第013話 私は天然ではない


 4階層にやってきた私達はスケルトンを探している。


「スケルトンがどこにいるかわかる?」


 私は鼻が良いらしいウィズに聞く。

 血の匂いには敏感だが、それ以外は普通の人間と変わらない。


「うーん、わからん。スケルトンって、どんな匂いだっけ?」

「私が知るわけないじゃん」


 私は犬でも猫でもなく、吸血鬼だ。


「出てくるモンスターが雑魚すぎるのも考えものねー。魔力が低すぎて感知できない」


 スライム、ゴブリン、コボルト、そして、スケルトン。

 どいつも雑魚だ。

 まあ、低階層なんだから仕方がないことではある。


「やはりもっと奥に行くべきじゃのう。他はどんなのがおるんじゃ?」


 私はウィズに言われて、携帯で調べてみる。


「うーん、次の階層以降はキャタピラー、人面ガエル、スコーピオンねー」

「いくらじゃ?」

「1800円、2000円、4000円かなー」

「スコーピオンで一気に上がったのう」

「毒があるからじゃない? ドロップ品がサソリの毒だってさ」


 でも、毒なんて何に使うの?


「あー、確かに供給は少なそうじゃのう。毒なんて食らったら、人間は下手したら死ぬし」


 当たり前だが、私やウィズに毒なんて効かない。

 むしろ、私は聖水に弱い。


「狙い目はここかな?」

「じゃのう。4000円は大きいな。ゴブリン5匹分じゃ」


 ゴブリンもスコーピオンも一撃だ。

 ならば、スコーピオンの方が良い。


「ここを目指しましょう」

「じゃなー。今日中に行けるかな?」

「遠いわねー。無理じゃない?」


 私は地図を見ながら答える。


「走れば行けるのでは?」

「それでも今日中は厳しいと思う。というか、私が走るわけないじゃん」


 めんどくさい。


「それもそうじゃな。地道に歩くか…………おぬしは走ると、コケそうじゃし」


 そんなドジっ子ではない…………と思う。


 しかし、よく考えたら、最近は走ることなんてしていない。

 いつも飛んでいたからだ。


「じゃあ、当面は7階層を目指すということで」


 私達は当面の目的地を決めたので、スケルトンを探すのを止め、階段を目指すことにした。


 階段を目指して歩いていると、前方からカタカタという聞き覚えのある音が聞こえてくる。


「おっ、この音はスケルトン君の音だね」

「まあ、人間の出す音じゃないし、それしかおらんじゃろう」


 私とウィズはその場で立ち止まり、スケルトン君の登場を待っていると、すぐに剣を持った骸骨が現れた。


「やっほー、元気ー?」


 私は一応、不死友達に挨拶をした。

 しかし、スケルトンは特に反応もせず、ゆっくりとこちらに接近する。


「ダメか…………」

「まあ、そうじゃろう」

「仕方がない。ハイウィンドー!」


 私は無詠唱で風魔法を使った。

 すると、スケルトンの足元から小さな竜巻が現れ、スケルトンの骨をバラバラにする。

 バラバラになったスケルトンは死に、ドロップ品である骨が残された。

 ドロップ品である骨はどこの部位かはわからないが、40センチくらいの1本の骨である。


「シュールじゃのう。骨が死んで、骨が残った」

「言ってることは当たり前だけどね」


 むしろ、骨が減った感じだ。


「それにしても、いつものかっこいい詠唱はどうした? しかも、弱っちい魔法じゃし」

「かわいそうじゃん」

「差別じゃなー」

「いや、ウィズだって、猫の魔物が出たら手心を加えるでしょ」

「別に妾は猫に思い入れはないんじゃが…………妾は魔族じゃし」


 というか、何で猫なの?

 意味わかんない。

 まあ、どうせ、カワイ子ちゃんぶってるんだろうな。

 少しは歳を考えなー。


「しかし、これが1500円かー。価格が変動するって言ってたし、持っておいて、高い時に売るのはどうかなー?」


 私は骨を拾い、画期的なアイデアを浮かんだので、ウィズに意見を求める。


「よほど値崩れしてない限り、売ってしまえばよかろう。たかが1500円だし、面倒じゃろ」


 確かに……

 というか、私のアイテムボックスに人骨を入れておきたくないな。


「じゃあ、今日、まとめて売ってしまうかー。よーし、次に行こう」

「おー」


 私は骨をアイテムボックスに入れると、再び、階段を目指す。

 今回は最初から地図とGPSを駆使しているため、迷わずに階段まで行けた。


「成果は?」

「13体倒したねー。値段は…………まあ、あとで」

「ふむ。じゃあ、行くか。えーっと、次はキャタピラーか。妾は知らんなー」


 ウィズはキャタピラーを知らないようだ。


「でっかい芋虫だよ。森の中にしかいないから知らないかもね」


 ウィズは魔王だし、森には行かないだろう。


「芋虫のう…………素材は糸かな」

「だねー。2000円の糸。たっけえー」


 誰が買うんだろ?


「まあ、売れるんだからいいじゃろ。行くか」

「ほい」


 私達は階段を降り、5階層に向かった。




 ◆◇◆




 5階層にやってきた私達は引き続き、携帯で地図を見ながら階段を探す。


「地味に遠いのう……」

「仕方ないよー」


 私はそう言うが、正直、飽きてきた。


 歩く、魔法を使う、歩く。

 これの繰り返しだ。


 楽しいと思う?


