貴方のおかげで、いい出会いがあったわ、魔王様。御機嫌よう。2
小さい頃はまだ俺に力もなく、人間と魔族のハーフというのもあって同年代の魔族にいじめられていたのだが、子供の頃は男と女の成長の違いもあって、エルフリーデに守られていた。
そしてある日、母からもらったロケットペンダントを崖に投げられたのだ。
『あぶないよリーデ…僕いいよ、またお母さんにもらうから…』
『ダメよ、マルク。あなたが大事にしたかった物なんでしょう?私が取りにいくわ」
リーデはそういい、崖へと投げ放られたペンダントを拾いに上半身を伸ばし、手を伸ばすが到底届かない。
『そうよ、マルク、あなたが私を魔法で浮かせばいいのよ!』
そういった直後、エルフリーデは崖へと身を投げだした。
『僕そんなに魔法上手じゃないよリーデ!!』
落ちていくリーデを見るしかない
初めて他人に振り絞るように魔力を使った時、
『うわ!わ、私浮いてるよマルク!最悪自分の力でも登れたんだけど…さすがだねマルク!』
僕の魔力に包まれた彼女を見て、僕はひどく安心した。
『ありがとうマルク!すごかったよ!』
そう言って、リーデは
その時、俺は思ってしまった。【あぁ、彼女は俺の物なんだ】と。
これから先何があろうと、彼女は僕の物なんだろうと、思ってしまったのだ。
自分の掌の中から彼女がこぼれ落ちるなど考えもせず、呑気に―
「ま、魔王様!ゆ、勇者達が強襲をかけてきています!」
幹部からの言葉に、ハッと現実へと戻る。
「…状況は?状況次第では、私は玉座へと座る。」
魔王は玉座へと座るものらしい。そこでふてぶてしく待ち構えるのが様式美なのだそうだ。
「今は四天王の皆様方が足止めをしております!!もう既に二人が討ち取られました!!魔王様は玉座へと準備を!!」
「…わかった、私は玉座で待つ。」
マントを
「さて…私の喉元に勇者の手は届くであろうか…」
報告を済ませた部下も退出し、誰もいなくなった謁見の間に声だけが響いた―。
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「ぐあああああああああ!!…くっ魔王様の元へはいかせん…!!」
四天王の一人が僕達へと最後の一撃を放ってくる。それを魔女さんが片手間の魔法で防いでくれる。
「ふん…四天王なんて言ったって、私の魔法ひとつで死に際の魔法を防がれるなんて…こんなのが私を馬鹿にしてたのね…」
エルフリーデさんは死体となり冷たくなった四天王の一人を凍えるような眼差しで見ている。
――詳しく聞けなかったけど、どんな恨みを持っているんだろう?―
何度か聞いたが、毎度濁されてうやむやになったエルフリーデさんの過去。
「先に行ってくれ、魔王が待っているはずだ。俺は矢を作るから少し後から合流する。」
ロベルさんはここまで、矢で牽制してくれていてもう手持ちの矢がないのだろう。イルゼさんも残るといい、柱の影に隠れて矢を作っている。
「…エルフリーデさん、いきましょう。」
コクリと頷くエルフリーデさんを横目に、僕は魔王がいるであろう
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俺はあまりに驚愕して、呆けた顔をしているであろう。
淡く光を放つ剣を持つ勇者と思わしき男と俺の魔女が、横並びにいるのだから。
ハッとし、今は目の前に集中する。
「…エルフリーデよ…貴様、誰の前に立っている。」
「あなたの前よ、魔王様。私はあなたとは決別したの。」
今日は秋明菊ではなく、
【別れの悲しみ】【忍ぶ恋】。先程の言葉も踏まえると前者、そして後者を―
「…勇者ああああああああああああああああああ!!!!」
全力で魔法を放つ。エルフリーデを巻き込まないようにレーザー状に放つが-
エルフリーデに防がれた。詠唱などした様子もなく、片手間で余裕を持ったように防がれる。
「私、幹部達が鬱陶しくて実力を隠してましたの、魔王様。アネモネでも投げればいいかしら?」
そういい、バフ魔法を勇者に重ねがけしつつ掌の上にアネモネを咲かせるエルフリーデ。
「さぁコーリャ、あなたの手で魔王を終わらせて。今の貴方ならできるわ」
そう言い、勇者の髪を撫でるリーデ
