第4話 転生したらドラコンを滅殺できました
「ほら、これが明かりの魔法」
ミツキの手の上できらきらと輝く光の球が浮かんでいる。
「おー……すごい」
それをキラキラとした目で見るマコト。
観光客むけカフェのオープニングセレモニーがつつがなく終わり、マコト達はそのカフェの上階にある特別室でくつろいでいた。
窓からは城の中庭も散策する観光客を見下ろすことができる。
この特別室はカフェの出資者であるゴエモンヤ商会の関係者の控え室としてキープされていたものだ。オープニングセレモニーは終わったが、他に予定も入っていないのでずっと使ってよいらしい。
そういうわけで下階のカフェに飲み物を注文しつつ、マコトとの再会祝いの催しが特別室で開かれていた。
特別室にいるのはマコト、ミツキ、ケンイチ、カレン、そしてケンイチからの招待という名目で警備を一時的に抜けてきたローランだった。
マコトの気持ちとしては朝に教室で会っていた人たちと――色々姿は変わっていたり、途中で死んじゃっているが――再会祝いとされてもいまいちピンとこないというのが正直なところだ。
ローラン先生がそんなマコトをニコニコと笑いながら、赤黄青の輝く蝶を手のひらから飛び立たたせた。蝶はマコトのまわりとひらひらと舞う。
「おおう、本当に魔法なんだー」
再会の実感が浮かばない再会祝いだが、それはそれとしてマコトは魔法には感激していた。
「あ、そうそう。
マコト君。キミ、教会の学校に通いなさい」
自分の周りを様々な形の輪を書いて舞う蝶に見とれているマコトに、ローランはs告げた。
「え、ローラン。
マコトはわたしの店の看板娘にする予定なんだよー」
唇をとがらせるカレン。
「だめよ、カレン。
ギフト持ちの子供は、必ず教会の学校に通うことになっているんだから」
「学校かぁ……」
死んでもまた学校に通うとは……と窓の外の風景を遠い目で見るマコト。
「マコトくん……この世界のこと知らないままでいると色々と危ないのよー。
……何ていうか基本的人権なんて概念もない社会なんだから。
昨日は良しとされたことが今日は悪いとされる……ってこれはたいして変わらないか……、
身分差は強烈だし……まぁ、明らかに人の命は前世の世界よりは安いわね。
――それにね、転生した人ってだいたい『ギフト』と呼ばれるチートな能力もっているけど、それて他の人から見れば金のなる木以上のものなの。悪意ある他の人に利用されたりすることだってある。
チート持ちの子供の取引や、洗脳されたギフト持ち達による犯罪って数年前に結構問題になって……」
「ローラン、話重ーい」
カレンがストローでずっと吸い込むのは爽やかな緑色のメロンソーダだ。
なにか炭酸の泡がまるで生きているように動いたり声を出したりしているのは気にしてはいけない。異世界だし。
「マコトちゃん、来たほうがいいよ。。
わたしも通っているし。魔法の使い方も教えてくれるし。
ローラン先生のボヤキ話おもしろいし。」
ミツキがマコトをじっと見て言う。勉強が面白いとは言わないらしい。
「うー、うーん?」
ちらりとマコトはカレンの方を見た。
カレンはストローでグラスの内側についた泡で遊んでいる。
泡が突っつかれる度にオウフ、ムフファンと意味不明の言葉を発しているのを気にしてはいけない。異世界なんだから。
「マコトちゃんはうちの店の看板娘にするけど
別に学校に行くのは反対じゃないよー。
わたしが出かけているときに店番してもらえばいいんだし」
マコトに店番とさせる、というラインは譲れないらしい。
「う、うーん、それじゃ…
ミツキやケンイチが通っているのなら……」
「あー、俺、教会の学校に通ってないから」
ケンイチは手で否定した。。
「……登校拒否?」
「違うわ。
俺、これでも超大金持ちの息子じゃん? 王都……新しい方の王都にある王立学院の付属に通ってんだよ。
親父が子供の頃から貴族と顔見知りになるのは良いことだって。親父も同じ学院に通う子供の保護者として繋がりがもてるらしいし」
身分差が強烈――!
マコトはテーブルの拳でドンと叩いた。
「なんで、ケンイチがお金持ちの息子なんかに転生してるの!?
