第014話 結構、儲かったね。でも、もう芋虫はいいや……


「これでいいか?」

「いやー、もうちょっと濃い青が欲しいらしい」

「めんどくせ…………」


 私はロビンソンの頼みでキャタピラーを倒し、素材を集めている。

 だが、20匹以上は倒しているが、一向に集まらない。


 というのも、キャタピラーのドロップ品である糸は色がついており、この色がランダムでドロップする。

 ご指定の色が出るまでひたすらキャタピラーを狩っているのだ。


「まあ、そう言うなよ。これらだって、売れるんだから」


 それはわかっている。

 糸は1800円で売れるから、結構、儲けていることになるし、ロビンソンに奥まで連れていってもらえるのは嬉しい。


 だが、芋虫狩りは飽きたのだ。


「めんどくさいなー。もう妥協してよー」

「パパの威厳ってのがあるだろ」


 ねーよ。

 というか、こいつはわかっているのだろうか?

 濃い青の糸を欲しがる娘。

 十中八九、彼氏へのプレゼント素材でしょ。


「ハァ…………帰りたい」

「そう言うなってー。それにしても、お前さん、強いなー。さすがは二つ名持ちルーキー」


 ロビンソンはそう言って、タバコを取り出し、火をつけた。


「吸っていいの?」

「うんにゃ、ダメ。ダンジョン内は禁煙なんだ。言うなよー」


 ダメなパパだなー。


「その煙を我に吹きかけたら殺すからな」


 私はタバコを吸いだしたロビンソンから1、2歩ほど距離を取った。


「何? タバコ嫌い?」

「別に……ただ、匂いが移ると、チューする時に嫌われるでしょ」

「何? お前さん、彼氏いんの?」


 は?

 殺すぞ。


「彼氏? ふん、誰が男なんか相手にするか」

「えー……お前さん、そっちー? ウチの娘に近づくなよー」


 ロビンソンが嫌な顔をする。


「何歳?」


 念のために年齢を聞いておこう。


「えーっと、高3だから18歳かな」


 あ、いいっすわ。


「安心しろ。熟女は好まん」

「えー……まじかよー…………ああ、なるほど、≪少女喰らい≫」


『また来たぞ』


 ウィズが念話で教えてくれたので、前方に手を出す。


「凍れ」


 私の魔法を受けたキャタピラーは凍り、砕けた。


「おー、すげー! でも、わりい、この色じゃない」


 ロビンソンはドロップ品を拾うと、まったく悪びれずに言う。


「もう買いなさいよ…………」

「売ってないんだよー」


 そんなもんを要求すんなよ、娘……


 それから何体も倒し、ようやく念願の色の糸をドロップした。

 結果、私の手元には34個の糸がある。


 疲れたー…………


「いやー。助かったぜー。マジでどうしようかと思ってたが、俺はツイてたな」

「我はツイてなかったがな」


 もう5時過ぎてんじゃん……


「まあ、そう言うなってー。約束通り、連れていってやるからよー」


 ロビンソンの依頼を終えた私達は魔方陣がある場所に向かう。

 とはいえ、魔方陣から近い場所で狩りをしていたため、すぐに魔方陣に到着した。


「で? 7階層でいいのか?」


 魔方陣に着くと、ロビンソンが聞いてくる。


「貴様は30階層まで行けるんだろう? 30にしろ」


 この親父が行けるくらいなら我でも行けるだろう。


「いや、それは無理」


 ロビンソンはあれだけ手伝った私の頼みをあっさり拒否してきた。


「は? 死にたいのか?」

「いや、マジで無理。Eランクは10階層までしか行っちゃいけないんだよ。もしバレたら下手すると、俺は免許取り上げになる。それくらいに禁止された行為なんだよ」

「はぁ? 何でよ?」


 自己責任はどこに行った?


「昔、そうやって、奥に行って、いっぱい死んだらしい。探索者は自己責任だけど、さすがになー」


 うーん、無理なのか……


「Dランクだと、どこまで行ける?」

「Dランクは15階層でCランクは20階層。Bランクになれば、制限がなくなる。だから、皆、とりあえず、Bランクを目指す」


 Bランクか……


「仕方がないな。とりあえず、7階層でいい」

「ん、わかった。ほれ」


 ロビンソンはそう言うと、魔方陣に乗り、私に向かって手を伸ばす。


「何だ?」

「いや、手を繋がないと飛べないんだよ」


 ほんとか?

 私の手に触りたいだけじゃないの?


「人間風情が……」

「いや、エスコートする名誉を授けてくれたんじゃなかったのかよ」


 ああ言えば、こう言う……


「まあよい。名誉だぞ。もう手を洗うんじゃないぞ」

「わかったから……めんどくせーなー、こいつ」


 貴様には言われたくないわ!!




 ◆◇◆




「ほら、着いたぞー」

「ここが7階層か……全然、わからん」


 今までと風景がほぼ変わらない。


「そらなー。まあ、歩いていれば、スコーピオンが出てくると思うぞ。俺はもう帰るけど」

「我も帰る。6時から人と会う用事があるのだ」

「へー…………捕まんなよ」


 ロビンソンは邪推しているようだ。


「残念ながらそんな相手ではない。なんかギルドのお偉いさんらしい」


 誰だかは知らんが。


「ギルドのお偉いさん? キミドリちゃん?」


 なんでやねん。


「あれは下っ端でしょ」

「いや、あれがウチのギルマス」

「は? ギルマス? ギルドマスター?」


 トップじゃん。

 あんな小娘が?