―やめろ、その手も全て俺の物なんだ。俺の―
「…うん、エルフリーデさん。使命を…果たすよ。」
剣を構え、淡く光っていたはずの剣は輝きを増していき-
横薙ぎに振るわれた剣から、剣閃が走る。玉座も、柱も、俺の体も二つに分かたれた。
―俺が、一撃で?なんだ、なんなのだこれは。―
痛みが夢ではないと教えてくる。ズルリと落ちていく身体を止めようとする腕も切られていた。
ズシャッと生々しい音を立てて落ちる身体。そこにカツカツと音を立てて、リーデと勇者が近づいてくる
うつ伏せに倒れていた俺に、足を入れて下から持ち上げ、ゴロンと転がしたと思うと-
一瞬映った瞳は、目線だけで凍るような冷たい目をしていた。
「さて…まだ死ぬまでに時間がありそうだから…そうね、せっかくなら白のアネモネでいいわね。」
仰向けになった私の胸の上に、魔法で創り出した白いアネモネが降ってくる。
「貴方には期待してたのよ。幼馴染で、人間が元の種族である魔女が魔族の軍に入れば、いくら実力があろうと色眼鏡で見られ、正当な評価ももらえず…最後私が出ていく前に、とある幹部に身体を売って意見が通るようにしてるとかも言われたわ。でも…」
そっと割れ物を触るように勇者の頬に手を当てるリーデ。そうしたかと思えば、勇者にキスをした。
「あなたのおかげでいい出会いがあったわ、ありがとう魔王様。そして御機嫌よう」
気付いたら伸ばしていた、まだ繋がっていた片腕が力なく落ちる。
「…俺は…僕は…リーデ…。」
「貴方は魔王で私は元部隊長で幼馴染。それ以上でも以下でもないわ。コーリャくん、マルク…魔王の介錯をお願いするわ…」
リーデの言葉に頷き、こちらへと歩いてくる勇者。
「…貴方に恨みはありません。ですが、貴方を討つ事で平和が戻ってくるのです。」
聖剣が輝きを増し、俺の首へと刃を立てる。
「エルフリーデさんが僕達に協力してくれたのは、貴方達へ恨みをはらすためでした。…さようなら、魔王マルク。」
そういい、剣で跳ねられ宙を舞う俺の首。俺のリーデへと駆け寄る勇者を見ているうちに意識が暗転していった-
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「…あのペンダントまだつけてたのね…。」
落ちた首から、見覚えのあるチェーンが見える。
『今は私が守ってあげるんだから、将来偉くなったら私を守ってね!約束よ!』
小さい頃した約束が、脳裏によぎる。
「エルフリーデさん…?なんで泣いてるんですか!?魔法を防いだ時にどこか怪我を!?」
気付けば涙を流していたらしい。コーリャくんに言われて、初めて気付いた。
「…大丈夫よ。少し、ね…」
もう帰りましょうと、
―…これからはまた争いが起きそうね。―
魔族の脅威がなくなったら、次はおそらく人間同士の戦いが始まるだろう。
今は一時の平和が訪れたのだ。今の間にどこか隠居をしようと思って、魔族の死体がまだある城内を歩いて出ていくのだった。
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「…結局俺達いらなかったな?イルゼと待ってて正解だったぜ。」
「そうですねロベルさん…奇襲にだけ気をつけて脱出しましょう。」
二人と合流し、仲良さそうに手を繋ぐ僕とエルフリーデさんを見て、もう魔王は討ち取ったのだろうと予想したのだろう、本当に露払いくらいしかできなかったなぁとロベルは首をすくめて、手をあげている。
「…二人とも、ありがとう。二人がいてくれたからこそ頑張ってこれたし、エ、エルフリーデさんとも仲良くなれたから…」
「と、そろそろ軍の方が来そうだわ。急ぎましょう。」
僕達…いや、僕以外の人間をひどく嫌うエルフリーデさん。
―…このまま、二人で暮らせたらな…。―
思わずギュッと手を握ってしまう。そんな僕にエルフリーデさんは勘違いしたのだろう、苦笑しながら僕の頭をなでてくれる。
「ごめんね、私の代わりに介錯をしてもらって。」
「…いいんですよ、僕が選んだから。」
もう一度ギュッと握り返し、早く大きくなりたいなぁと思いつつ、魔王城を後にした-。
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