第40話 夏の思い出 (3)

※ご注意※


物語の中に暴力的な描写がございます。

お読みいただく際には十分ご注意ください。

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 夏休みも終わりに近づいた八月下旬。

 亜由美、太、ジュリア、ココア、キララ、そして幸子の六人は、駅前のショッピングセンターの中にある大きなゲームセンターで楽しんでいた。

 しかし、太がアイスの食べ過ぎでお腹を壊し、女性陣から離れたすきに、それはやってきた。


「み~つけた」


 金髪男とピアス男。

 欲望の獣たちがやってきたのだ。


「やっぱり運命だったんだよ、俺たち!」

「お~、みんなかわいこちゃんばっかり!」


 うんざりした顔をする亜由美。

 キララが亜由美にそっと耳打ちした。


「コイツらって……」

「そう……例の『変なの』……」

「マジか……面倒くせぇ……」


 訝しげな表情になるキララ。


「ねぇねぇ、こんなトコで地味に遊んでないでさ、海でも行こうよ!」

「そうそう、俺らの車だったら全員乗れるから!」


 ジュリアが死ぬほど渋い表情になった。


「興味ねぇから、どっか行ってくんない、マジ迷惑」


 手でシッシッと払う。


「おととい来やがれです~」


 男たちに手を振ったココア。


「そんなツレないこと言わないでさぁ、俺たちと楽しんじゃおうよ!」


 ココアの腕を掴もうとする金髪男。


 パンッ


 その腕を払い、ジュリアとココア、ふたりの前に出たキララ。


「ココアに触んな!」


 キッと睨みつける。


「お~、ショートヘアのキミもカワイイじゃん! ね、キミも行こうよ!」


 ヘラヘラしながら、キララに近づいてきた金髪男。


 ――一方


「キミもまた会えたんだからさ、運命だと思って、海行こうよ!」


 ピアス男は、亜由美にまとわりついている。

 亜由美の後ろでは、幸子が怯えていた。


「ツレがいるんで、すぐ帰ってきますよ……」


 亜由美が、先日のように駿や達彦が来るかもしれないことを匂わす。


「ウソばっかり~、あのおデブちゃんだけだよね、今日は~」


(バレてる……マズい……大声出して、店員呼んだ方がいいか……?)


「しかも、トイレ駆け込んで出てこないし」

「店員さん!」


 大声を出した亜由美。

 しかし、周囲のビデオゲームやコインゲーム、ぬいぐるみキャッチャーなどから発せられる電子音に阻まれ、声が遠くまで通った感触は無い。また、夏休み期間中とはいえ、今は平日の午前中で、店員の数も少なかった。


「店員さん、来そうにないねぇ~。諦めてさぁ、遊び行こうよ、ね!」


 ニヤニヤ笑うピアス男。


(クッソ……)


「痛いっ! 離して!」


 亜由美が声のする方を見ると、キララが金髪男に腕を捕まれていた。


「伊藤(キララ)!」


 亜由美が動くよりも早く、後ろにいた幸子が動く。


 ドンッ


 幸子は、金髪男を勢いをつけて両手で突き押した。

 思わず尻もちをつく金髪男。


「や、やめてください……け、警察を呼びますよ……」


 震える手でスマートフォンを持つ幸子。

 最初はポカンとしていた金髪男。


「ぎゃはははは! おめぇ、なにチビッコにやられてんだよ!」


 ピアス男のその言葉にプライドを傷付けられたのか、顔を真っ赤にして、幸子に向かっていく。


 バチンッ ドサァッ


 怒りに任せて、幸子の頬を張った金髪男。

 幸子は、そのまま吹き飛ばされて、床に倒れ込んでしまう。

 顔を上げると、金髪男が迫ってきた。


「あ……ぁう……(こ、声が出ない!)」


 スマートフォンも衝撃でどこかに手放してしまった。

 怒りの表情を浮かべた金髪男が幸子に言い放つ。


「おい、クソチビ! おめぇみたいなブスは、最初からアウトオブ眼中なんだよ! 気持ち悪ぃツラしやがって!」


 全身のガクガクとした震えが治まらない。


(か、身体が動かない! 身体が動かない!)


 恐怖に身体がすくみ、動くことができない幸子。


「おい! やめろ!」


 キララが金髪男に後ろから掴みかかり、止めようとする。

 が、腕の一振りで振り払われ、尻もちをついてしまった。

 幸子を救おうと、幸子の元へ向かおうとした亜由美は、ピアス男に道を阻まれる。


「ほら~、おとなしく俺たちと遊びに行かないからだよ~」


 ニヤニヤしているピアス男。


「一緒に行くならアイツ止めてあげるよ? ね? だからさ~」


 ジュリアとココアは、ふたりで手を握り合って怯えていた。

 怒りの表情を浮かべ、幸子の方へと向かってくる金髪男。

 恐怖から思わず目をつぶった幸子。


(だ、誰か、誰か助けて……駿くん……駿くん、助けて……!)


 ガッ ドザァッ


 幸子が恐る恐る目を開けると、金髪男が倒れている。


「さっちゃん! キララ! 大丈夫か?!」


 そこに駿がいた。

 急いで走ってきたであろう、汗びっしょりで、肩で息をしている。


(駿くん……本当にここに……)


 駿は、金髪男の胸ぐらを掴んで、無理矢理立たせた。


「い、いや、お、俺たちは、何も……」


 目を泳がせながら言い訳になっていない言い訳をする金髪男。


「さっちゃんとキララをこんな目にあわせたのは、お前だな」

「あ、あの……」


 ドガンッ


 自販機と自販機の間の壁に、胸ぐらを掴んだまま、金髪男を押し付けた駿。

 汗に濡れた駿の両腕の筋肉がパンパンに張り、血管が浮き出ているのが見える。


 ゴッ ゴッ ガッ ゴッ ガッ


 壁に押し付けたまま、金髪男の顔面を何度も殴りつける駿。


「や、やめ……」


 ゴグッ


 金髪男の顔面に思い切り頭突きを入れた。


「何すんだテメェ!」


 バンッ


 駿の臀部に蹴りを入れるピアス男。

 しかし、駿はびくともしない。

 後ろを振り向き、ピアス男を睨みつけた駿。


「!」


 怖気づくピアス男。

 駿は金髪男に向き直った。


 ゴグッ


 もう一度、金髪男の顔面に頭突きを入れる。

 ずるずると崩れるように倒れた金髪男。そして駿は、倒れた男へ馬乗りになり、右腕を振り上げる。


「駿! ダメ!」


 駿に後ろから抱きついて、これ以上の制裁を止めようとした亜由美。


「これ以上はダメ。ね、分かるでしょ」


 このままでは金髪男を殺しかねない駿を優しく諭す。


「わかった……」


 まだ意識のある金髪男とピアス男を正座させ、スマートフォンで写真を撮った駿。


「この写真は、地廻りの連中に流す。この街でしているヤツらだと。連中に捕まったら、こんなもんじゃすまねぇぞ。わかるよな」


 顔面蒼白で頷くピアス男。

 顔を腫らせた金髪男は、ただうつむいていた。


「いいか、二度とこの街に来るな。二度とだ。わかったか。わかったら、さっさと消えろ」


 慌てて立ち上がり、金髪男に肩を貸しながらすごすご去っていくピアス男。

 獣の襲来は、土壇場で駿が救出に駆けつけたことにより終わりを告げた。


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