第1話 猫耳

怪1


「カイリッ! カイリッ! 死んじゃ嫌だよ~! カイリ!?」


「う~ん。あまり揺らさないでくれ身体が言うことを聞かん……って誰だお前??」


「カイリ! 起きたの!? よかった~、もう死んじゃったんだと思ったんだから!」


 誰だこの女は? 俺は陰陽師の末裔、黄泉坂カイリ……さっき化物になった土地神に殺されたはずだ。その俺が今、猫耳美少女に膝枕をされている。天国か? いやいや馬鹿野郎、体中が痛くて揺らされるだけでも激痛だ。ここは紛れもない現実……だが、俺の知っている世界ではない。


 カイリは一瞬目を覚ましたがすぐに気絶した。猫耳美少女は大人を呼んできてカイリを寝床へ寝かせた。


 数日後、カイリは見知らぬベッドで目を覚ました。


「夢……じゃなかったのか……」


 俺はベッドの横でうたた寝をしている美少女を見て、膝枕は夢ではなかったと確信した。周りを見てみたが、木造建築というよりはあばら家だな。まるで家畜小屋みたいな粗末な造りだ。窓はガラスではなく木の板を押し開いて棒で固定しているようだ。他に気になる所は……やはりこの猫耳か……。


 もふもふもふ。


「んんッ!?」


 猫耳美少女よ、変な声を出すな。何かとんでもなく悪いことをしてしまった気分になってしまう。俺はこの美少女の猫耳に神経が通っていることを確認してみたが、獣というのは耳が敏感なのだろうか?


 猫耳美少女をあらためてよく見てみると、まるでフランス人形だな。目鼻立ちはくっきりして、髪はサラサラ、服装は地味だが清潔感を感じる。俺はまじまじと美少女を観察した後、ベッドから起きた。


「さてと……」


 ぐぅぅ~。


「腹減ったな。……机にパンがあるな。食っていいのか? これ?」


 部屋の隅の机に置いてあったパンを見つけたカイリは空腹を満たすため貪るようにパンを食べた。


 美味い! いや、普通のフランスパンみたいだが、腹が減り過ぎてパンが美味すぎる! これは水か! どこの水かは分からんが、この際、衛生面など知ったことか!


 ゴクゴクゴクゴクッ!


「ぷは~~美味いッ!!」


「んん~、カイリ~」


 しまった、思わず大きい声が出た。起してしまったか?


「ああッ! カイリ! 起きたの!?」


「おう、おはよう。猫耳美少女」


「美少女!? やだ! 何言ってんのよ!? 私の名前はアリシア! 忘れちゃったの!? 小さい頃からずっと一緒だったでしょ!」


 この娘の名はアリシア。どうやら、俺? というより、この肉体の持ち主だった奴と幼なじみだったらしい。それでは、前の持ち主はどこへ?


「痛ッ!」


「大丈夫!? まだ傷が痛むの?」


「いや、ただの頭痛だ。問題ない」


 前の持ち主のことを無理やり思い出そうとすると頭が痛くなるようだ。俺はなんとなくその場の空気に合わせて行動を取る方針に決めた。そのほうが無難だし、この娘アリシアに悲しんでほしくないからな。


「朝食なら、皆で食べましょう! こっちよ! 早く来て」


「待てよ~、アリシア~」


 俺は考え得る限り、前任者カイリを演じることにした。カイリって偶然名前が一緒なんだよな。それにアリシアが献身的に世話をしてくれている。たぶん、ヘタレだったのだろう。俺はヘタレを演じながら、猫耳美少女の後を追いかけていった。


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