理不尽すぎる……」
「うるせぇよ。子供は親を選べないんだぞ。
俺だって、ぐーたらしていても自堕落な人生をエンジョイできる上級の貴族の子供に生まれたかったわ」
ケンイチは腕を組んでふんっと鼻息を立てる。
「金持ちの息子に生まれてるだけでも羨ましいのに、さらにその上を目指すのか……強欲だよっ」
「金持ちだからって何でもできるわけじゃねーんだよ! この世界は」
今度はバンと平手でテーブルを叩くケンイチ。
「あーヤダヤダ、『金持ちには金持ちの悩みがある』ですかー?
……ケンイチはそんな奴じゃーなかったなー、ボク達はいつもフラットな関係だった。
ちょっと身分差ができるとこれみよがしフルスイングでフルマウンティングをするなんて――」
そこでマコトは言葉を切り、先程と同じく遠い目で窓の外の風景を眺めた。
ふっとマコトは笑う。
――ああ……コイツはそういう奴だった。
「……変わんないな、ケンイチは」
「おいちょっと待て! 何爽やかな顔をして俺ディスってんだよっ!」
今度はバンバンとテーブルを叩くケンイチ。
「ケンイチはたまに教会の学校にも来てるよ。
見学扱いで」
ミツキがそういい終えると、庭内に取り付けられたスピーカーのスイッチが入る。
<えー、都市衛視詰所の観測局から連絡がありました。
ドラゴンと思われるてテレポテーション反応が旧王宮上空付近で検知されました。
住民の皆様は警戒をお願いします。
観光客の皆様は近くの店舗に避難するようお願いします。
繰り返します……>
「おや」
カレンがストローでグラスの底の泡で遊ぶのをやめた。
ローランは剣と取ると無言で部屋の外に飛び出し階段を駆け下りる。窓からそのまま王宮の庭へ飛び出していく姿が見えた。
「ド、ド、ドラゴン?」
マコトは立ち上がり窓に張り付いた。
「魔法があるんだから、魔物がいるのは当たり前でしょ……」
ミツキがそう言って二杯目のハーブティを飲み干しでそう言う。
そんな札幌ラーメンがあるなら金沢カレーがあるのは当たり前でしょ的なことを言われても。
「聞いてない……」
「言ってないからねー」
窓に張り付くマコトの隣にカレンが近づく。
「あ、でも、ここに来るドラゴンって、良いドラゴンとか?」
「それはない」
マコトの希望的推測はカレンにあっさりと否定される。
「並んでると本当の姉妹みたい……あ、来た」
「え? ……うわっわ!」
ミツキの囁きと同時に地面がドンと揺れる。 テーブルの上のグラスとカップがビリビリと揺れた。
部屋を飛び出るケンイチ。
「カレン姉ぇ、あとは任せた。
俺店の方見てくるわ!」
「おー、……さて、わたし達も庭にでようか。
ミツキちゃんも一緒に」
窓に張り付いているマコトの手を取って部屋から出ようとするカレン。
その後をミツキはとことこと付いていった。
◆◆◆
頭上からのモノが激しく衝突する音が身を地面に押し付けた。
まるで頭上で爆弾が破裂したような圧だ。思わず地面に伏せるマコト。
その手を無理やり引っ張り上げるカレン。
カレンの片方の手にはいつの間にかハンドスピーカーが握られている。
「隕石っ?」
「ドラゴンだよー」
よたよたと足を絡ませながら空を見上げるマコト。
はるか上空に黒い点が見えた。そして耳を切り裂くような急降下音の後、また爆発のようは圧がマコトを地面に押し付ける。
その刹那、マコトを見てしまった。
王宮の空には、覆い被さるように身体を叩きつけるドラゴンの真っ赤な両眼があった。
ドラゴンは再び高度高く飛び上がると、急降下をし王宮の空に身体を叩きつける。体当たりは何度も何度も繰り返される。
王宮の上空には何か透明な膜が張られているようだ。それがドラゴンの侵入を拒んでうるようだ。
「大丈夫だよー。
王宮の上には魔法壁が張られている。
……ここらそういうの多いかられね」
庭を見るとエルフの騎士達が地面に尻餅などをついた観光客のケアを行っている。その姿を連れの観光客に写真にとらせている。物凄い笑顔だ。ひょっとして、あとでエルフに手当てしてもらったことを自慢するの?
