第13話 二年生になりました
猫のペロは子供を産んだ。六匹中なんと白色の仔猫が3匹。父猫らしい白猫が仔猫たちが産まれる瞬間に『アオーン』と鳴いたとか。まさにファンタジーの世界ね。フロレント色の父猫にゲルダリーナ様色の母猫ペロ。これもファンタジーの世界だよね。
八匹は正式にゲルダリーナ様のご実家ケルステン侯爵家に引き取られ、フロレントとゲルダリーナ様は時間を見つけてはケルステン侯爵邸へ赴いているそうだ。
ペロがいなくなった林の近くのガゼボでは、フロレントとゲルダリーナ様が仲睦まじくお茶をしている姿があると聞いている。
さらには、仔猫たちに首輪を付けて、時々教会へ連れていき、精神的な病気の人に愛でさせているというのだから、びっくりした。それってアニマルセラピーだ。この時代にあって革新的すぎて、すごい。
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児童書に感動してしまったマジラウルは、孤児院に本を沢山寄付したいと言い出した。それを学園としてのボランティアにまで企画を推し進めた。そして、月に一度、クラス指定で古本が回収されるようになった。学園には全校12クラスあるので、一人に換算すれば、年に一冊の寄付だ。下位貴族であっても誰も不平不満はないようだ。
カルラッテ様は、もちろん積極的にマジラウルに協力している。
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ダンティルとベティーネ様は傍から見ると相変わらずの距離感である。
でも、私ほど近くで見ると、ダンティルのリラックス具合もベティーネ様の笑顔具合もすこぶるよい。
私はランチの際にはなるべく立つようにしているが、大抵はベティーネ様に先手を打たれてしまい、三人でいることになってしまっている。
イルザニナ様がご卒業なされてしまってからは、ランチの後にはダンティルとエリアウスが来て、ベティーネ様との四人でお茶をしていることが多くなった。
居心地は悪くないので、私的には問題ない。
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と、思っていた。
まさかの強制力なのか、それとも単に私が嫌われ者なのか。
二年生の二学期になると私へのイジメがはじまったのだ。
古典的なイジメだが、確かにゲーム内でもやられてはいた。だが、悪役令嬢になるべくご令嬢方はお友達だし、攻略対象者たちにはすでに私の本物笑顔パワーも効力がなくなっていた。
だから、何の目的のイジメなのか理解できない。
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まずは教科書がなくなった。万が一のためにエリアウスに頼んでイルザニナ様の教科書をキープしておいて幸いだった。
さらに、それをエリアウスから私に渡してもらうことにした。
「アンナリセル嬢。なんだ? 教科書を忘れたのか? イルザの使った教科書だ。これを使うといい」
クラス中に響く声でエリアウスに渡してもらった教科書には、イルザニナ・ヨードルッケ侯爵令嬢の名前が書かれている。
教科書を用意するなら兄のでもいいのだが、辺境伯と侯爵なら、侯爵の方が威圧力はあるし、犯人は女の子だろうから、女の子たちの憧れの方の方が威圧力があるだろうとの考えだ。
エリアウスとこのやり取りを三度ほどやったら、教科書紛失はやられなくなった。
しかし、まさかの展開となった。
「イルザニナ様の教科書を譲ってくださいっ!」
狂信的なイルザニナ様信者が数名いて、エリアウスが苦笑いで譲っていたのはオマケだ。
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そしてある日には、校舎の脇を歩いていると水が降ってきてびしょ濡れになった。特に騒がずに静かに寮へと帰った。
しかし、誰かが見ていたのか、犯人が噂にしたのか不明だが、お友達のご令嬢方に知られることになり心配をかけてしまった。
その三日後、フロレントとゲルダリーナ様が日傘をプレゼントしてくれた。
「アンナリセル嬢。これは、神に加護を願った日傘だよ。これに悪さをするような輩はこの国にはいないだろう」
フロレントが高らかに怖いことを宣言して渡してくれた。
「ふふふ、わたくしとお揃いですの。お外にお散歩するときにはご一緒いたしましょうね」
ゲルダリーナ様はその宣言通り、寮からの登下校も一緒にしてくださった。
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別の日には、ダンスのレッスン用に用意しておいたドレスがズタズタにされていた。
ドレスは華美なものを控えるというお決まりのような規則だけで、自由に用意することになっている。全員が、朝のうちに、持ってきた自前のドレスを控室にある共同のハンガー掛けに掛けておく。『朝のうちに』という曖昧な時間設定のため控室に鍵はされていない。
二時限目にダンスレッスン授業のある日の朝、寮から持ってきたドレスを掛け教室へ行った。
時間に合わせてクラス女子全員で控室へ行ってみると、私のドレスだけがズタズタにされており床一面に布切れが散らばっていた。
その日のダンスレッスン授業は中止となった。私は予想していたのでやられたことは気にしないが、やった人が誰なのかは気になる。犯人が自供でもしない限り見つからないとは思うが。
ドレスは既製品を買い求め、次週からは私の分だけ教室に置かせてもらった。
だが、友達は気にしてくれていたようだ。その事件から三週間後、マジラウルがとてもキレイなマーガレット色のドレスを持ってきてくれたのだ。
「アンナリセル様。こちらはわたくしがデザインいたしましたのよ。うふふ」
カルラッテ様がマジラウルの隣で嬉しそうに笑っていた。それはあの物語に出てくる挿絵に似ていた。下町の娘が夢の中で踊る時のドレスだ。下町の娘の想像という設定なのでさほど華美ではない。
だが、私とカルラッテ様には特別なドレスデザインだ。
「わたくしも色違いで作りましたの。これを着てレッスン頑張りましょうね」
「仕立て屋にデザインもサイズも伝えてある。最短で一週間でできるよう材料の確保もしておいた。存分に練習してくれ」
マジラウルが笑顔で私にドレスを差し出した。私は涙を堪えてそれを受け取った。
その場でふと我に帰る。
「私のサイズ?」
「うふふ、タウンハウスのシンリーさんが、喜んで仕立屋さんまでご一緒してくださいましたわ」
カルラッテ様は悪戯が成功した子供のように笑っていた。マジラウルは苦笑いしている。
授業で見たカルラッテ様のドレスは濃紺。カルラッテ様とマジラウルが仲良しのようでそれもまた嬉しい。
マジラウルの宣言のおかげか仕立て直すようなことはなかった。
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