 ふむふむ…………

 あー、わかった。


「枕か…………」


 世の中には、そういうのがあることは私も知っている。

 私も権力者だったら、幼女と枕して、ギルマスにしてあげるもん。


「いや、枕って…………あの子、めっちゃすごいんだぜ?」


 見えないなー。

 しかし、そうなると、私が会う相手は誰だ?


 うーん、まあいいか。

 会えばわかる。


「あ、貴様、携帯を持っているか?」


 私は名案を思いついた。


「そらそうだろ。持ってないヤツいるか?」

「貴様はいちいち、癇に障るな。連絡先を教えろ」

「なんで?」


 うぜー。


「素直に教えんか。ぴちぴちの24歳の連絡先を交換できるんだぞ」


 おっさんなら泣いて喜べ。


「お前さん…………24歳かよ。ウチの娘より年上なのかよ。ってか、キミドリちゃんと同い年かよ」

「いいから教えろ」

「いいけど、何に使うんだよ?」

「7階層に飽きた時に呼ぶからまた運ぶように」


 名誉だね。


「めんどくせー…………」

「いいから教えろ! タバコ吸ってたことをばらすぞ!!」


 私に逆らうんじゃないよ。


 その後、渋るロビンソンを説得し、無事、タクシーチケットを手に入れた私は意気揚々とギルドに戻ることにした。

 そして、まったく使っていない武器をお爺さんに預けると、受付に向かう。

 なお、一緒に帰ってきたロビンソンはお爺さんに話があるらしく、その場で別れた。


「おかえりなさーい」


 私がロビーに戻ると、枕してギルマスになったキミドリちゃんが迎えてくれた。


 マクラドリちゃんは来た時と服装が変わっている。

 私が来た時はギルド職員の制服だったのに、今はスーツでビシッと決めているのだ。


「その恰好、どうしたの?」


 一応、聞いてみよう。

 ツッコミ待ちかもしれんし。


「これから会ってほしい人がいるって言ったじゃないですか。偉い人なんで、一応、ちゃんとした格好をと思いまして」


 ふーん。

 全然、面白くなかった。


「まあいいや。先に精算をお願い」


 私はアイテムボックスから今日の成果を出す。


「おー! 多いですねー! ってか、糸ばっかですね」

「ロビンソンのバカに付き合わされた」

「あー…………娘さんの…………あの人、娘さんに甘々だから」


 でしょうね。


「彼氏へのプレゼントでしょ」

「だと思います。なんで気付かないんでしょうかね?」


 親バカだからじゃない?


「色でわかるよね」

「ですよねー。濃い青って……」


 私とキミドリちゃんは鈍いロビンソンに呆れる。


「えーと、今日は99500円ですねー」


 あと、500円でちょうどよかったのにな……

 スライムでも倒せばよかった。


「現金で」

「わかりましたー。いやー、優秀ですねー」


 知ってる。


「今度からはもっと稼げそうだわ」

「うんうん。じゃんじゃん稼いでくださいね」


 そうなると、こいつも儲かるのか……


「で? 例のヤツはどこで会うの?」

「あー、ちょっと移動しますので、連れていきますよ」


 キミドリちゃんはそう言うと、立ち上がり、こちらまでやってきた。

 座っていたので、わからなかったが、スカートが結構、短い。


 わかった。

 これから会う人はキミドリちゃんの枕相手だ。


「キミドリちゃんはもう少し、自分を大切にしたら?」

「何を言っているんですかね?」


 キミドリちゃんはとぼけて、外に出ていく。


 まあ、表立っては言えないか。


 私は外に出たキミドリちゃんについていった。

 すると、キミドリちゃんはギルドの裏に回っていく。


「どこに行くの?」

「裏に職員用の駐車場があるんですよ。車で行くので」

「へー。キミドリちゃんって、車、持ってるんだー」


 私とキミドリちゃんが裏に回ると、何台かの車が止めてあった。

 その中にはひと際高そうな赤いスポーツカーもある。


 まさか…………


 キミドリちゃんは私が予想した通り、そのスポーツカーに向かって歩いている。


 キミドリちゃん…………


「どうぞ、乗ってください……って、その顔は何です?」

「体は売っても、魂は売っちゃダメだよ…………」

「この違法ペドロリバカ女は何を言ってんですかね……」


 だってねー……


「いや、この車は貯金して、買ったんです!」

「女の趣味じゃないよ」


 絶対にプレゼントだよ。

 そんないやらしい匂いがする。


「あなたに趣味をどうこう言われたくはないです! ペドが!」

「ウィズ、大事な車だってさ。絶対に爪とぎしたらダメだよ」

「にゃ!!」


 うんうん。


「その猫、絶対に任せとけ!って言ったでしょ!! やったら殺すからね!!」


 怖いなー。


「怒ったら、しわが増えるよ?」

「いいから、はよ乗れ!!」


 はーい。


『よーし、ウィズ、シートにおしっこするんだよ』

『妾が嫌じゃい』





本日の成果


 小鬼の角    800円× 6個 = + 4800円

 コボルトの牙  1000円×14個 = +14000円

 骨       1500円×13個 = +19500円

 糸       1800円×34個 = +61200円


 計   +99500円       


 はるるんの所持金 14万9千円

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