第10話 帝国の巫女 1

 中古魔導具ショップ「ハロー☆マジック」のゲストルームから下級貴族ノルンが退出した。

 あとにはリリアリア王国王女エリザベート。ヴァルガンド帝国王女のエレナとアンナ、旧王都の風俗街を仕切る女王の娘であるミツキ、妖精族(本当は機械人形)のマコトが残された。


 ノルンはブリザード家のつてで、この街の行政官から情報を集めるらしい。旧王都の行政官を任される人間だ、それなりの家格のある家の人物でると推測される。少なくとも下級貴族であるブリザード家とは釣り合わないだろう。

 

「エリザベート様、あの先ほど出ていかれたノルン様と……どういう仲なの。じゃ?

 いや、何でもないんじゃが、……ないんじゃが……ちょっと、気になってな……」


 ここに居なくなった人の話を早速始めるアンナである。


「えー、

 ……幼なじみ?」


 ぽんぽん。


 エリザベートは疑問系で答えた。


「幼なじみ?

 王族と下級貴族の子が……か?」


 ちょっと信じられない、という顔をする帝国王女アンナ。


「んー、

 わたしが新しい方の王都にいたときの専属のメイドが……ノルンのお姉さんなんだよねー」


 ぽんぽん。


「うん? んー、……んんー?」


 一瞬納得しそうになったアンナだったが、ちょっと考えてみていまいち納得できないようだ。専属メイドの弟と幼なじみになる、なんて彼女の周りを見渡してみても……ちょっとハードルが高そうな気がする。


「あとねー、

 わたしの母親の妹と、ノルンの叔父さんが結婚してるんだよねー。

 その縁で、わたしは小さいころからノルンの領地に療養でちょくちょく行ってるわけ。ノルンも偶に新王都にきてたし」


 ノルンの叔父は逆玉をかましたらしい。


 ぽんぽん。


「ストーンブリザード家の領地って、すごいおっきい湖のあるところなんだよー」


 ぽんぽんぽんぽん。


「なるほど、

 その下級貴族の子がそなたの専属メイドになれたのは、エリザベート様の叔母上の力添えがあったからか……まぁ、それだけでは務まらんと思うが……ううむ、

 それが廻ってノルン殿とエリザベート様の友誼に繋がるのか……人というのは不思議な縁で結ばれるものじゃ」


「そのわたしの母親の妹と結婚したノルンの叔父さんが、今この街の行政官をやってるわけ。

 ……部長はブリザード家の名で、とか言ったけど要するに、身内だからちょっと秘密の話を教えてくれないかと叔父さんの所へ行ったのよー。 

 部長って無意味に格好つけたりするのよねー」


 ぽんぽんぽんぽんぽんぽん。



「……お、王女様、

 頭をぽんぽんするの、やめて……です」


 王女の膝の上にはマコトが乗せられていた。

 エリザベートはそれを後ろから抱えながら、空いた手でマコトこ長い銀髪に覆われた頭部をマッサージするようにぽんぽん軽く叩いていたのだぁた。


「やだよー、

 わたし王女様なんだから。わがままするのよー」


 エリザベートはマコトを後ろから抱きしめ、自分のほおをマコトのほっぺたにぐりぐりぐりと押し付ける。


 ノルンがこの部屋から去った後、これ幸いとエリザベートはベッドに誘うが如く、「こっちにきなよ」と自分の膝をぽんと叩いたのだ。

 権威に弱いマコトは言われるがまま、王女の膝の上に乗った。


 ――そして現在に至るのである。


 マコトはほほから伝わる王女の柔らかい髪の感触と滑らかな肌の感覚、そして鼻腔くすぐるとても上品な香りの心地よさに軽い目眩のような状態になっていた。あと王女のそれなりの膨らみをもつ胸が当たっていた。や、柔らか……。


 つまりマコトはふわっふわっな気分になっていたのだ。


「衛視隊なんてなんぼのもんじゃーい!」


 身体中でマコトを味わいながら、エリザベートはにっこにっこに笑っていた。


 そんな王女とマコトをちょっと呆れながら見ていた。


 ……衛視隊なんてなんぼのもんじゃーい。


 



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