第38話 夏の思い出 (1)

 夏休みも終わりに近づいた八月下旬。まだまだ猛暑は続いていた。

 今は、まだ朝といえる時間だが、すでに蒸し蒸しした暑苦しい空気が身体にまとわりついてくる。


「姉御、暑いッスね……(シャクシャク)」

「十時前でこの暑さって、午後はヤバそうだよね……」


 太と亜由美が駅前交番の近くで、他の四人を待っている。

 今日は、お巡りさんもいるので安心だ。


「早くみんな来ないかなぁ……(シャクシャク)」

「そうだね……」

「姉御」

「ん?」

「ちょっとそこのコンビニでアイス買ってきていい?」

「今、カップのかき氷、食ってたよな……?」

「うん、全部食べちゃった」

「まだ食うの?」

「うん、暑いし……姉御も食べる?」

「私はいいわ、行っといで」

「うん、ちょっと待っててね」

「あいよー」


 太は、食べ終わったかき氷のカップを持って、コンビニへ向かう。

 ひとりになった亜由美。

 今日はスポーツブランドの黒のキャップに、白いTシャツ、黒いスキニージーンズ、黒のサンダル、黒のボディバッグと、黒と白を基調としたストリート系ファッションだ。黒にも白にも、派手な金髪の長い髪が美しく映えている。

 そんな美少女に、欲望を溢れ出させた獣が近づいてきた。


「あっれ~、奇遇だね! 前もここで会ったよね!」

「運命だよ、これは! じゃ、俺たちと遊びに行こ!」


 見覚えのある金髪男とピアス男がヘラヘラと近づいてきた。


「おまわりさーん」


 間髪入れずに、躊躇なく警官を呼ぶ亜由美。

 それに気付いた警官がやってきた。


「どうしました? 何かお困りごとですか?」

「あ、知り合いがいたんで、声を……」

「ウソです。しつこくナンパされて困っていました」


 金髪男の言い訳に被せるように話す亜由美。


「このお嬢さん、困っているみたいだから、やめてあげなさい」


 警官は、金髪男とピアス男を優しく笑顔で諭した。


「お、お巡りさんに何の権限があるんだよ! 話掛けただけだろ!」


 半ギレする金髪男。

 警官の顔から笑顔が消えた。


「まさかと思うけど、あそこのロータリーに止めてある車、キミたちの車じゃないよね?」

「え?」

「あそこは、バスとタクシー以外、駐停車禁止なんだけど」


 げっ! という顔をする金髪男とピアス男。


「違反切符……」

「す、すみません、知らなかったんです! すぐに移動させます!」


 慌てて車へ戻っていったふたり。


「お忙しいところ、ありがとうございました。大変助かりました」


 亜由美は、警官に頭を下げる。

 警官はニコリと微笑んで、交番の前に戻っていった。


「姉御、ただいま~」


 スパーンッ


「いってー!」


 棒アイスを持って帰ってきた太の腿に、亜由美のキックが炸裂する。


「オマエは役に立たねえな! もう!」


 太は腿を押さえて涙目だ。

 警官は、そんなふたりの様子を見て苦笑するのだった。


「おっはー」

「おはよ~」

「中澤(亜由美)、小泉(太)、おはよう」


 亜由美と太がじゃれていると、ギャル軍団がやってきた。


「おーっす……どっからどう見ても、ギャルって感じだな……」


 亜由美が三人を舐めるように見る。

 白ギャル・金髪のジュリアは、ロゴが入った黒のタンクトップ、穴あきデニムに、派手目なシルバーのサンダルを合わせていた。

 黒ギャル・銀髪のココアは、ピンクのキャミソール、デニムのショートパンツに、白のウェッジソールサンダルを履いている。

 茶髪・ショートのキララは、ブラウンのタンクトップに、デニム、編み込みのサンダルを履き、白地に淡い桃色のストライプが入ったワンピースを羽織っていた。


「あっためぇだろ、ギャルなんだからよぉ」

「ぴちぴちのJKですよ~」


 ジュリアとココアがポーズを決めた。


「あ、でも伊藤(キララ)は、お姉さんって感じでアダルティだな」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。中澤もカッコ良く決まってるな」

「ありがと!」


 女性陣がお互いをファッションチェックして、キャイキャイしている。


「で、小泉さぁ……女の子と遊び行くのに……こう、何かねぇの……?」


 ジュリアが太をジロジロ見た。

 太は、白のTシャツに、オリーブグリーンのハーフパンツ、濃紺のクロックスを履き、手には棒アイスを持っている。


「あー、山口(ジュリア)、コイツも、駿も、タッツンも、もう全然ダメ。ファッションのファの字も無いから」


 諦めの目をして太を見る亜由美。


「ファの字も無い~」


 ココアは、なぜか楽しげだ。


「まぁ、でも、これはこれで小泉らしいんじゃない」


 苦笑いするキララ。


「みなさん、おはようございます!」


 最後にやってきた幸子が元気に挨拶をした。


「さっちゃん、おはよう……わ~、すっごく可愛い!」


 キララが笑顔で驚く。


「わっ、ホントだ! お人形さんみてぇ!」


 目を見開いて驚いたジュリア。

 今日の幸子は、ポニーテールにして、淡いライトグリーンのブラウス、白のシアーチェックスカート、シルバーのサンダルに、キャメルカラーの小さなトートバッグを持っている。ブラウスとスカートは、肌や下着が透けるほどではないが、身体のシルエットがかすかに感じられる程度の透明感があり、上品で涼し気な装いだ。


「わ~、さっちゃんだ~」


 パタパタパタっと幸子に駆け寄り、頭を大きな胸にギュッと抱くココア。


「ココアさん、おはようございます!」


 幸子も笑顔でココアの背中に手を回した。


 カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ

 カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ


 無言&真顔のまま、スマートフォンで写真を撮り続ける亜由美。


 カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ

 カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ カシャッ


「あ、姉御、怖いって……」


 亜由美の様子を見て、さすがにツッコむ太。


「さて、これで全員揃ったね」


 キララが全員を見渡した。


「どうしよっか?」


 全員に尋ねる亜由美。


「昨日あーしらでちょっと話したんだけどさ、ゲーセン行かね?」

「ショッピングセンターの中に大きなのがあるよね~」


 太がうんうんと頷いた。


「涼しいし、いいんじゃない? さっちゃんはどう?」


 幸子に尋ねる亜由美。


「あの……ゲームセンター……行ったことないです……」


 幸子は、恥ずかしげにうつむいて答えた。


「おー、じゃあちょうどいいね! ゲーセンで遊ぼうよ!」


 幸子の肩を抱いて、笑顔で顔を覗き込むキララ。


「はい、行ってみたいです!」


 幸子は、笑顔で答えた。


「じゃあ、決定な! 早速行こうぜ! レッツラゴー!」

「お~」


 暑い中、元気なジュリアとココア。


(シャクシャクシャク)


 太は、まだ棒アイスを食べていた。


(ゲームセンター、一度行ってみたかったんだぁ、楽しみ……!)


 胸弾む幸子は、楽しい一日になることを予感しながら、五人とともにゲームセンターのあるショッピングセンターへと向かっていった。


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