秋明菊の魔女
栄養剤りぽべたん
貴方のおかげで、いい出会いがあったわ、魔王様。御機嫌よう。1
「さて…この度の会議の結果だが…エルフリーデ、お前の案を採用しようと思う。」
当然なことだが最終決定権は魔王にある。
―…似たような案も、もっといい案もあったでしょう魔王様…!―
ほら、まただ。なんで一部隊長のお前の案が通るのに幹部の私達のは通らないのだ、といった視線だけで刺し殺せる…いや、明らかな殺気までもが私に集中して飛んできている。
「それでは皆、作戦通りに。魔族に栄光を!」
【魔族に栄光を!】
そう会議を締めくくり、マントを翻しながら颯爽と会議室から出ていく魔王様を見送り、他の幹部達の手前、最後に出ていく必要がある私は、頭を下げ、皆が出ていくのを待つ。
―…明らかな私に対する舌打ち、視線…魔王様…これに気付かないもんなぁ…―
バレないようにため息をつく。そんな私に一人の幹部が近づいてくる。
「幼馴染はいいご身分だよなぁ、裏でどうせ身体売ってるんだろう?じゃないと似た提案をした俺の意見が通らないわけがないからな。じゃあな魔女、せいぜい性病には気をつけるんだな」
吐き捨てるように、怒りを隠さずに私にそう告げるとその幹部は去っていった。
そいつが最後だったのであろう、会議室は静まり返り、私以外誰もいなくなった。
これでようやく私は部屋へ戻れる。
―…色んな事言われてきたけど、ついにここまで言われるようになったのね―
流石に頭にきた。部隊長として部屋は与えられているが、私物などはほとんどない。
あったとしても、おそらく部隊長なのに重用されている私に嫉妬した幹部連中の息がかかった者に荒らされ、壊されたりするだろう。
「…もう出ていく。最後に…」
魔法で作り出した
視界は悔しさと、どうしてこんな事を言われなきゃいけないのだ、という思いで自然と滲み出てきた涙で溢れている。
あてもなく、私は飛び続け、飛び続けてまだ魔族の手の及んでない土地まで飛んだ。
*********************************************
「……何?エルフリーデが出奔しただと?」
「はっはい…あの方はいつも会議が終了した後最後に出ていくので…恐らく窓から出ていかれたのかと。部屋からエルフリーデ様が出たのを見た者はいません。」
その報告を聞き、思わず手に持った酒坏に力が入る。
「…だせ…」
「は?すみません魔王様よく…」
「探し出せと言ったのだ!!!」
酒坏をつい砕いてしまう程の力を込め、腹から出た怒声が部屋に響く。
「ひっ…さっ作戦の方はどうなさいますか?」
「変更だ…魔女の捜索を優先する。直ちに幹部達を集めよ。会議を開く」
砕いた酒坏から散らばったワインも気にせず、魔王は早足で会議の場へと赴いた。
この時決まった捜索で、魔族の人間達の領地への侵攻が大幅に早まったのであった。
*********************************************
「くそっコーリャ!やべーデュラハンが…イルゼのくれた聖水も効かねえぞ!」
今勇者一行は修行の一貫としてダンジョンに来ていたが、今はダンジョンに現れた強敵に追い詰められている。
急速に早まった魔族の侵攻に対して、女神は一人の少年に神託を下した。
『この子は聖剣に選ばれました。この子の旗の元、魔王を討ち取るのです』
国から聖剣に選ばれた勇者として、何十人と充てがおうとしたが、神託には続きがあった。
『その子が選んだ者を従者とするのです。強制する事は許しません」
実際、様々な国からハニートラップや推薦があったが、そういった事をした国の中枢部には天罰が落ち、機能不全に陥った場所もあり、それ以降はそういったちょっかい等もなかった。
そして、勇者として選ばれた金髪碧眼の少年【コーリャ = ロマキン】が直接仲間に加わって欲しいと言ったのが
小さな村で狩人として働いてた弓兵で【ロベル = トロホヴスキー】と
その村の神殿で神官を勤めていた【イルゼ = シュポア】。
二人は既に村公認の仲で、そういった意味でもちょっかいをかけてくる事もなさそうだし、実際に村に滞在した時に二人と仲良くなったので勇者として旅をしていることを明かし、旅に同行してくれないかと提案したら二つ返事で従者となってくれた。
