第50話 二学期の始まり (3)
メンバーを揃え、現・同好会顧問の大谷に顧問継続の承諾を得て、第二軽音楽同好会を部へ昇格させることを確定的にした駿。
その数日後の昼休み。
駿、達彦、亜由美、太、幸子のいつもの五人に、ジュリア、ココア、キララの三人を加えた八人で昼食を取っている。ジュリアとココアの噂対策の一環で、周囲へ牽制する意味も含め、二学期に入ってからは、この八人で昼食を取るのがいつもの光景となっていた。
「部への昇格! やったね、駿!」
「まさか、もう話をまとめてくるとは……ボクも驚いたよ」
「駿、手が早いな」
部への昇格の話を聞いて、興奮冷めやらぬ亜由美、太、達彦。
「タッツン、言い方……」
駿は苦笑した。
「部員のとこに、あーしらの名前があるって、何か嬉しいな」
「駿、手が早い~」
「駿、昇格おめでとう! 一個ハードルをクリアだな」
喜ぶギャル軍団。
「ココア、だから言い方……手が早いって……」
駿は頭を抱えた。
「でも、大谷先生が色々ご提案くださって、本当に良かったですね!」
ニコニコ顔の幸子。
「そうだね、申請が通らないって言われたときは焦ったけどね」
「『音楽研究部』だっけ?」
亜由美が尋ねる。
「うん、異論はあるかもしんないけど、そこは我慢してくれ」
「異論なんてナイナイ! 全然OKでしょ!」
亜由美の言葉に、みんなが笑顔で頷いた。
「そういってくれると安心するよ」
ホッとする駿。
「まぁ、あとはライブが開催できるか、だな……」
駿の表情に影が落ちた。
「もう動いてるの?」
キララが尋ねる。
「一応な」
「どうだ、勝算ありそうか?」
心配そうな達彦。
「いや、正直苦戦中だ。文化祭実行委員に掛け合ったけど、体育館はスケジュールがいっぱいらしくて、相手にしてもらえん……」
静まり返る八人。
幸子が口を開いた。
「駿くん、会長に相談してみませんか?」
「あ、山辺会長か! そうだな……うん、それいいアイデアだわ! ナイス、さっちゃん!」
笑顔で応える駿。
「早速、今日の放課後にでも会長さんに相談してみるわ」
一縷の望みを見出し、みんなの間に安堵の空気が流れた。
キララが挙手する。
「私か中澤(亜由美)が付き添おうか? 今日もさっちゃん、コーラス部で練習でしょ?」
「それ助かる。女子がいると、その場の空気が柔らかくなるからな」
「あ、ゴメン! 私、今日ダメだわ」
腕をバッテンにした亜由美。
「じゃあ、私行こうか?」
「助かるよ、キララ。よろしくな」
キララは笑顔でOKマークを出す。
「ねー、駿。あーしらじゃダメな感じー?」
「ダメダメ~?」
むー、っとちょっとふくれっ面のジュリアとココア。
「バッカ、違うって! オマエらは秘密兵器なんだから、ここぞというときに登場しないと! 真のヒロインは最後に活躍するもんだろ?」
駿は、適当な事を言って誤魔化そうとする。
「プッ……ヒロインって……」
聞こえないように小さく吹き出した太。
「え……そうか……そうだな……エヘヘへ……あーしがヒロイン……」
「え~ ヒロイン~……? うふふふふふ」
ヒロインと言われて満更ではない様子のジュリアとココア。
その様子を見た、この場にいる全員が思った。
(こいつら、マジか……?)
「キララ……」
「んー……」
「ふたりの教育、頼むな……コイツら、悪い男に連れてかれんぞ、マジで……」
ヘラヘラとした笑みを浮かべているジュリアとココア。
キララは、大きなため息をついた。
◇ ◇ ◇
――放課後
駿とキララは、生徒会室に向かっていた。
「付き合ってくれて助かるよ。キララ、ありがとな」
「何言ってんの、あんだけ世話になったのに……何でも遠慮なく言って」
「じゃあ、ジュリアとココアの教育、よろしくな」
「それは遠慮したい……」
生徒会室の扉の前。
コンコン
「はい、どうぞ」
扉の奥から山辺生徒会長の声がする。
「失礼します」
中に入った駿とキララ。
以前と変わらず、折りたたみの長テーブルが二台並んでおり、そこ会長が座っている。
「おぉ、高橋くんか。いらっしゃい」
「ご無沙汰しております」
頭を下げた駿。
「紹介します。私の友人の伊藤さんです」
「伊藤と申します。よろしくお願いいたします」
キララは頭を下げる。
「生徒会長の山辺と申します。生徒会にようこそ」
笑顔でキララを迎えた会長。
会長に促され、折りたたみの椅子に座るふたり。
長テーブル二台を挟んで、正面に会長が座った。
「ところで、高橋くん」
「はい」
「なんか派手にやらかしたね」
三年生の教室に乗り込んで、騒ぎを起こしたことを思い出す駿。
「お騒がせして申し訳ございません……」
駿は、会長に頭を下げた。
「動画も見たよ。基本的に間違ったことは言っていないと思う」
ホッとする駿。
しかし、柔らかかった会長の表情が、急に厳しい表情に変わった。
「ただ、キミは吉村に暴力を振るったね?」
会長の声のトーンが変わる。臨時生徒総会で、学校側を糾弾した時と同じトーンだ。
駿も頭の中のスイッチを切り替える。姿勢を崩し、前のめりになり、テーブルの上で両腕を立て肘して手を組んだ。
「はい」
「それはダメだ。生徒会長としては認められない」
「大切な友人が暴力を振るわれていたとしてもですか?」
「暴力では何も解決しない」
生徒会室の中に緊張が走る。
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