第28話 叔父さんは平和に過ごしたい 2

 「……それはマズいな」


 休暇中の旧王都の行政長官、ハミルトン叔父は手元の報告メモよりもメイドの言付けを聞いて、顔をしかめた。

 ノルンはそのメイドの性別を見極めようとしたが、疑えば疑うほど訳多いわけが分からなくなり諦めた。

 そのメイドは叔父と一通り話したあと、応接間より出て行った。


「ノルン君の質問は、確か旧都内で帝国関係で不穏な動きはないか?ということだったな。

 ううむ確かに……そうと思える事が起きているねぇ。

 これはわたしも休暇を返上しないといけないかもしれん」


 ハミルトン叔父はそう言いながら少しづつ宙に視線を移した。

 何かを考え事をしている時の癖だ。

 

「……そうですか」


 その視線を追うように視線を上に上げていくノルン。


「メモにあるが、

 今日に限って、帝国からの旅行者が匿名からの通報で拘束されたり、

 賊に襲われ負傷したりする件が続いている……。

 あとこれには書かれてないが、衛視の間では帝国からの暗殺者が来ているのではないかと動揺が広がっているらしい。情けない。

 ノルン君はいったい何の情報を掴んだんたい?学院関係か?」


 そこで視線を元に戻した。

 ノルンもつられて宙に向けられていた視線を元に戻す。


「いえそっちではなく……」


 ハミルトン叔父はじっとノルンの方を見た。目力が強い。


「では姫か?帝国王宮関係か?

 ホテルで衛視が拘束した帝国の旅行者は、身分を黙秘したから拘束したんだが……ホテル従業員や衛視達はおそらく帝国王宮関係者だと推測している。帝国関係は階級によって言葉訛りが違うからな。匿名の通報というのも臭い。一体何が起きてる?

 帝国貴族のお忍びの旅行にしちゃあ、ちょっと団体様感があるが……姫は何を情報を掴んだのかな?」


 叔父の眉間のしわが深くなっていく。

 ノルンはそれに動じることはなかった。


「リズが掴んだわけじゃなく、

 向こうから勝手にやってきたというか……」


 やれやれという風にノルンは肩をすくめる。


「帝国王宮関係者の亡命か?」

「亡命では無いです

 ……あと、関係者というか本体が来たというか」

「本体?なんだ? 誰が来たんだ?」


 叔父の眉間の皺はますます深くなり、顔がノルンの間近まで迫ってきた。

 ノルンはちょっと引いた。 


「帝国の第三と第四王女来たんです」


 叔父は一瞬ノルンの言葉が理解できなかったようだった。

 それでも取り直し。


「はぁ? 二人だけでか?」

「そうです」


 ほぉー、と言って叔父は顔を離しソファに体重を預けた。


「そうか、参ったな……。

 で、その二人はいま何処にいるんだ?」


「リズ……いや、エリザベート王女の許可が無い限り

 それは叔父上と言えども申し上げることはできません」


 まっすぐな表情でノルン。

 それを見て、ハミルトン叔父はにやりと笑う。


「……良い判断だ。流石ストーンブリザード家の人間だ」


 そして叔父は黙る。

 額に指を当てて何かを考えているようだ。


「そこには……帝国王女二人と姫の他に、強力な武人……いや魔法使いがいるな?

 多人数の襲撃に対応できる広域魔法が使える魔法使いが側にいるから、 

 姫もノルン君に情報収集だけを依頼したのではないかな?」


 ハミルトン叔父の推測に、ノルンは苦笑して答えた。


「まぁ、姫の側には強力な魔法使いがいますね」


 叔父の眉間の皺が消えた。すでに次のことを考えているようだ。


「では、姫を信じよう。

 だけど出来れば早く姫の許可をもらってくれ。……姫を護ろうとするのは騎士の本能みたいなもんだ。

 わたしは教会騎士団に対応を依頼する」


「エルフ騎士団に?」


「仕方ないだろう? 衛視隊じゃ正直安心できない」



 その時応接間のドアがドンドンと叩く音がした。


 

「どうした?

 よい、入れ」


 叔父はちょっとうんざりとした顔で返した。

 ドアが開き、先ほどの情報伝達役だったエルフが再びあらわれる。


「王宮前商店街地区の公民館が賊に襲われたとの通報がありました。

 衛視隊が現場に向かっていますが、衛視長より長官にも来てほしいと……」


「理由は?」


「襲撃したのがおそらく衛視達の間で帝国から来た暗殺者として

 噂される輩だと思われるからです」


 ハミルトン叔父はやれやれとソファから立ち上がり、同じく立ち上がろうとしているノルンを見た。叔父は頭をくいっとドアの方に振った。



「今日は厄日だな。

 ノルン君、情報共有の手間を省きたい。

 一緒に来てくれ」


 

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