第33話 邂逅 2
空は茜色に染まっている。
その夕焼け空の下、教会は騒然としていた。
「馬車は?」
「そろそろ門に来ますわ」
公民館襲撃者の遺体をのせた馬車隊が来るとの先触れを受けていたからだ。
その知らせが伝わると、教会の管理棟のシスターや女性エルフ騎士達に緊張感が走った。無理はない、自分たちがこの街を襲う異常の一端に巻き込まれようとしているのだ。
「大変よ!
金物屋のジョージがくるわ!」
………。
…………理由はともあれ、教会は騒然としていた。
廊下では数人のシスターは固まって深刻な顔をしている。
「ついに……この時が」
「ジョージが、ジョージが来る……」
「ああ、神よ……」
……彼女たちは一体何を神に祈っているのか。
シスター達が祈ったり走り回ったりで大騒ぎになっている教会管理棟の廊下の喧噪の中を、小さなエルフの少女騎士が口に手を拡声器のように当てて歩いていた。
「あのー……、ご遺体も来ますよ-。
むしろこっちがメインですけど……」
すでに伝達することを諦めた力が抜けた声だった。
その少女騎士の名はローラン。教会付属学校の教師兼、教会騎士団の下っ端である。
ちなみに教会への先触れを伝えにきたのは彼女であった。
「騎士ローラン、なにをしている。
ジョージが来るんだぞ。……早く勝負パンツを履いてくるんだ!」
「……は?
……はぁ!?」
通りかかった先輩女性エルフ騎士に声をかけられる。
ローランは彼女の言った言葉に一瞬自分の耳を疑った。しかし、どうやら聞き違いでないことが判ると、顔が真っ赤になった。
「しょ、勝負パンツって……あれですか?」
一応先輩なので、忍耐力が許す限りは敬語を使おうと努めるローラン。
「そう、勝負パンツだ。騎士もシスターもすでに装着済のはずだ。
騎士たるもの、たとえベッドの上、保健室、空き教室、深夜のオフィス、納屋、馬車の中、木陰、草原、教会でも最後まで諦めてはならんのだ」
諦めてはならない場所が妙に具体的だった、
あと老シスターがちょっとハイテンションな理由が判った。けど分かりたくない。
「諦めるって……何をです?」
「騎士としての尊厳だ。勝負パンツならば脱いでも『強い』」
「……つ、『強い』?」
どんなパンツでも脱いでしまえば同じじゃないの?、という思いはローランの心の奥にしまい込んだ。もう二度と取り出すこともあるまい。
「例えばだ、半裸にされた時に下着の上下が揃っていなかったり、洗濯でくたびれたりしていてみろ。相手が『へぇ、普段はそんなの履いてるんだ……こういうので良いんだよ、こういうので。君のプライベートが見れたみたいで嬉しいよ……』なんて言われたらどう思う?」
「キモイですね」
「そう、そうだ。
だから思わず『やーっ、見ないでぇ、見ないでよ、もぉーっ! い・じ・わ・る』なんて答えてみろ、
……やられたぞ」
くっ、と悔しそうな顔をするエルフの女性騎士。
それを聞いているローランはちょっと引いていた。
どうしてこんな状況で他人の性体験を聞かされなければならないのか。
「やられ『た』? 経験談……?
あと今のこちらから誘っているように聞こえたのですが」
「ジョージは相手にその気にさせるキケンな男だ……。
あの時勝負パンツをはいていれば……夜の異種格闘技戦への身構えが出来ていれば、
奴を絞りとることが出来たのに……」
人間とエルフ。確かに異種である。
あと先輩、やる気まんまんですよね。
「ジョージさんが?
皆さんそうおっしゃってますけどー。
想像力がギブアップなんですけどー。
……ただのハゲでスケベなジジイでしょ?」
「前回は三十年ほど前の話だ。人間は姿形が変わりやすい種族からな。
ローランが今の姿を見て想像できないのは無理もない」
エルフはふっと笑う。
「その変化は老化と言うらしいですよ」
ローランは呆れている。
今度搾り取ったら、命まで搾り取ることになるかもしれない。
「騎士ローラン、ジョージは勇者と呼ばれた男だぞ。
やるときはやる男だ。油断してはならぬぞ」
「はぁ」
……だめだこの先輩、人間を理解していない。
エルフと人間のカップルが上手くいかないことが多いのはこの辺が原因かも。よほどの者でないと長続きしないとよか聞くけど……。
「奴のストライクゾーンは広いぞ。
下はともかく、上は250歳までいけたはずだ」
「250歳って……それどんな生き物とそうなったんですか?」
ちょっとローランが興味をもってまった。
前世でも人間以外の動物とメイクラブする男がいたことを思い出す。相手は樹木か?
「……うちの団長だよ。
さ、ローランは早く勝負パンツをはいて配置につけよ」
そう言ってエルフの先輩女性騎士は歩いて行った。
「……」
残されたローランは頭が真っ白になっていた。
先ほどの先輩の一言が衝撃的だったからだ。
え? 騎士団長とジョージさんって、そうだったの……?
……うわー、聞かなきゃよかった。
ようやく意識を取り戻したローランは自分の部屋に向かって歩きした。
頭をぽりぽりとかきながらローランは、無意識に自分の勝負パンツのことを考えていた。先輩の言うことにとりあえず従っておくことにした。異種格闘戦はゴメンだけど。
「とりあえず……越中ふんどしにしようかな。
前のぴらぴらがエルフっぽいし」
彼女は感性は、股間を覆うぴらぴらした布がエルフのイメージを通じるものがあると捉えたようだ。後ろも締め込まれてセクターだし。越中ふんどしにはレディース用もある。
ただ勝負パンツに越中ふんどしはどうかと思う。
◆◆◆
「……ジョージ?」
「おおう、身体を休めておかないとダメですぞ」
王都で暴漢に襲われたヴァルガンド連合帝国王女付きのメイド、リリアン・ダイクンギアはこの教会の医務室で治療を受けていた。一通りの措置が終わり、現在は医務室のベットに眠っていたところだった。
そんな彼女の耳に、教会のシスター達が口にする「ジョージ」という名が届いた。
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