第四幕

01

 身に纏っているのは、いつかの白い和装。足元には血溜まりがあって、両手は血で真っ赤に濡れていた。

 誰の血だろう。

 殺し屋稼業の暗殺仕事は辞めたし、今の仕事で誰かを殺すと言ってもこの服は着ない。

 何をしていたのか思い出せない。

 僅か、顔を上げてみる。血溜まりの先、そこにあったのは、


『……えっ』


 血溜まりの中に横たわっているのは、セティエス、アイシア、セディア、


『な、に……コレ……』


 悠仁、海斗、聖、それに、


『桂十郎さん……っ!!』


 駆け寄って膝を折る。触れてみても、生きた人間の温もりは無い。


『どうして!? 桂十郎さんの周りには、』


 絶対的な守りがある筈。

 そう言おうとして、その先に気付いた。

 同じように血溜まりに横たわった、『羊』の五人、弦月、香乙、吾郎。


『なに? 何があったの?』


 こんなこと、自分に出来る筈は無い。だって自分よりも強い者が、この中には何人も居るのだから。

 一体何が起こっているというのか。何が起こっていたというのか。


『お前のせいだよ』

『!!?』


 耳馴染みのある、優しい穏やかな声がして、勢いよく振り返る。

 そこに、記憶の中と何一つ変わらない、何処か悲しげでもありながら優しい微笑みを湛えてセレンを見つめるルヴァイドが居た。


『知っているだろう? お前の存在は、お前の周りに居る者を不幸にする』


 変わらない微笑みで、変わらない優しい声で言うルヴァイドの言葉に、忘れかけていたことを思い出す。


『許されると思ったのか? お前の「罪」は、殺しを重ねたことじゃない』


 忘れてはいけない。


『お前が産まれたこと、お前が生きていることが「罪」なんだよ』


 終わらせなければいけないんだ、この「罪」を。


『「罪」には、「罰」を』


 血溜まりの中で、まるで眠るように横たわる面々を見つめる。

 これが「罰」なのだろうか。


『っあ……!』


 腕の中の桂十郎の身体が崩れた。


『いや……っ』


 どうして自分ではなく、周りにばかり害が及ぶのか。


『やめてっ、お願い……!』


 無駄だよ、とルヴァイドが笑う。優しく、どこまでも優しい微笑みで。

 崩れ続けていた桂十郎の身体は、砂のようにサラサラと流れて消えた。


『っい……いやあぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁあァぁあぁぁぁあぁぁあぁっっっ!!!!!』

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