「……?」
マコトは戸惑っていた。
上空では獰猛なドラゴンが魔法壁に体はぶつけている。あのドラゴンの様子からすると、阻んでいる魔法壁を破壊してその中に入ろうとしていることは明白だ。ドラゴンが魔法壁を超えたらどうなる?ここにいる人の命はなくなってしまうだろう。
しかし、この王宮の庭の様子はどうだ? ずしんずしんと地響きはするが、一部を除いては観光客は平然としている。みんな呆けた表情で上空のドラゴンを見ている。平和ボケにしては肝が座っている。
「言ったでしょ?
旧王都の住民は厄災に慣れているって。
びっくりしていたのは、マコトちゃんと同じ、
この街に始めて来た人たちかなー?」
「よくあること、は言ったけど、慣れているとまでは言ってない……。
でも何で? これ危ないでしょ!?」
「危なくないよー」
「何で!?」
その時、庭の正門の方角から様々の店のエプロンをした老若男女が駆け込んでくる。先頭の一人がカレンを見つけるとそのままこちらに近づいてくる。
他の人々は人間離れをした跳躍をして、それぞれ城の各所に散らばっていく。
「カレンさん、すまん遅れた。
すぐに迎撃する」
近づいてきた「パン屋 ホワイトアウト」エプロンをつけた中年男性がカレンに告げて、そのまま走り去ろうとした。
「あー、それちょっと待って。
あれ、この娘のデビュー戦にするから」
カレンの声にその中年男性は足を止めた。
「ええっ?」
「この娘。 わたしの妹のマコト。
今日この王都にやってきたの。
わたしの店で働く予定」
「ええっ?
カレンさん……妹いたんですか?」
「いた」
断言するカレンの言葉を受けて、その中年男性はまじまじとマコトの方をみた。
「……この子が、そうなんですか……?」
「ああ、妹は凄いぞ。
わたしと同じくらい魔法が使える」
カレンの言葉にマコトとミツキがびっくりした表情をしている。
なぜ自分のことなのにびっくり?と中年男性は首をかしげた。
「……と、いうことは、
カレンさんがもう一人増えることになるのか……」
ううむ、と眉間にシワを作る男性。
「おい。その眉間はなんだ?」
「あ、それではわたし、持ち場に行くんで。
カレンさんのご要望は皆に伝えておくんで、
……あとよろしく」
その中年はにこやかな笑顔でカレンの怒気を受け流し、ものすごい勢いで跳躍してどこかに行ってしまった。
「……、というわけで
この街は多数のチート持ちの転生者がいるから
あれくらいのドラゴンなら全然大丈夫なんだ」
「へー……」
マコトはもう一度見えない天蓋が覆う王宮の上空を見た。
ドラゴンはあれからもビターンビターンとその身を打ち付けている。
ドラゴンがなんだか可哀想に見えてきた。
「ささ、主役は庭の真ん中に立って」
「まった、あ……姉様。
ボクは、朝学校に登校して死んじゃって転生しちゃって女の子になっちゃって……もうわけ判らないんだよ。
その上魔法を使うんなんて無理ぃ……」
カレンに庭の真ん中へぐいぐいと押されていくマコトは、力ない抵抗を試みた。
「マコトちゃん、
できないってのは……人間の言葉なんだよ」
「え?」
「マコトちゃんは人間じゃなくて、マシン・ドール。
できるように作られているから、できるのよ……」
「いや人間の口は英語を話せるように作られているから、英語ペラペラに話せるでしょみたいなこと言われても……」
そのままマコトは庭の真ん中に立たせられる。
側にはミツキが少し離れて立った。
観光客達はあれなんだ?のような顔で王宮の庭に棒立ちとなっているマコトを注目している。
カレンがハンドマイクのスイッチを入れる。
「……あー、マイクテス。テス。……よし。
さあさあお立ち会い!
ここにおわすは我が妹のマコト!
何を隠そう、この街最強の魔法使いであるわたしカレンの妹だ。
どうだいわたしに似てかわいい顔をしているだろう?
さて、先程よりお騒がせのあのドラゴン。
この街の魔法使いとしちゃーあのままにしとくわけにはいかねぇ!
そこでだ。
このドラゴン退治を、我が妹のマコトにまかせてみようと思う。どうだい?
妹は今日この街に来たばかりだ。
だから、この街の人たちも、観光客の皆様も、この美しき少女のことは何も知らない。
だからこのドラゴン退治で皆様のお見知り置きして頂こうよというわけさ!
