第6章 大阪へ
高校を卒業した私は地元のホテルに就職したもののすぐに辞めてしまったので、その後はフリーターとしてバイト生活を始めた。資金を貯めてから上京する為だ。
両親の力を借りることはできない。必要なもの全て自分の力で用意すること。それは説得の課された条件だった。初めから頼るつもりも無かったが••。
一人暮らしを始める為の資金が貯まったところで、私はひとまず大阪で一人暮らしを始めることにした。音楽活動をするにはライブハウスが多い大阪は良い環境で、以前住んでいたということもあり、東京に行く前のステップとしては適していると考えたのだ。
私は吹田市に白羽の矢を立て、地元の不動産屋を訪れて紹介してもらったアパートに住むことになった。古いアパートで風呂もトイレも無かったが、二部屋あるにしては家賃が安く、周辺の環境も良さそうだった。
そうして、新生活を開始した私は日々ベースの練習とバイトに精を出した。
プロになるにはベースの腕前にまだまだ課題が山積みで、それらを一つ一つ乗り越えていかなければならず、バイトは飲食店だったが、そちらも覚えることが色々あって大変だった。
ただ、高校時代と違って授業のようはノイズはなく、必要なことに専念できるのは楽だった。いつでも目の前のことに全力でいられた。
そんな暮らしに慣れてきた頃、ふとした会話からバンドのメンバーの一人と一緒に住むようになった。それから少しして更にもう一人増えることになった。高校の同級生だ。その二人は初対面同士だったが、私の友達である以上は親友なのか、すぐに意気投合していた。
二部屋を三人で暮らすのは流石にどうかと思ったが、彼らは家主である私を尊重してくれ、加えてそれぞれの生活リズムがキレイにズレていたこともあり、軋轢が生まれるようなことはなかった。
バイトの時間の都合で三人が勢揃いすることはほとんどなく、二人なら二部屋にそれぞれがいられる為、何の問題もなく過ごすことが出来た。たまの休日が重なった際には一緒に遊びに行ったり、スタジオで目一杯演奏することもあった。楽しかった。
ただ三人での同居生活はそれほど長くは続かなかった。私に新しい彼女が出来たということもあって気を遣ったのか、大体一年程度でどちらも引っ越していった。その暮らしに慣れてしまっていたこともあり、彼らが出て行った後は部屋が広く感じ、どこか物悲しさがあった。
それからも私は黙々と上京の為の準備を続けた。
その間、大阪や神戸のライブハウスに出演もしていたが、残念ながら話題になることは無ければ、ファンを獲得することさえもろくになかった。もし話題になることがあれば、こちらで活動していくことも考えたが、結果としては単身で東京へ出ていくことに躊躇う必要はなかった。
やがていよいよ予定していた資金が貯まったので、上京することを決める。
それは奇しくも阪神淡路大震災の年だった。二十三歳の私は神戸を襲った悲劇に目を向けることもなく、キラキラと輝いて感じられる己の夢に向かって飛翔していった。
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