秋明菊は枯れた。次に咲くのは-

 -…やっぱり人間は愚かねぇ…-


 共通の敵である魔族がいなくなったことで、やはり人間の国と国が争い始めた。

 群雄割拠と言うが、あの勇者パーティーはどうしているだろうか。



 あの時、魔王城から出てすぐに私は三人と別れた。

『エルフリーデさん、あの…』

『コーリャくん、ロベル、イルゼちゃん。私は恐らく次の魔王候補だとか裏切り者は信じられないとか言われて狙われるわ。なのでここでお別れよ。』


『おいおい…まぁありえない話じゃないか…。コーリャ…』


 呆然とした顔でポロポロと涙をこぼすコーリャくん。頭はしっかりと理解していたのだろう。

 少しして目を閉じ、開いたときには彼の涙が止まっていたのを覚えている。

『…はい…。でも、。絶対あなたを見つけます。必ず、どれだけ時間がかかっても。』


 その時、私は秋明菊シュウメイギクを創り出し、さらに魔法で枯らして捨てた。


 …魔王マルクへの、ほんのすこしの期待とほのかな恋心を完全に捨て去る様に。


『…そう、期待して待ってるわ。コーリャくん。』

 トルコキキョウを創り出し、枯れない様に魔法をかけ、彼の頭に挿す。


 そして私は振り返ることなく、空へと飛んだのだった-。



 *********************************************


「あら、この魔力は…コーリャくん?」


 風の噂で、勇者の聖剣は既に女神に返納されたと聞いたが、彼の魔力を私は覚えている。

 輝かしく、まさに人類の希望といった感じの温かい魔力。


 数年かけて私が構築した結界を、ゆっくりと掻き分けるように進んでくるコーリャ君の魔力。


 森の中に隠居し、完全に自給自足の生活をできるようにして、気付けば数年経過していた。

 そんな私を見つけにきてくれた彼の魔力に-


 私は自然と涙を流していた。気付けばピンクのガーベラを創り出し、彼がたどり着くのを待つ。


 ガサリと、藪から音がする。魔力だけを感じていた私に、あの頃と姿コーリャくんが目に入った。


「…人間って歳を取っても、姿が変わらないのかしら?」


 気付けば嬉し泣きしていた涙も疑問を前に引っ込んだ。


「女神様に聖剣をお返しした時に、お願いしたんだ。魔女と二人で過ごしたいから不老にしてくれって。なんかビーエスエスよー!って興奮して叫んでてよくわからなったけど…」


 こめかみをポリポリと掻きながら、視線を合わせてくれないコーリャくん。

 本当にあの頃と変わらない。


「…私、こう見えて結構なお歳よ?それでも…」


「まって、リーデさん。そこから先は僕に言わせて下さい。」


 あの時は渡したトルコキキョウを外し、私と同じ様な魔法で真っ赤なガーベラを大量に創り出す



「これから先、僕と一緒にいてくれませんか、エルフリーデ=イェリネクさん。」



「…フフ、及第点よ。告白されたのは初めてだけれどね。コーリャ = ロマキンくん。」


 私からも先程創り出していたピンクのガーベラを、土魔法で創り出した花瓶に活け、そこに同じ様にコーリャが私へと渡してくれた真っ赤なガーベラを挿す。


「どちらの名字にするかとかは…いや、あえて新しい名字にしますか?」


「…そうね、それはこれからいくらでも考えられるわよ、コーリャくん。」

 以前は当てつけるようにキスをしたが、今度は愛情をたっぷり込めたキスをし、あの時様にギュッと手をつなぎ、私が建てた家へと一緒に入った。



 fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秋明菊の魔女 栄養剤りぽべたん @ripobetan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