第32話 邂逅 1
遺体を運ぶ馬車が列を作っている。行き先は街の教会だ。
その後に一台の洗練されたデザインの馬車が続く。
その馬車にはハミルトン叔父、ノルン、その向かいにはジョージ、教会騎士団長が乗り込んでいいる。公民館へ向かう時に使用した馬車をそのまま教会への便となった。
「高そうな馬車に乗ってよぉ……」
「公職には品位が求められるものでな」
車内では指先で馬車の内装をなぞりながらジョージが呟き、それにハミルトン叔父がにこやかに笑って答える。
馬車の一団は街の裏通りを縫うように走っていた。
頭上に縄で渡した洗濯物が風に吹かれている。
「流石に大通りは通れないか」
車窓から外を覗いて、ジョージが一言。
「急ぎの用件でもないし、観光産業が収入源の街だからな。
それくらいは配慮するさ」
こちらは車窓を見ずにハミルトンが返す。
「……で、要件はなんだい」
「せっかちだな、まぁいい……内密の話だ。
よいな、ノルン君」
ノルンが頷いた。
帝国の王女の件は話してよい、という意だ。
馬車の中、外から車輪が軋む音、小石をはじく音が聞こえる中。ハミルトン叔父は声を潜めた。自然と他の3人の顔がハミルトン叔父に近づく。
「……帝国の姫君が二人、この街にお忍びで来ている。
街のため、お二人の力を貸してほしい」
一瞬耳を疑ったが、思わずジョージと騎士団長は顔を見合わせた。
「まぁ……」
「あー……それで帝国のヤバいのが来……?
いやちょっと待てよ」
ジョージはハミルトン叔父の言葉に頷きそうになるが、それを途中で止めた。
「それで何でワシらか狙われなきゃいけないんだ?」
「そこまでは知らん。
何か心当たりあるではないか?
例えば、帝国王宮関係者の妻でも寝取ったとか……羨ましいが火遊びはほどほどにな」
ハミルトン叔父はジョージに視線を合わせずにニヤニヤと笑っていた。
「勝手に人を寝取り男にするんじゃねぇ。
あれ下手こいたら本当にヤバいんだぞ」
「……まるで過去になにかやらかしたかのような口だな、まぁいい。
本当に帝国の王位継承権争いに巻き込まれるようなことをしでかしたことは無いのか?」
「ワシは一介のリリアリアの庶民だぞ。
そんな他国の王位の継承権争いき込まれることなんてあるわけないだろ」
「あなたが一介の庶民というのは非常に疑問だが……、
あー、なら、帝国のえらいさんに知り合いとか。
そいつのとばっちりかもしれん」
ジョージはそれを聞いて腕を組んで、馬車の座席に深く座り込んだ。
座席がぎしりと音を立てた。組んだ腕の指先がぽんぽんぽんとまるで探るかのように打ちつける。
しばらくの沈黙の後、ジョージは口を開いた。
「……知り合いというか、ワシが昔冒険者をやってたときに一緒にパーティを組んでいた男なら帝国の侍従長とかやってるそ」
「ちょっと待て、帝国の今の侍従長って、
三十年前のリリアリア王宮侵攻で前線部隊を率いた奴だぞ」
その時初めて、ハミルトン叔父はジョージの方を見た。
今度はジョージが笑みを浮かべる番だった。但しその笑みは力ない。
「そうだぜ、
……昔の仲間と仲間と戦う羽目になっちまったんだぜ、最悪さ」
車窓から夕日に照らし出された教会の塔が見えてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます