2 そのドアを越えていけ
第1話 大丈夫、ワザとだ。
「おい、マコト。
これは何か判るか?」
バカがメイドを連れてやってきた。
ボクの住みか兼お手伝い先の中古魔導具ショップ「ハロー☆マジック」にやってきた。
ちなみに「ハロー☆マジック」中古品販売だけじゃなくレンタルもやってるのだ。
「はぉ?」
店のカウンターに頬杖をついていた妖精族の美少女が、口を富士山のようにへんぐりと開けて応対した。サラサラとふわふわが同居したような銀色の長髪と丸々とした煌めくグリーンの瞳、へんぐりと開けた口を彩るぷっくりとした唇、白い肌。紛れもない美少女である。だが機嫌はすごく悪い。
学校は午前中に終わった。そして午後になると、またしても姉様は旧王宮の管理ボランティアに行ってしまい、ボクはまたしてもお留守番だ。ひょっとして、姉様はボクに留守番をさせるために、このカワイイ系の可憐なオートマチック・ドールを作ったのだろうか。
「はぉ?って、それが客にとる態度か?」
「おうなんだ? 美少女は多少生意気の方が喜ぶお客さんもいるんだぞ」
自慢のロングの輝く銀髪を両手に持って膨れるマコト。
にまーと笑う可愛い顔、ぶん殴りたい。
「俺をそこら転がってる変態と一緒にされるのは気にくわねぇーな」
「ボクはねぇー、
後ろにメイドを従えてニヤニヤしてる男はもれなく変態だと判断してるんだよ」
マトコとケンイチは後ろで控えているメイド、メイド服の上にカーディガンを羽織っている黒縁のメガネをかけた長身のメイドを見た。薄い金髪を結って後ろでまとめている。その細い指先が自分の頬にそっとあてて微笑む。
「坊ちゃま……ふふっ、簡単に見抜かれてはいけませんよ……」
「うるせぇ!」
メイドはケンイチの大声にも怯まずに、メガネの位置を直した。
「お坊ちゃまのご友人のマコト様ですね。
私は先月よりゴエモンヤ商会にお世話になっておりますメイドのクリスティアと申します。
以後、お見知りおきを」
優雅に深々と頭をさげるメイド。
「あ、はい。
わたしはマコト。この店の店主の妹です」
カウンターから立ち上がり、ペコリと頭を下げるマコト。
その仕草にメイドは口元に再び手を当ててた。
「あらカワイイ……
これならばお坊ちゃまの童貞卒業のカウントダウンがすでに始まってる……という認識でよろしいでしょうか?」
「そんなカウントダウンは無いし
そんな予定は無いし
そんな気持ちも無い
……マコト、お前そんな離れた所にいたか?」
見るとマコトはカウンターから遠く離れたスタッフルームのドアにへばりついていた。
「……ごめん、体が自然に……」
マコトはドアから離れることはできない。
「そんなに離れてたら話ができないだろ?
クリスティアのことは気にするな、
……いや、本当に気にするなよ」
「う…うんっ」
のっそりのっそりと、店の奥なら歩いてくるマコト。そして、ゆっくりとカウンターの店員側の席につく。
「ケンイチ……ボク達はずっと友達だよねっ?」
「お、おう。どうした?いきなり」
ケンイチはカウンターに長方形の黒い物体を置いた。カシャンと音がしたことから、何かの機械なのかもしれない。
「なにこれ?」
「わからん」
「わからないって……」
お客側の椅子に座ったケンイチは腕組みをして眉間を寄せた。
クリスティアはケンイチの後ろに静かに控えている。その静謐な姿に一瞬マコトは見とれてしまった。
「この前の商売で、新しい仕入れ先を使ったんだ」
「ほんと、同い年とは思えないよな……
ボク達はまだ子供だよ」
組んだ両手の上に首先をのせアンニュイな表情をするマコト。あざとい。
「生まれとギフトは選べないしな、
……それよりもその仕入れ先のオッサンからこれをお土産にもらったんだ」
ちょんちょんとその黒い箱状のものをつつくケンイチ。
「うん」
ちょんちょんと突く手が止まる。
「……これが何なのかさっぱりわからん」
顔を左右にふるケンイチ。
「商会の人に訊いたの?」
「訊いた。
店の大人誰もわからなかった」
「そうなの……」
後ろからすっと顔を寄せてくるクリスティア。
大人の女性の香りがした。
「お坊ちゃま、
これは相手様から与えらた試練でしょう。
お坊ちゃまが相手様を見極めようとするのと同じく、
お相手様もお坊ちゃまを見極めようとされているのかと。
……次に会ったとき必ずこのお土産の話が相手様の口からでことでしょう」
ケンイチははぁーとため息を吐いて、口元を歪めた。
「……うっ?
クリスティアもそう思うか?
