第5章 ライブ活動

 高校生になった私は兄や、兄の友達である先輩達とバンドを組み、あちこちのライブに出るようになった。

 主にローリング•ストーンズの曲を弾くコピーバンドだった。ビートルズが一番だったが、私が結成したわけでは無く、ストーンズも好きなので、異論は無かった。

 初めて出たライブではガチガチに緊張していた。

 「ちょっと緊張しすぎちゃうかー」

 直前の私を見た先輩がそんな風に声をかけた。

 舞台に上がってからのことはほとんど覚えていない。しかし、何度も練習してきた曲だったので、大きなミスはしなかった。

 あの時の舞台から見た、朧気光で満たされたような光景は、今でも脳裏に焼き付いている。楽しかった。

 気が付いた時には演奏が終わっており、いつの間にか舞台裏にいた。心臓の激しい鼓動と全身から滲む汗だけがやり遂げた証だった。先輩が、私の肩に手を置いて、「なかなか良かった」と声をかけてくれた。とても嬉しかった。

 それからは、最低でも月に一度はライブをするような日々だ。時には毎週末行うようなことも、あった。ひたすら練習した。もっと上手く弾けるように。新しい曲を覚える為に。

 流石に何度もやっていれば舞台に立つことにも慣れて、客の顔を見る余裕まで出るようになった。その反応の薄さにショックを受けることも多々あったが、後日同じ客を湧かせることが出来た時は嬉しかった。

 バンドをやっていた影響か、学校では女子にそれなりにモテた。初めての彼女も早々に出来た。しかし、当時の私にとっては、音楽の方が大切だったのだ。

 そんな風に私ね高校生活はバンドに恋愛にと、これぞ青春というような情景ばかりが並んでいる。学業に関してはほとんど覚えていない。夜遅くまで練習していることも多く、授業中はうわの空だった。進学する予定はなかったので、最低限できれば問題なかったのだ。

 そうして充実の高校生活は目まぐるしい速さで過ぎて行った。あっという間に卒業の時期となったが、私は大学受験を受けなかった。しかし、とりあえず地元のホテルに就職したが、すぐに辞めてしまった。心はとうに決まっており、迷いはなかった。上京して、プロのバンドマンになる。目指すはメジャーデビューだ。

 中学時代に宿した炎は一層激しく燃えており、私を動かしていた。より高みを目指して手を伸ばし続ける。それはまるでギリシャ神話のイカロスのようだった。蝋の翼で飛翔し、憧れの太陽に向かっていく。その果てに待つ結末を知らずに。

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