第16話 予感
途端に母は嫌そうな顔をした。
褒められてつけ上がるのは、母の美学に反するらしい。
しかし、父はそんな母の方を見ようとはしなかった。
『何だ?』
氷川家の7代目当主には逆らえないらしく母は口を開かない。
私は深呼吸した。
『今週末、隣町で開かれる花火大会に行きたいのですが』
当時私が住んでいた地域では夏と冬に花火大会を行う。
私は花火大会に行ったことがなかった。
今年の夏も行きたいと願った。
しかし、『危ない』の一言で一蹴された。
だが、今度はもしかしたら、と幼稚なそろばんを弾いたのだ。
父はじっと私を見る。
深海の中でも覗き込むような無機質な目。少しの沈黙の後、
『いいだろう』
『ちょっとあなた……』
母が控えめながら諫めるも父はキッパリと言った。
『問題ない。その日は私も休みだ。警護に人員を回せる』
それだけ言い残すと、仕事があるからと食卓を辞した。
『ありがとうございます』
父の背中に向かって私は恭しく礼をする。
そして、私は夕食の残りを片付けると上品な所作で食堂を後にした。
私はようやく自室で一人になると、
『やったー!!』
思い切り万歳した。
翌日にタカナシさんにこのことを話すと、
『それはよかったですね』と両手を合わせて我がことのように喜んでくれた。
けれど、ものごとはそんなに上手くはいかないのだ。
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