庭の皆様もカフェの皆様もご覧あれ!」
カレンが歯切れよく口上を並べ立てた。
それを聞いた観光客からぱちぱちと拍手が起きる。すでにマコトにシャッターを切っている観光客がいる。
マコトは思わず手を降って応えていた。
冷や汗がだらだらと流れている。
「……もう一度死んじゃって逃げようかな」
「マコトちゃん、わたしがフォローするから」
青い顔をしているマコトの手をミツキはギュッと握った。
観光客はおおうったどよめき、さらにシャッターの切る音が増えた。
上空にはどしーん、どしーんと身をうちつけるドラゴン。
地上には魔法素人のマコトが棒立ち。
……どーすんのよ、これ。……あ、あれ?
ぼけっと上空を見上げているマコトの脳内に何かの立体図のようなものが浮かんできた。
「あ、あれ?
なにか頭に浮かんでる?」
「マコトちゃん、それわたしからの渡した情報。
意識をその円の中に向けたまま、手をあのドラゴンにむけて見て」
マコトの耳元でミツキが囁く。
「こう?」
マコトは上に向けて手を挙げる。
同時に頭中の立体図がぐるんぐるんと回り、ある一点になると図全体が緑色になった。
「今……シンクロに入ったわ。
わたしの情報で補正かけてるから、そのまま視線をドラゴンの方に向けて」
「こう? うわっ」
上空から降り落ちてくるドラゴンの衝撃で思わず視線を反らす。
「大丈夫。 ロックオンできた。
あとは魔法を撃てばいいだけ」
「それが一番の問題なんだよ。
魔法なんて撃ったことないし、それにあのバリアにみたいの大丈夫なの?」
「あれはこちらからの攻撃は通すように都合よくできてるわ」
「……そうなんだ」
「じゃ、撃って」
「……。
…………。
………………。
………………『出ろ』」
「え?」
ミツキが抜けた声を出したと同時に、王宮の庭が閃光に包まれた。
王宮の庭が、観光客が、カフェが、王宮が光に包まれる。
その光は遠く離れた隣の国の首都からも観測できたという。
◆◆◆
「……な、何?」
しばらく経った後、ミツキは頭を振ってから周りをみた。
あの閃光で奪われた視界が徐々に戻ってくる。
なんだか周りから土の匂いが漂っていた。自分の髪に手をやると土埃がついていた。
「マコトちゃん!」
ミツキの周り芝はえぐれて土をむき出しにしていた。
しかしよく見てみると、芝がえぐられている中心にいるのはミツキではなくマコトだった。
マコトは中心でぺたりと膝をついた座り方――いわゆる女の子座り――をしたまま、表情のない目で王宮の上空を眺めていた。
空はキレイだった。
つき抜けるような青空が広がっている。
ドラゴンの痕跡はどこにもなかった。
「ドラゴン……消し去っちゃった……」
ミツキはあんぐりと口をあけた。
死体のカケラの残さず、マコトはドラゴンを地上から消し去ってしまった。
「おーい、なんか凄かったけど……大丈夫か?」
ケンイチがカフェからこちらに駆け寄ってくる、
「あ、わたしは大丈夫だけど……」
ミツキは視線をマコトのほうに再び向けた。
へたり込んでいるマコトの隣にカレンが座っていた。
「マコトちゃんー?
マコトちゃんー?
大丈夫かーい?」
カレンはマコトの頬をぺちぺちと叩く。
すると、すっとグリーンの眼がカレンの方に向けらた。
口が微かに動き、そして表情が消えた。まるで命のない人形のように。
瞳の中にはオレンジ色の光粒がまるで流れ星のように流れ散っていた。
「そっちじゃない。
わたしはマコトちゃんは呼んだんだ」
カレンの言葉に反応するかのように、グリーンの瞳の中の光粒はすっと消えた。
「……あ、なに? なにが起きたの?
ド、ドラゴンは……って、いないー!」
代わりにあわあわとしたマコトが現れた。
そんなマコトの周りにケンイチやミツキ、そして走ってきたローラン先生が寄ってきた。
「マコト、おまえ凄いな―」
「マコトちゃん、これ危ないからローラン先生にちゃんと魔法教わろう、ね」
「……まずは自己分析から始めようか。マコトくん」
「ああ……うん。
え、あれ? 周りの芝がえぐれてる……?
これボクがやったのかな?」
3人はうんうんと頷いた。
「とりあえず、この芝の修繕費。
店でバイトで稼ごっか?
今後は魔法の反動も意識しないとねー」
腕組みをしたカレンがニヤニヤと笑っていた。
「え、ええー……はい」
こうしてマコトの異世界第一日目が終わったのである。
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