また『試し』か。この世界は『試し』が多いな……」
うんざりとした顔をで天井をみあげるケンイチ。
「試し」とは今後も取引を続ける価値があるかを見極める儀式のようなものだ。
元々は冒険者が武器の出来栄えを確認することを指していたらしい。
ちなみに、この商店街にはそういうことをやっていたジジババがたくさんいる。
「ボクもそう思うな。
ケンイチを初見で信用できる奴だなんて普通は思わないし」
うんうんと腕を組んで頷くマコト。
その頭をがしりと掴むケンイチ。
「……んで、
おまえの店でコレと同じ様なものとか、参考になりそうな物はないのか?」
グイとつかんだマコトの頭をカウンターに置かれた黒色の長方体に押し付けるケンイチ。
マコトの銀髪越しに頭を掴むケンイチの手にぎりぎりと力が入っていく。
「あたた、あたた、今日の魂の座は頭辺りにあるんだから止めてよぉー。
壊れちゃうからー、壊れちゃうからー、
魂が飛んじゃうからー」
それを逃れようともがくマコト。
「お坊ちゃま、レディに暴力はいけませんよ。
初めては優しく……そうフェザーなタッチで焦らすように優しく……。
あらやだ、私ちょっと……ムラムラしちゃってます……」
「なんの話だっ!」
ごんごんごんごん
「打ちつけてるっ!打ちつけてるっ!
ケンイチ、カウンターとボクの頭が衝突してるっ!」
「心配するな、わざとだ」
「あくまぁー!」
とん、とん、とん、とん。
「―――お茶よ」
「うぇ?」
「なっ……」
「……あら」
見ると、店カウンターのそれぞれの席の前に陶器のコップに入ったお茶が置かれていた。
「ミ、ミツキ……」
ケンイチの隣にはお盆を抱えたミツキが立っていた。今日も髪を後等で結び、白のブラウスに紺のスカートという出で立ちだ。靴のリボンも紺色だった。
「いいからお飲みなさい―――」
迫力があった。
ケンイチはミツキの背後に鬼の姿を幻視した、なぐごはいねぇーか?
三人はその迫力に圧されるように、コップに口をつけ、お茶を飲んだ。
うまかった、
◆◆◆
いつからミツキがこの店内にいたのか、どこから三人の下々しい話を聞かれていたのか、このお茶はどこからでたものなのか、全ては謎だった。しかしお茶はうまかった。
「ケンイチ、そういうことがしたくなったらウチの系列の無料相談所に来なさい。
もう写真配布してあるから、スムーズに話が通るはずよ
……最初はちょっとお高めな店がヨイソウヨ……」
ミツキの途中から顔が赤くなり、そのままふにゃぁと撃沈した。
最初から下々しい話が聞かれていたようだ。
ちなみミツキの両親はこの街の夜の大人向けの店や宿を多数経営している。
「自分で言っておいて照れんじゃねーよっ!
あと、なに勝手なことしてるんだっ!」
すっと顔をあげるミツキ。
夜の店への情熱が彼女を奮い立たせた。
「未来のお得意様の先行投資。
ヘイボーイ、接待ナンカデツカッチャイナヨー」
だが、情熱だけでは無理なものは無理だった。
人格が保てない。
「い、いやー……、今の俺のメインの売り先は、新王都の学院の貴族の子供とかだし………」
ミツキの意味不明なキャラにあてられ、ケンイチの口調から強きが消えた。
「王国とか、隣の帝国とかの貴族のお坊ちゃまお嬢ちゃまが、たまに来てるわよ。
ウチの店」
「えっ、マジ?」
ケンイチは回復した。
「ふふっ、想像されましたね。
大金を叩いて、夜のお店の裸の王様になる己の姿を……。
夢の中のお坊ちゃまはフルバースト…。
ちょっとムラムラ……してしました」
「耳元で囁くなっ!」
「メイドさん、ケンイチは最初絶対失敗するタイプだから……」
「うるせぇよっ!」
前からも後ろからもケンイチはツッコミに忙しい。
「あれ、このお茶は家のじゃない……」
マコトはケンイチことは構わず、自分のコップに残ったお茶をクンクンと嗅いでいた。
「店で出すお茶の余り、よ。
持ってきたの。店の人に聞いたらケンイチがここにいるって」
「んー、帝国で流行ってる奴かなー。
飲むの初めてだ」
「懐かしい臭いです」
「あー、クリスティアは生まれは帝国だっけ?」
「リリラリラとの国境近くでせけど」
「あー、マコト様
さっきミツキ様にコップとポットの場所訊かれたんで教えましたよ、
取り込み中だったようなんで」
「あー、ありがと。魔導書くん」
書棚の魔導書か教えてくれた。
まぁ、ミツキは姉様公認の勝手来たるの仲だし。
◆◆◆
「……話を戻すぞ」
ふぅー、と息をついてケンイチは姿勢を正す。
「何かしらね、これ……」
ミツキはカウンターに置かれた、長方形の黒い物体をマジマジと見ている。
「多分……この世界のビデオソフトみたいな物だと思う……」
やぶにらみの表情で黒い物体を凝視するマコト。
「わかるのか?」
「さっき、カウンターに頭ぶつけた時にちょっとこの黒いのか頭に当たったんだ……
そしたらとーんとビジョンが浮かんで……」
「相変わらず便利な身体してるわねー」
「姉様が作ったものだしー。
超特級の魔導具なんだよねぇー、ボクは」
ふふんと自慢げな表情で薄い胸を反らすマコト。
「どんな映像だ?」
「そこまで分かんないよ」
得意げなマコトの表情はかわらない。
「……ちっ、健全な身体のくせに
ボンコツな魂が宿ってやがる……」
「おうなんだ? ○○に刃物持たせたら何とやらを実演してやろうか?」
「もー、二人とも止めなさいよ」
バンバンとカウンターを叩くミツキ。
「お坊ちゃまも良いお友達をお持ちのようで
なによりです」
三人な後ろに控えていたクリスティアが呟く。
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