辺をうまくやっていこう」


 頷く三人。


「ちなみに、キーボードやドラムの大型機材や音響機材、照明機材は、ウチの店のレンタル機材を使うから、そこは心配いらない。音響の方も、店のオーナーの叔父がミキサー役を買って出てくれているので、こっちも問題ない」

「駿くん、あ、あの叔父様ですか……?」

「そう、龍司叔父さんね」

「だ、大丈夫でしょうか……女の子多いですが……」

「あー……綾さんにも来てもらおうか?」

「それがいいと思います……」

「んじゃ、当日店は臨時休業してもらうか……ライブのスケジュール確認しとかないとな……」


 達彦、亜由美、太は、今の話に苦笑い。

 ジュリア、ココア、キララは「?」だった。


「で、ここからが重要なんだけど……オレらが演奏できる時間は『三十分』だ」

「そんなもんか……」


 落胆する達彦。


「悪いな、会長もすごく頑張ってくれたからさ」

「まぁ、しょうがねぇか……」

「やはり体育館組から反対があったらしい……というか、軽音楽部からな」

「アイツら、もう一回締めようか……」

「亜由美、気持ちは分かるがここは我慢な」


 亜由美は不満そうに、むーっとした。


「ほら、世話になってるコーラス部とかの発表もあるし、吹奏楽部や演劇部も、文化祭に向けて頑張ってるからさ、そこは邪魔できないよ」

「そっか……そうだね」


 納得したのか、亜由美は頷いている。


「で、体育館でのイベントが全部終わった後、ライブ開始」

「ねぇ、体育館のイベントって、何時までやんの?」


 ジュリアが尋ねた。


「十六時まで。で、十七時に閉門、十八時から後夜祭らしい」

「うっわー、じゃあ文化祭終了間際の十六時から十七時までか……ウケるわ……」

「体育館組が終了直後からっていうと人も集まりづらいし、閉門ギリギリまでやるわけにもいかないから、実質十六時十五分から十六時四十五分まで、それで『三十分』だな」

「何曲やれるかな……」


 悩んでいる太。


「まぁ、詰め込めば六曲イケると思うけど、ある程度余裕をもって五曲だな」

「五曲か……駿、オマエ何やるか、案はあんのか?」


 達彦も悩んでいる様子だ。


「一応な」

「どんなのやる?」

「今回の観客は、もちろん生徒がメインだけど、『さよなら講堂』ってイベントに乗っかる形なので、先生や、それなりに年配の観客がいることも予想している。だから、そういった年配の音楽ファンが楽しめて、曲を知らない生徒たちにも楽しんでもらえる、そんなセットリストにしたい」

「具体的には?」

「1曲目は、ストレートなロックナンバーだな。みんながノレる曲だ」


 駿は三十年以上前に発表されたアメリカのヘビーメタルバンドのヒット曲を上げた。


「音楽研究部がこれからスタートを決めるのに、もってこいの曲だろ」


 達彦は頷く。


「二曲目は、夏休みにオマエさんが歌った曲だ。ホーンは無いけどな」


 これも三十年近く前の日本のバンドの曲だ。


「知ってる人は知っている、でも知らなくてもノレる。タッツン、ボーカル取るか?」

「いや、オマエに任せる」


 苦笑する達彦。


「三曲目はバラードでいく」


 駿が上げたのは、四十年以上前に発表された日本のカリスマロッカーの名バラード。


「駿、オマエこれ歌い切れるか?」

「タッツンが言いたいことは分かる。本物と同じようには絶対に歌えない。絶対に越えられない。だから、自分なりの解釈で歌うしかない。受け入れられるかは、正直分からん……」

「駿にとっての挑戦だな」


 駿は頷く。


「四曲目は、さっちゃん。例の歌を頼む」

「はい……」

「絶対できる。絶対歌える。オレが保証する」

「はい、やります。やらせてください!」


 幸子の目に熱い光が灯った。


「ラストは、オレとさっちゃんのデュオだ。カラオケの時に動画見せたよね」

「…………」


 一瞬の戸惑い。


「さっちゃん、練習するしかない。一緒にがんばろう」

「はい……!」


 周りを見渡す駿。


「オレの考えるセットリストは、こんな感じだな」

「俺はいいと思う。賛成だ」

「私も異論ないわ」

「ボクも面白い選曲だと思う。」

「はい、私はとにかく一生懸命歌うだけです。異論ありません」

「OK、じゃあ、これでいこう!」


 全員が笑顔になった。


「今日はこんなところだね。明日から練習をがんばろう。みんな手を出して」


 全員で円陣を組み、腕を伸ばし、手を重ねる。

 その光景に胸が熱くなる駿。


「ライブ、絶対成功させるぞ!」

「おーっ!」


 全員笑顔で腕を上げ、声を上げた。


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