第11話 帝国の巫女 2
「……申し上げてよいかの?」
「ん? いいよー」
諦観し悦楽でとろける表情のマコトを、ぎゅと抱きしめ満面の笑みで味わってるリリアリア王国王女エリザベート。その対面にテーブルを挟んでヴァルガンド連合帝国王女のエレナとアンナがソファに並んで座っている。
アンナはスカートの裾をぎゅっとつかんだ。
「わ、わたしは……エリザベート様を、
他国の姫でありながらも、尊敬しておったのじゃ」
「……」
わしゃわしゃと大型犬をあやすようにマコトをもみもみしていた手を、エリザベートは止めた。アンナの瞳はエリザベートをまっすぐに捕らえていた。
「帝国王宮にもたらされるリリアリアの王立学院付属の情報を、わたしは、それとエレナも、とても。とても!……楽しみにしていたのじゃ。
学院付属の生徒会長として、身分に忖度せず公正さを求める古き血を受け継ぐ王家の姫……その姿に憧れていたのじゃ……。
高慢な貴族を正すその姿に、我は……いつかそうなりたい、と思っていたのじゃ……」
アンナの顔はだんだんと下がっていった。
自分の内面を確認するように彼女は言葉を絞り出す。
エリザベートは、マコトを自分の膝の上からソファな隣に座らせた。顔から腑抜けた笑みは消えて、真摯な表情でアンナの告白を聞いている。
「学院付属を飛び級で卒業したと聞いたときは、驚いた。結婚ならいざしらず、リリアリア王国の王室は帝国から見ても不気味じゃ……もしやどこぞの修道院にでも幽閉されたのか、またはそれ以上のことがと思って調べさせたが……行方知れずのままじゃった……。
他国の姫ながらも、心配しておったのじゃ。
エリザベート様はリリアリア王国の要人じゃ。悪いニュースなら必ず表に漏れるはず、何も出てこないのは無事である証拠と信じて自分を安心させておったのじゃ……ずっと。
それが、こんなに、こんなになってしまわれて……」
アンナはそこで涙をポタポタとこぼし、ぐすぐすとぐずりだす。スカートの膝が涙で濡れた。隣のエリナが心配そうに肩に手を添えた。エリザベートはすまなそうな顔をした。
「きっと、薬を盛られたのじゃー! 魔法で呪いとかかけられたらのじゃー! こんな、こんな、頭のおかしい人になってしまわれてぇー! 許すまじ!許すまじ!リリアリア王国の王室!
我らのエリザベート様をこんな風に、まるで変質者のように改造したことは、許すまじぃー!」
「え?」
わあああああーと泣き崩れるアンナ。ああ、と手をぽんと打ち頷くミツキ。「ちよっとミツキちゃん!合点がいったみたいな顔をしないで!」とつっこむ王女エリザベート。
「……あ、あのね、アンナ様。
ちよっと落ち着こうか?」
「殺すよりは頭をぱーにするほうが温情があると言うことか! エリザベート様!我が国には優秀な医師や魔術師がおる!必ず帝国の威信にかけて呪いを解いてみせようぞ!」
「お願いします」
「ミツキちゃん! すっごい深々と頭下げないで! あとかわいそうな人を見る目でわたしを見つめないで! ……ちょっとゾクゾクするから」
「緊急搬送じゃー! エリザベート様を帝国に緊急搬送じゃー! 黄色い馬車を用意するのじゃー!」
「アンナ……エリザベート様から呪いは観えない。呪いにはかかっていないと思わざるを得ない……多分」
「なんでちょっと『くっ、自分には力がまだまだ足りない……悔しい!』みたいな顔でわたしを見るのエリナ様! わたし正常だって! すっごく正常だって!」
「「「……」」」
「三人とも目を背けないで!
どう触れて良いか判らない人扱いは止めて!」
エリザベートは絶叫した。
やっべ、乗り遅れた……。
ようやく奈落の悦楽地獄から解放されたマコトは、この王女トークに乗り遅れたことを悔んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます