始章 転生したら少女人形でした。

第1話 転生したら美少女でした

 闇が墜ちてくる。


 教室の固い床に倒れ込んだボクは、自分から流れでるモノが真っ赤な血であったことに気づいた瞬間、意識を失った。

 ……多分ボクは死んだのだろう。




 ……。

 …………。

 ………………。


「……あ、目が開いちゃった」


 そして次の瞬間、ボクは見知らぬ部屋で目覚めた。

 長い銀髪を後ろにまとめたオレンジ色の瞳をもつ――息を呑むほど美しい――人形のような美少女がこちらを見下ろしていた。


 ボクは、何かの手術台のようなところに横たわっていたらしい。


 全裸で。


「ひっ、ひゃ、すいません、すいません!」


 とりあえず局部を隠そうと手をそこに持っていこうとするが、銀髪の少女にその手をがしりと掴まれた。


「ちょっとー、動かない、動かない。

 いま子宮の辺りをちょっと調整してんだから」

「子宮?」


 オトコノコのボクにそんなものあるはずがない。


 みると自分の下腹部あたりをまるで水の中に手を入れるように、その美少女は皮膚の上からずぶりと手を突っ込んでいた。

「は、はぁ?」


 ボクの見ている光景が信じられない。


「はーい、ちょっと位置調節するから

 ここ、トントンとするよー」

「は?」


 次と瞬間、ボクは絶叫した。


 ◆◆◆


「女の子になってる……」


 いらいろ落ち着いた後、ボクはこの部屋にあった大きな鍵の前に立っていた。


 全裸で。


 あるべきモノが無かったり、無いはずのモノがあったりと、色々と確認した。

 まごうことなき女の子の身体がそこにあった。


 それに容姿も長い銀髪とグリーンの瞳をもつすごい美少女だ。自分で自分を無料で見ていていいのかな?とさえ思ってくる。

 なんとなく目が覚めた時に見たあの女の子と雰囲気がにているような……。


 しかしこの部屋、なんだかよく分からない電子レンジのような機械とか、奇妙な形をしたラジオのような機械とか、レトロなテレビのようなよく判らない機械とかが半分分解された状態でところ狭しと置かれている。

 無機質の物体に囲まれて、ヌードの少女が一人とは、なかなかアートな空間である。


「キミは全裸族なのかい?

 ……実はわたしもそうなんだ」

「違いますよ」


 部屋と扉を足で開けて、先ほどの銀髪美少女が髪を下ろして、かつ衣服が入った籠を抱えて入ってきた。


「おー、おー、おー、

 やっば動いているのを見ると、感じ違うわー。

 いやぁー良い出来良い出来、

 部品取りのために犠牲となった魔導具たちも浮かばれるというものだよ」

「え?」


 ボクはもう一度周りを見た。

 ……ここから取り外された部品がボクの一部になったのか。


「さてさてー、お楽しみの下着の時間だよー。パンツはカワイイのとセクシーなのとスポーティーなのとどれが良い?」


 籠を床に置いて、美少女はその中から三枚の女性用下着を取り出し、ボクのまえでひらひらと揺らした。


「……スポーティーなので」

 色々考えた末の妥協点がそこだった。


「どうぞー☆」


 その美少女はカワイイ方のパンツを差し出した。


 ボクは黙って残りのスポーティーな方を奪った。


 ◆◆◆


「ここがわたしが経営する中古魔導具ショップ『ハロー☆マジック』だよー」


 ドアを開けるとそこにはレジカウンターがあり、その周りには棚に並べられた数々の魔導具が並んでいる空間があった。


「すごい……」


 思わず呟く。


 今のボクは紺色のスカートに白のブラウス、その上にリポンの付いた薄いブルーのストールと重ねた服装をしている。用意された衣装がこれだった。

 履き慣れないブーツをとんとんしながら、自分の創造主である美少女の後ろをついていく。


「この世界はねー、キミのもといた世界と違って魔法が普通にあるんだ。ファンタジーの世界だね。

 この街に住んでいるのは人間だけじゃない。エルフとか、ドワーフはいたかな?ほかにも半獸人とか、わたしのような妖精族もいる」


 そう言って、その美少女は背中に四枚羽をふわりと現前化させる。何もないところから不意に現れたので、ボクは思わずのけぞっとしまう。


「あははは、ごめんごめん。

 ちょっとおどろかせてしまったかな?

 でもキミも妖精族の特徴を持っているんだ。羽だって出せる。

 その身体は過去のわたしを正確にエミュレートしたものだから」


「あの……?」

「なんだい?」

「あなたの名前を教えてくれませんか? ……どう呼んでいいか判らなくて」

「はっははは。

 カワウイねー、さすが過去のわたしそっくりな容姿をもつだけあるよ。

 ……わたしの名前はカレン。

 この世界では数少ない形而上工学者だよ。いまは店経営と旧王宮の管理アルバイトをしてる。

 ……学者は食えないからね」


「ぼ、ボクの名前はマコト。

 ついさっきまで高校生をしてました」


「じゃ、マコトちゃん。

 目覚めてすぐで悪いんだけど、

 この街のことを紹介しようか」


 そう言って、カレンは店出入り口の扉を開いた。

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