第13話 恋愛小説 (2)
「ちょっと、何やってるの!」
幸子が顔を上げると、学級委員長の 櫻井 珠子 と、その友人である 中村 由紀乃 が立っていた。
高校一年生で幸子の同級生。黒髪おさげで、見た目もあだ名も『委員長』。
昔から生真面目で、小学校の頃から学級委員長などを務める。真面目過ぎて、融通の効かないところがある。
高校一年生で幸子の同級生。黒髪のボブで、ちょっとぽっちゃりしたいつも笑顔の可愛らしい女の子。
委員長の親友で、暴走しがちな委員長のストッパー役のつもり。
ふたりとも駿やギャル軍団とは、小学校時代からの長い付き合いだ。
「まさか、山田さんをイジメたりしてたんじゃないでしょうね!」
委員長がギャル軍団に凄む。
「んなことしてねぇって、委員長」
やれやれという感じで対応したジュリア。
「あーしらバカだけど、そんなことしねぇって知ってんだろ、委員長? 長い付き合いなんだからさぁ。由紀乃からも言ってくれよ」
由紀乃が口を挟む。
「うーん、そうだね、そういうことはしないと思うけど……」
「『思うけど』で止めるな」
苦笑いしたキララ。
はぁ、と小さなため息をついて、キララが続ける。
「ごめんごめん、山田さんが読んでた本に興味があって、無理矢理このバカが山田さんから取り上げたんだよ」
キララは、親指でジュリアを指した。
「山田さん、ごめんね。私がもっと強く言えばよかったね」
幸子に謝罪するキララ。
しかし、幸子は下を向いたまま、身動きひとつしない。
「いんや、委員長、すげぇんだって、この小説!」
小説の挿絵を委員長に見せつけるジュリア。
「な、すげぇだろ!」
「もうやめろって!」
キララは、ジュリアに声を荒げた。
ジュリアから本を受け取り、挿絵を確認して、中身を読んでいく委員長。
そして、本をそっと閉じ、カバーを外して表紙を確認する。
「山田さん、これはあなたには早いんじゃないかしら」
えっ、という表情で顔を上げた幸子。
「セックスに興味があるのはわかるけど、あまりにも扇情的で下劣な内容だわ」
「そ、そんな内容ではありません……」
「実際、そういう内容でしょ、違う?」
「そういうのが主眼の小説では……」
委員長は、ハッと呆れた表情を見せる。
「でも、随分と具体的な描写があるじゃないの」
下を向いてしまった幸子。
「あなたのこの小説と、馬鹿な男子が持ち込む成人向けの本やアダルトDVDと何が違うの?」
バンッ
「そんな言い方ねぇだろ!」
机を叩き、大声で反論したのはキララだった。
驚いて顔を上げる幸子。
「今時の恋愛小説だったら、セックスのシーンは普通にあるだろうが!」
キララは、苛立ちを隠す様子もない。
「恋愛小説読んで、素敵な恋愛やセックスを夢見ることの何がいけねぇんだよ!」
ふぅ、と呆れたように委員長が答えた。
「私たち高校生には早いと申し上げました。大体法律では……」
「法律の話なんかしてねぇんだよ、バーカ」
「バカですって!」
息を呑んでビビりながら様子を見守るジュリアとココア。
由紀乃もどうしたら良いのか、言い争うふたりの間であわあわしていた。
「じゃあさぁ、この小説読んで、気分高揚しちゃって、どっかの男へかんたんに股開くような馬鹿な女だと思うか、山田さんが?」
「そ、それは……」
「私らはバカかもしんねぇけど、山田さんはそうじゃねぇんだからさ、何が正しくて何が間違っているかなんて、分かってるに決まってんだろうが!」
バンッ
声を荒げながら机を叩くキララ。
「で、でも、最近は高橋(駿)くんたちと仲良くして……」
「は? 高橋たちと仲良いのとセックスと何の関係があんの?」
「…………」
委員長は、言葉が出ない。
「あぁ、お前、昔高橋のこと好きだったもんな」
「!」
きっ! と、キララを睨む委員長。
「山田さんが高橋とかと仲いいから焼いてんだろ」
キララは、いやらしく笑みを浮かべた。
「あのさぁ、高橋や谷(達彦)、小泉(太)とかがさぁ、どっかの阿呆なチャラ男みたいに山田さんに手ぇ出して、泣かせるような真似すると思う? まぁ、中澤(亜由美)が絶対許さないと思うけど」
「…………」
何も言えず下を向く委員長。
真面目な表情に変わったキララが、委員長に近づいて顔を覗き込んだ。
「お前、山田さんだけじゃなく、高橋たちのことも馬鹿にし過ぎ。なめんじゃねぇぞ」
ふんっ、とキララは、委員長を言葉で切り捨てる。
「おぉ、珍しい顔ぶれ」
駿が登校してきた。
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