第3章 名張へ
小学三年生に上がる頃、私は小阪から三重県名張市へと引越すことになった。
そこには親戚の家があるので、毎年夏休みになると訪問して数日過ごしていた。歳の近いいとこがおり、一緒に川で泳いだり、虫取りをして遊んだ。小阪ではそういった遊びをすることはなかった為、いつも泊まりに行くことを楽しみにしていたことを覚えている。
その名張に父が新しい家を建てたのだ。それを目標として働き詰めだったのだろう。生まれてから過ごしてきた小阪が名残り惜しくもあったが、大黒柱である父の意向に子供が逆らえるわけもない。
それに、大きな環境の変化に少なからず不安はあったが、同じくらいに期待もあった。私はこれまでとは違う暮らしについて兄と話しながら想像を膨らませていた。
そうして、いざ引っ越しを終えた私は、その違いに戸惑いを覚えることになった。
例えば、男子と女子の仲が悪いことに驚かされた。小阪にいた頃は男女気にせず一緒に遊ぶことが当たり前だったが、名張では男女が反目しあっていた。両者の間に深い溝があるようだった。名字を呼び捨てにするのが基本で、その言い方も刺々しかった。引っ越したばかりの私が少しでも女子と話そうものなら、他の男子から「女好き」「オカマ野郎」などと囃し立てられた。
また、とにかく偉そうで人を従わせようとする男子もいた。私自身、小阪では同じように他生徒を従えるようなことをしていたが、あくまで一緒に遊んでいたに過ぎない。だが、その男子は気に入らない相手には半ば虐めのようなこともしており、他者を自分に媚びさせようと必死だった。それは酷く不快だったが、既に従っている者が多く、逆らうことは難しかった。
私は小阪時代とのギャップに苦しんだが、次第に周囲に合わせるようになっていった。以前のように男女分け隔てなく話すことはできなくなり、気に入らない相手を渋々とほめそやす日々。
そんな風に過ごしているものだから、私は自然と内向的な性格となっていき、以前のように積極的に人を引っ張っていくようなことはなくなった。
その後、変化があったとすれば、四年生になってから剣道を始めたことだった。鬱屈した日々を振り払うようにして始めたものだったが、どうやら私に向いていたようで県大会でも悪くない成績を残すことができた。
しかし、私の内にはそれでも満たされない衝動が沸々と煮えたぎっており、晴れることのないまま小学校を卒業することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます