第34話 邂逅 3
「ジョージ……?」
教会の管理棟には医務室が備えられている。
そのベットにリリアン・ダイクンギアは身体を横たえていた。治療をうけたリリアンはずっと眠っていた。毒を受けているので容体を監視するため、医療技術をもったシスターが交代で側についている。
そんな彼女が先ほどからのジョージ来襲(ついでにご遺体の到着)の教会のドタバタ騒ぎに目を覚ました。
「ゆりぽん、ゆっくりしておられよ。
今は身体を休める時でござる」
ベットの側には立ち上がりかけた状態のコネリーがいた。その後ろにはエルフ騎士レイチェルがに座り腕組みをしている。
「……リリアン」
「ん?」
横たわったままの彼女は、視線だけをコネリーに向けてそう言った。
「わたしの名前、リリアン」
「……う、うむ。
リリアン……リリアン殿か。失礼した」
「ゆりぽんは……とっくにおしまい」
「……。
―…そうでござるな」
コネリーはゆっくりと椅子に座り直した。
「ねぇ。冒険者くん。
なにか外が騒がしいみたいだけど……」
「ん? なんでござろうな」
「この街の公民館を襲った襲撃者たちの遺体を一時的に教会が預かることになったのだ。
それに伴って『ジョージ』が来るらしいと言うので年長の者たちとか、心が定まっていない者達が騒いでいるのだ」
まったく、と腕組みをしたレイチェルがため息をついた。
「それとだな、そいつの名前はコネリーだ。
自分が芸名では無く本名で呼んでほしいと願ったんだ。
ならば、そいつの名前もあだ名ではなくて、本名で呼んでやるというのが筋だろう?」
指先で組んだ腕をぽんぽんと叩くレイチェル。
「あ……ごめんなさい。
その、コネリー……さん?」
「む……本名で呼ばれると何か落ち着かないでござる」
互いを本名で呼びあうと、互いの距離感がはっきりと意識されるようにはる。アイドルとファンの偽りの親近感が崩れてしまったのだ。
「ちなみにわたしの名前はレイチェルだ」
「「あ……はい」」
妙な沈黙が流れる。
徐々に申し訳なさそうな顔をするレイチェル。
つい普段の癖でちょっと強めに言い過ぎたのかもしれない、と彼女は反省した。
「……そ、その何だ。
落ち着いたようだし、リリアン殿か、ちょっと事情を聞かせてもらってよいか?」
そう言ってレイチェルは側の小テーブル上に置かれていた一通の封書を取り出す。
「申し訳ないが、汚れた衣服を着替えたときに着ていた服をあらためさせてもらった。
……帝国の民であるおぬしが、帝国の普通ではない兵に、さらに他国で襲われる。それにこの手紙。この手紙の封蝋には帝国王宮の印が押されている。
これらから推測するに、リリアン殿は王宮からの何か危険な使命をうけてこの街にやってきたと思うが……」
レイチェルの手の中にある封書をリリアンは目で追っていた。
「ここは教会だし、我ら二人とも教会所属のものだ。教会はリリアリア王家ともヴァルガンド帝国のどちらの下についてはいない。ここで話した内容の秘密はエルフの神に誓って守ろう。必要だったら、こいつの記憶を一部消し去ってもよい」
コネリーはレイチェルに指さされぎょっとする。
「……ジョージ様への取り次ぎをお願いできますか?」
「ジョージ?」
「はい。三十年前のリリアリア王国王都防衛戦での英雄……。
トレードマークの大きな太刀を構え、銀色の長髪を靡かせるその姿は精霊獣フェンリルに例えらる。一見県剣士のように見えて実は風魔法も得意で、立体的に空間を使い帝国軍の中に飛び込み鬼神の如く切り込み蹴散らすこと多数。帝国軍の貴族を蹴散らしたことで帝国の貴族に反感を持っている帝国庶民の間で人気があることこの上なし。一時はジョージ様グッツが帝国内で人気を博し帝国の治安機構はこれを取り締まること多数で、最後には諦めてしまった。そのジョージと対等に戦った今の侍従長の庶民人気もうなぎ登り。今もあの王都攻防戦を題材にした演劇は何度も再演される人気題目になっている。アイドル男性俳優の誰がどの役をするのかで女子の鼻息は荒くなる。そうよね、ふふふ。庶民の出でありながらも、その身のこなし、その気品、その正義への中世を誓う心が帝国軍内でも尊敬され、その野性味あふれる甘いマスクに心ときめかせ遺伝子を書房する戦場の男女が多数あらわれるジョージ・グレイヘッド様の役なんて並のアイドルじゃできないわ……」
「「お、おう……」」
思わずコネリーとジョージは思わず顔を見合わせる。レイチェルは小声で、まだ毒が抜けていないのか?と訊いた。コネリーはわからないと顔を振った。
「……最後の方はよくわからないが、三十年前のリリアリア王国王都防衛戦の英雄の『ジョージ』なら、今教会に来ているジョージではあるな。
それであれば……」
レイチェルがそう言うとリリアンは上半身をがばりと起こした。
彼女の服は病人用の簡素なワンピースだった。
「ジョージ様に会える……」
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