「にゃー」


 ん?


「急にどうしたの?」


 ウィズが急に猫ちゃんアピールをしてきたけど、そんなに猫ぶって可愛く見られたいのかな?

 もしかして、かまってほしいのかな?


 私は急に猫ぶったウィズを撫で、猫の首元をこちょこちょする。


「ほれー」

「ごろごろ」


 うーん、気持ちよさそうだ。


「よう、嬢ちゃん。お前さん、もうこんな所まで来てんのか?」


 後ろから聞いたことがある声が聞こえてくる。


 私が振り向くと、そこには西部劇に出てきそうなカウボーイっぽい男が立っていた。


 ロビンソンである。


『むむ。こやつが何故、5階層におるんじゃ? ≪早打ち≫は30階層を狩場にしておるというのに』


 解説をありがとう。


「ロビンソンだったかしら? いつぞやは指導をありがとう」


 私は一応、礼を言っておこうと思い、感謝を述べた。


「いや、3日前だろ。お前、ルーキーなんだから大人しく3階層までで鍛えろよ」

「我にそんなものは必要ない。ゴブリンもキャタピラーも大差ないわ」

「へー……まあいいけどよ。お前さん、さっき、猫としゃべってなかったか?」


 ぎくぅー。


「猫としゃべって何が悪い? ねー、ウィズ?」

「にゃー」


 私がウィズに話しかけると、ウィズは空気を読んでくれた。


「いや、声色が2つ聞こえたんだが……」

「貴様、猫がしゃべったとでも言うのか? 余計な詮索は良くないぞ!」


 女性を詮索してはいけないと習わなかったのかな?


『おぬし、あんましゃべるな…………』


 よくわからないが、ウィズが念話で呆れている。


「そうか? そう言うなら詮索はしねーわ。興味ねーし」


 じゃあ、しゃべんな、ばーか。


「そうしてー…………そういう貴様はこんな所で何をしているんだ? 貴様はもっと奥だろう?」

「なあ、そのしゃべり方で通すのか?」

「今さら変えたらダサいでしょ? こういうのは通さないと。あんただって、そうじゃん。そーんな、映画みたいな格好してさー」


 いい大人が何してんだ。


「引き下がれなくなった感じかなー。まあ、そう考えると、わかるなー。じゃあ、いいや」

「うんうん。じゃあ、最初から…………そういう貴様はこんな所で何をしているんだ? 貴様はもっと奥だろう?」

「依頼だよ。ここの糸を取ってこいっていう」


 依頼?

 そういえば、そんな制度があったな。


「わざわざあんたが? Bランクの上位ランカーでしょ?」


 ここ5階層だよ?

 暇なんか?


「いやー、依頼主がウチの娘なの。パパは断れないよ」


 こいつ、子持ちかよ。

 こんなパパは嫌だな…………


「それはご苦労様」

「お前さんはここで狩るのか?」

「目的地は7階層よ」

「7? あそこのスコーピオンは毒持ちだぜ? 死ぬぞ」


 やっぱ危険なのか……


「おあいにく様。我には毒など効かん」

「回復魔法持ちか? お前、ルーキーのくせに早くね?」


 むむ。

 怪しまれそうだ。


「ふん。我は貴様らと持って生まれたものが違うのだ。高貴だから。そう、我は高貴だから…………」


『苦しいのう……高貴の一本かー』


 うっさい。


「んん-、お前さん、もしかして、天然ものか?」

「おーーい! 誰が天然だ! そういう悪口は良くないぞ!!」


 学生時代、天然呼ばわりで、いっつも苦笑いされていた苦い記憶がよみがえるじゃないか!

 なーにが、沢口さんだもんね、しょうがないよ…………だ!


『トロい、どんくさい、鈍い、運動神経ゼロ、おつむも弱い。天然じゃろ』


 こいつ、三味線にしてやろうか…………


「いや、そういう意味じゃねーよ。ダンジョンに入る前から魔力を持ってるヤツが稀にいるんだ。そういうのを天然ものって呼んでんだよ」


 へー、そんなんいるんだ。

 まあ、乗っておこう。


「じゃあ、きっとそれね、高貴だから。我は高貴だから…………」

「まあ、それならこんなに早くここに来るのもわかるか……」


 そうそう。

 あんた、良いヤツねー。

 勝手に納得してくれるんだもん。


「まあ、歩くのが面倒だがな。貴様、いい方法を知らんか?」


 せっかくだし、ロビンソン先生に聞いてみよう。


「んー? 魔方陣のワープを使えよ」

「いや、我は7階層に行ったことがないのだ」


 だから歩いてんのよ!

 人の話、聞いてた?


「いや、行ったことあるヤツと一緒に行けよ」


 ん?


「何それ?」

「いや、魔方陣は複数人で飛べるから行ったことあるヤツと行けばいいじゃん」


 知らねーよ!


『ウィズ?』

『知らんかった……アトレイアのダンジョンに行ったことがあるが、妾は一人だったから……』


 ぼっちめ!

 ぼっち猫め!!


「なるほどね。良いことを聞いたわ。褒美に我をそこまでエスコートする名誉を授けよう」

「いや、いいけどよ。代わりにちょっと手伝ってくれ」

「はぁ? 何で我が?」


 我は王級吸血鬼だぞ。


「俺、芋虫が嫌いなんだ」


 娘のために頑張らんかい!

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