第44話 夏の思い出 (7)

 終わりが近い夏休み。

 亜由美、太、ジュリア、ココア、キララ、そして幸子の六人は、カラオケを思う存分満喫した。


「ありがとうござましたー」


 カラオケ屋のフロント前のスペースで談笑する六人。


「何か中途半端な時間だね」


 キララがフロントの壁にかかった時計へ目を向けると、時間は四時を指していた。


「あ、駿、バイト終わったみたい。ついさっきLIME来てた」


 スマートフォンでLIMEをチェックしている亜由美。


「とりあえず、呼び出す……呼び出した」

「相変わらず行動が早いな」


 キララは、少し呆れ気味に笑っていた。


「ねぇ、みんな、この後のことなんだけどさ、ちょっと提案があるんだけど……」


 五人は、亜由美に耳を傾けた。


 ◇ ◇ ◇


 ――十分後


「うぃーっす、お待たせ」


 駿がカラオケ屋にやってきた。


「みんな、もうカラオケは楽しんだんだろ? どうする、ステージワン(多目的大型娯楽施設)でも行って、ボウリングとかダーツでもやる?」


 駿のその言葉に六人がニヤッと笑う。


「えっ、な、何……?」


 亜由美が一歩前に出た。


「駿、さっきみんなで話し合ったんだけどさ」

「う、うん」

「駿の部屋で遊びたいなぁ、なんて」

「えーっ! ウ、ウチ⁉」

「そう、駿の部屋」


 全員を見渡すと、皆期待の目を駿に向けている。


「七人は入んねぇだろ、あの部屋に。太もいるから、スペース的には八人分必要だぞ」

「あ、ボク、ここで離脱。ゴメン」


 駿に手を振った太。


「えっ、太、来ないの? じゃあ六人か……って、女の子ばっかりかよ!」

「あーら、私たちじゃご不満?」


 しなを作って、駿に迫る亜由美。


「ご不満じゃねぇけど、あんまり健全でもないだろ……まぁ、亜由美とキララがいるから大丈夫か……」

「何よ! あーしがいると大丈夫じゃねぇのかよ!」


 ジュリアは、ぷーっと頬を膨らませた。


「ハーレム、ハーレム~」


 なぜか楽しそうなココア。


 駿は、思わず救いを求める目を幸子に向ける。

 幸子は、苦笑いしていた。

 頭を抱える駿。


「わかった、わかったよ! ……じゃあ、ウチ来い」


「いぇーい!」


 大喜びの女性陣。


「その代わり、ウチは狭いし、何にもないからな! 文句言うなよ!」

「はーい!」


 素直な女性陣。


「まったく……そうしたら、迷惑になるから店出るよ」


 ぞろぞろとカラオケ屋を出る。


「駿、ゴメンね、ひとりにしちゃって」


 太が両手を合わせて駿に謝っていた。


「まぁ、しょうがねぇよ。それに女の子といっても、これだけ人数いれば間違いも起こらないだろうしな」

「あと……今日、ホントごめん……助けに来てくれて、ありがとう」


 落ち込む太。


「失敗したら、次取り返せ。それでいいんだから」


 駿は太と肩を組んだ。


「うん、わかった」


 笑顔で太の肩をバンバンッと叩く駿。


「じゃあ、みんなゴメンね。ボク、今日はここで失礼するね」

「おぅ、お疲れちゃん」

「小泉(太)、じゃあねぇ~」

「またな、小泉」

「デブ! 気をつけて帰れよ!」

「太くん、色々ありがとうございました。気をつけてね」


 太は、手を振って、帰っていった。


「んじゃ、こっちはウチに行きますか」


 ◇ ◇ ◇


 繁華街を抜け、十五分程歩いた住宅地にある古めのアパート。昭和の風情が漂う建物だ。


「な、何か、歴史を感じるアパートだな……」


 思ったことを言ってしまうジュリア。


「でも、中はリフォームされてるから」


 一階の角部屋、駿は扉のカギをガチャリと開けた。


「はい、どうぞ」


 五人を中に誘う駿。


「お邪魔しま……あ、中、すっごくキレイじゃん!」

「わ~、ホントだ~」


 ジュリアとココアは外観との違いに驚いた。


(わ~、駿くんの部屋だ~! 男の子の部屋、初めて入った……!)


 幸子も内心興奮していた。


 このアパートは、建物こそ古いものの、駿が入居した数年前に部屋をリフォームしたばかりで、まだまだピカピカの状態だった。

 駿の部屋は六畳一間のワンルームで、それに単身用のちょっとしたキッチン、そしてユニットバスが備えられている。部屋はフローリングで、エアコン完備。玄関脇には洗濯機が置かれていた。

 部屋の中には、小さなテーブルとベッド、テレビ、タンス代わりのカラーボックス、ノートパソコンが置いてある小さい本棚があり、ベースが壁に立てかけられている。音楽雑誌が床に何冊か散らばっているが、それ以外は片付けられていて、ホコリもなく、女子たちは部屋に清潔感を感じた。


 物珍しそうにキョロキョロするジュリア、ココア、キララ、幸子の四人。


「とりあえず、適当に座って」


 テーブルを中心に全員座ることが出来、駿はホッとした。


「全員座れたね、良かった……!」


 テーブルの上に、ここへ来る間に立ち寄ったコンビニで買った紙コップを並べ、ジュースを入れていく駿。紙皿もいくつか並べ、スナック菓子を入れた。


「悪いね、家の主に全部やらしちゃって」


 ニシシッと笑う亜由美。


「いいえ、お姫様たちのお手を煩わせるわけには参りませんので」


 駿は手を胸の前に当てて、スッと頭を下げた。


「お姫様だって~、きゃ~」


 頬を染めて喜ぶココア。


「せっかくだから乾杯しよう! みんなコップを持って」


 駿の音頭でコップを持った五人。


「オレらの友情に……乾杯!」

「かんぱーい!」


 声高らかに乾杯し、ジュースを飲みながら談笑する女性陣。

 駿は、テーブルの周りに入るスペースがなく、少し外れた部屋の端に座った。

 正確には、スペースが無いことも無いが、身体が密着しそうなので身を引いたのだ。


(これがどっかのマンガみたいなハーレム展開だったらねぇ……)


 楽しそうにお喋りに興じている五人。


(いや、違うな。オレを信頼してウチまで来てくれたんだ。これ以上ありがたいことはないな)


 嬉しくなって、ふと笑みが零れた駿。

 しかし、その顔に影が落ちる。


(まぁ、どちらにしたって……)


 駿は、複雑な表情で楽しそうな五人を見ていた。


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