さよなら
私は彼のもとに歩いていく。
ゆっくり、でも、堂々と。
彼は目を見開く。
前、彼は私に『友達』と言った。
しかし私はもう彼と友達ですらいられなくなる。
初めは怖くなると思った。
でも実際はならなかった。
私の決心が揺らぐことはなかった。
彼との距離が1m、2mと近づく。
心臓の鼓動が速くなる。
やっぱり私は彼のことが好きなんだ。
でも、私は今から彼に嫌われに行く。
絶対に後悔はしない。
そう自信があった。
後悔なんてするはずがない。
あと、あと、あと1歩…。
しかしその一歩を踏み出すのは、永遠にも永い時間に感じた。
本当は1秒にも満たない時間のはずなのに。
でも、それでも、私は踏み出す。
彼は口を開こうとする。
しかしその前に私が口を開いた。
彼との距離は十分だった。
ゆっくりと息を吸う。
いくらでも吸えそうな錯覚に襲われる。
声を出そうとした瞬間、急に目が回った。
彼の顔が小さく見えるようになる。
まるで彼は遥か遠くにいて、私の手が二度と届かないかのように。
ああ、やっぱりだめなのだろうか。
言えないのだろうか。
…このまま縛り続けられるのだろうか。
不安の波が押し寄せてくる。
しかし私の決心が再び目を覚まし、不安を押し返す。
彼は笑っていた。
ただただ静かに微笑んでいた。
…そんな顔しないでよ。
言えなくなるじゃん。
一回、息を吐き、もう一度吸った。
さっきよりももっともっと深く。
「さよなら」
たった4文字の言葉だった。それで十分だった。
優しい彼は全部受け止めてくれた。
私の気持ちを分かってくれた。
これで本当にふっきれたかどうかは分からない。
けれど、昔のように私を縛った彼は私の中から消え去った。
彼に、最後に伝える言葉 白城香恋 @kako_00
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