02

 ハッと目を開けた。息は乱れていて、全身に冷や汗をかいている。

 起き上がって、額の汗を拭った。


「……ゆめ」


 随分と嫌な夢だ。

 のそのそと起き出して、隣にある桂十郎の部屋をノックした。

 返事は無い。まだ夜も明けない時間だ、当然寝ているのだろう。

 胸がザワザワとして落ち着かない。今、無事な顔を見たいのに。今、温かい身体に触れたいのに。

 少し経ってから、その部屋の扉が開いた。


「……セレン? どうかしたのか?」


 あくびを噛み殺すようにしながら姿を見せたのは、いつもと変わらない桂十郎だ。現実では何も無かったらしい。良かった。

 安心して息をつきながら、桂十郎の腰にぎゅっと抱き着く。温かい。

 この人を、守らなければ。何に変えても。


「? 大丈夫か?」


 頭上から、心配そうな声が降ってくる。ポンポンと優しく背を撫でられる。

 顔を上げないままに、セレンはゆっくりと口を開いた。


「うん。今、大丈夫になった」


 ただの夢だ。リアリティがあったわけでもない。

 それでもこんなに不安になるのは、やはり自分が弱いからに他ならないのだろう。もっと強くなれば、不安になることもないのだろうか。

 いや、きっとずっと、不安がなくなることなど無いのだろう。

 少しの間のあと、ちょんちょんと腕をつつかれる。顔を上げてみると、僅かに桂十郎が屈んだ。促されるままに腕を彼の首に絡めれば、ひょいと抱え上げられる。


「えっ?」

「まだ朝まで時間あるし、もうちょい寝よう」


 そう言って桂十郎はそのまま部屋の中へ進んでいく。ベッドへ降ろされる頃にはセレンを横抱きに抱える彼の腕がプルプルと震えていることに気付いてしまったが、何も言わないことにした。

 本来、人一人を抱え上げるのには結構な力が要る。以前セレンが軽々と桂十郎を抱え上げたのは、あくまでヒュペリオン体質によって人並み以上に力があったからだ。

 書類仕事がほとんどで恐らく非力な桂十郎がセレンを抱え上げられただけでも充分頑張っていると言えるだろう。

 隣に横になった桂十郎は布団を被せ、ぎゅっとセレンを抱き寄せる。温かい腕に包まれて、セレンはゆっくりとまどろみ始めた。

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