「くっ…硬すぎて僕でも斬れない…馬の部分を斬っても再生する…逃げ-」
その時、一本の閃光が勇者一行の間を駆け抜ける。
そしてデュラハンへと光が届くと光は爆発的に広がり、そこには最初から何も居なかったように、通路に破壊の跡も残さず、デュラハンが消え去っていた。
「…こんな所までもう手が伸びてるのね。私はこの奥にある薬草に用があるの、あなた達少しどいてくれないかしら?」
綺麗な腰まで伸びた水色の髪。紫色のマーメイドラインのドレス、ドレスと同じ色をしたトンガリ帽子-
そう、明らかに【魔女】といったらこれだろうという服装をしている彼女、彼女こそが魔王軍から捜索をかけられている【エルフリーデ = イェリネク】である。
勇者もまだまだ子供。聖剣をしっかり扱えているとは言えず、かと言って魔王軍の侵攻が緩むわけではない。
気が急いていて、少し上級のモンスターが現れるダンジョンへと趣き、いきなりのデュラハンナイトの襲撃に刃が立たず、困っていたのだ。
本来デュラハンナイトの様な上級モンスターが出るというならば、その様なダンジョンは報告があるはずなのだが、魔女が意味深にこんな所までと言ったせいで勇者一行の気を引いてしまった。
「…あなたは一体?」
そして何故か、コーリャは警戒する気がおきない。後ろの二人は杖を構えたり弓弦に矢をかけたりしているが、コーリャ自身は剣を下ろしてしまっている。
「…通りすがりの魔女よ。さっきも言ったけど、このダンジョンの奥にある薬草に用があるの。…あなた、噂になっている勇者ね?」
コーリャの手に握られている剣をちらりと見て、そして自分より背の低い勇者に体を屈めて、目線を合わせる。
「あなた達、3人なの?…魔法使いはいらないかしら?実力は先程見せた通りよ。」
「…何が目的なんだ、魔女さん。俺達のパーティーに入る目的もさっぱり見えてこないし自己紹介も受けてねぇ。」
ロベルは勇者が警戒していないのを見て、弓を背中へと仕舞い警戒を解いたフリをしつつ、腰につけているナイフはいつでも抜けるようにし、聞く。
「あら、そうだったかしら。…私は【エルフリーデ = イェリネク】よ。目的はそうね…勇者くんが可愛い男の子だったからかしら?もっと言うなら魔王軍に恨みがあるからよ。」
「…奥に薬草があってそれに用があるんだろ?さっさと取って他のダンジョンいくぞ。」
ロベルは少し照れくさそうにし、それをイルゼに脇をつつかれながら先へと歩いていく。
「…かわいい男の子。かわいい男の子。かわいい…男の子…」
コーリャは壊れたお喋り人形の用に繰り返し、二人の後をトボトボと追っていく。
「ふふ…私の為にも勇者くんたちには頑張ってもらわないとね。」
ここでも魔法で
*********************************************
「いつまで見つからないのだ!!何年経っていると思っている!!!」
「ま、魔王様…最近は人間の攻勢も激しくなっており、斥候として送り出した連中も討たれてしまっており…勇者という者も」
「もうよい、私が行く」
ビクビクとしながらも怒っている魔王へ報告をしているに、一言残し魔法を撃ち込み、上半身を消し飛ばす魔王。
「えぇい忌々しい…勇者め…私自身が探しにいけば早かったのだ…」
爪を噛み、明らかにイライラした様子の魔王を四天王の一人がさすがに止めに入る。
「大将自らが出るのはいかがなものかと…やはり斥候を待ちましょう魔王様。」
「黙れ!!くそ…エルフリーデ…」
たかが部隊長に執着する魔王に四天王も呆れ、肩をすくめてもう病気だなと思いつつも止める。4人掛かりなら先程の報告していた幹部とは違い殺されることもないだろうと。
「今全方位に斥候を送り出し、怪しい場所の捜索をしているのもあってさすがに無視できない被害が出てきています。捜査を打ち切り、現状を維持しましょう。」
四天王にそう説得はされるが諦めきれない魔王。現在の勢力圏を維持しつつ、斥候を出すように指示し、自身は胸にあるロケットペンダントを取り出し、大切な物を眺めるように思い出に浸った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます