第010話 我にかなう者なし!
ダンジョンに再び戻ってきた私達は1階層を探索している。
そんな私達は……
「2階層への階段はどっちじゃ?」
「さあ? ってか、ここどこ?」
迷子になっていた……
「ん? おぬし、当てがあって歩いておったのではないのか?」
「え? 適当だけど……」
「いや、おぬし、アトレイアでダンジョンの経験はないのか?」
「あるわけないじゃーん。そんなところに女の子はいないんだよ?」
ラミアでも抱けって言うの?
あんな年増は嫌よ。
「マジか……一攫千金を夢見て、村を出たおのぼりさん状態じゃのう……」
「何それ?」
「よくある話なんじゃ。つまらない田舎暮らしが嫌で迷宮都市に行き、なーんも準備をせずにダンジョンに行って、死ぬ。定番すぎて吟遊詩人も詠わない」
お金欲しさに会社を辞め、探索者となり、最初の探索で何も準備をせずに迷子状態。
ふむ、確かに似ている……
「ちょっと調べてみるね」
私はそう言って、携帯を取り出す。
「いや、圏外じゃろ」
「んんー。あ、ネットに載ってる」
「載ってんの!? いや、そもそも電波が繋がるの!?」
繋がるんだからいいじゃん。
「えーっと…………いや、現在地がわかんないや」
「GPSでも使えばー? 妾は無理だと思うけどー」
なるほど。
賢い。
「おー! すごい! GPSをオンにしたら現在地までわかった!」
「なにそれ!?」
いや、ウィズが言ったんじゃん。
「文明の利器はすごいなー。しゅっぱーつ!」
「すごいのう…………」
ウィズ! 元気を出して!
私達は2階層に向けて、歩いていく。
「ハルカ、前方にスライムがおるぞ」
「わかるの?」
私は探知能力に優れている。
だが、スライム程度の魔力は低すぎるため、感知できないのだ。
「妾は猫だから匂いでわかる。さっき覚えたし」
魔法じゃなくて、猫の特性だったのか……
「よし! 500円!」
私がその場でスライムの登場を待っていると、ゲル状のスライムがのそりのそりと地面を這って現れた。
私は意気揚々と500円もといスライムと対峙する。
こっちに戻ってから初戦闘だ。
「さあ、来るがいい。この王級吸血鬼、ハルカ・エターナル・ゼロが相手をしてやろう!」
「おぬしはスライム相手に何を言っておるんじゃ?」
私の名乗りを聞いたスライムはさっきまではドロドロだったくせに、その場でぷにぷにと弾みだした。
「何をしてんのかな?」
「さあ? スライムの考えていることはわからん」
スライムはしばらく弾んでいたのだが、急にこちらに向けて突っ込んできた。
直後、腹部に鈍痛が走る。
「ぐえぇ……」
私は膝をつく。
クッ……やるな!
「えぇー…………」
ウィズが情けない声を出す。
「ふっふっふっ……やるではないか! だが、我には効かん!」
「いや、そうなんじゃろうが、『ぐえぇ……』って……」
私には何も聞こえなかった!
「勇者よ、そなたの素晴らしい攻撃の褒美として、我の魔法をくれてやろう! すべてを凍り付かせる究極の魔法だ! 食らうがいい! エターナルフォースブリザード!!」
私はスライムに手を向け、氷魔法を放つ。
すると、私の手から絶対零度の吹雪が現れ、スライムを凍り付かせた。
凍ったスライムは砕け散り、息絶えた。
「たかが、スライム相手にそんな魔法を使うなよ」
ウィズから苦言が飛んでくる。
「ふふふ、私の魔力は尽きないから問題ない」
私には3つのチート能力がある。
不死、無限魔力、快楽吸血だ。
「まあよいか。この調子で500円を貯めて、800円のところに行こうぞ」
「おー」
私達はスライムゼリーを拾うと、再び、地図を見ながら2階層を目指して歩いていく。
歩いていると、やはりスライムに遭遇する。
結果、2階層に向かう道中で、7つのスライムゼリーを手に入れることが出来た。
「ロビンソンに貰ったやつと合わせると、8つか……えーっと……はちご………………4000円ね」
「少ないのう…………計算、遅いのう」
うるさいな。
算数は苦手なのよ。
「やっぱり奥に行かないと儲けられないみたいね」
「4000円ではハルカの分の飯代までは賄えんのう」
自分優先!?
そういうのは良くないよ!
ファミリー! 私達はファミリー!!
「よーし、2階層へしゅっぱーつ!」
ざっざっざっざっ(ゲームで階段を降りる音)
私達は2階層へやってきた。
階段を降りると、横の方の地面に変な模様が描かれた絵がある。
「何あれ?」
「ワープの魔方陣じゃ。あれに乗れば、1階層に帰れるし、行ったことがある階層に飛べる」
「便利じゃん……ってか、1階層にそんなのあった?」
「あったぞ」
見てなかったな。
まあいいか。
「ところで、電波は?」
ウィズが聞いてくる。
「普通に入るねー。もちろんGPSも」
「まあ、便利と思えばいいか……」
そだよー。
私達は携帯で地図を見ながら2階層を探索する。
「宝箱とかないかな?」
「ダンジョンならあるじゃろ。こんな低階層にあるかは知らんが……」
うーん、ダンジョンといえば、宝箱だよね。
ロマン(欲)だよ!
そのまま歩いていると、前方に小さな影が見えてきた。
「むむ、何奴!!」
「ゴブリンじゃろ」
まあ、そうでしょうね。
「ゴブリンかー。女の敵め!」
ゴブリンは繁殖力の高いドスケベモンスターだ。
相手が人型なら種族関係なく襲い、繁殖する。
結論、死ね!
「ダンジョンのゴブリンは繁殖せんがな」
「そうなの?」
「こやつらはダンジョンが産んだモンスターじゃからのう」
ほーん。
まあいいか。
「やいやい、ゴブリン! 我こそは正義の吸血鬼、ハルカ・エターナル・ゼロなり! いざ、尋常に――――ブッ!」
ゴブリンは持っていた棍棒を投げてきた。
そして、棍棒は見事、私の顔に命中した。
「おのれ、卑怯者め! さすがは鬼畜の代名詞であるゴブリンだ!」
怒っちゃうぞー!
「不死も考えもんじゃのう……死なんからって、油断しまくり」
「ゆるさん! とこしえに眠る偉大なる夜の神よ! 夜の世界に逆らう愚か者に天罰を下したまえ!! 食らえ! ブラッディー、クリムゾン!!」
私が呪文を唱えると、私の全身から真紅の煙が現れ、その煙が一気にゴブリンを襲う。
そして、煙はゴブリンを通りすぎ、奥へと消えていった。
ゴブリンがいた場所には、誰もおらず、ただ、ドロップ品のみが落ちていた。
「フハハハハハ!! 我に逆らう者はこうなるのだ!!」
「無駄じゃのう……実に魔力がもったいないのう…………ゴブリンなんか、普通のファイヤーボールで十分じゃぞ?」
残念ながらそんなダサい魔法は知らない。
「さて、行こ。今日はゴブリン10匹が目標ね」
「10匹か…………計算が楽だしな」
いや、キリのいい数字だから…………
「行くぞー」
「おー」
私達は探索を続ける。
この階層は1階層のスライムよりも多くの数のゴブリンが現れた。
そのため、目標だった10匹を大幅に上回り、20匹も倒すことが出来た。
「うーん、500円が8個でー……800円が20個でー…………4000…………16……………………ぴったし2万円か」
「おー、当たっておる! すごいぞー」
ウィズが若干、棒読みっぽく褒めてきた。
「まあね! 算数は得意なの!」
能ある鷹は爪を隠すとやらよ!
「しかし、半日で2万かー。こりゃあ、ぼろ儲けじゃの」
今は夕方の4時だ。
だいたい4時間くらいはダンジョンに潜っていたと思う。
それで2万円なのだ。
時給…………5000円である。
「これは皆が探索者を目指すわけよねー。こんな簡単にお金が手に入るんだもん」
「まあ、おぬしが人間だったらゴブリンに殺されていたと思うがな」
あれは武器を投げるゴブリンがズルい。
武器は戦士の誇りって知らないのかな?
「よーし、帰ろっか」
「じゃのう」
私達は帰ることにし、2階層階段近くの魔方陣に向かった。
「これ、どうやって使うの?」
私は魔方陣のところまで来たが、使い方がわからない。
教えておけよ、≪早漏≫のロビンソン!!
「乗って、頭の中で指定の階層を思い浮かべればいいぞ」
ふむ、やってみよう。
私は魔方陣の真ん中に立った。
もちろん、ウィズもついてくる。
「さあ、神の力よ!! 我に示すが――――
ヒュン!
目の前が一瞬、明るくなったと思ったら、おそらく1階層らしき場所に転移していた。
「……空気を読んでほしいわー」
「まあ、そういうもんじゃし」
テンションが下がっちゃうね……
私はちょっと落ち込みながら階段を上り、ギルドへと戻ってきた。
ギルドに戻ると、お爺さんに吸血丸を預かってもらい、受付へと向かう。
「おかえりなさい。どうでした?」
「まあ、そこそこね。じゃあこれ」
私はアイテムボックスからドロップ品を取り出し、本日の成果を渡す。
「おー! いっぱいですねー。全部、買い取りでいいですか?」
「お願い」
「えーっと……お! ちょうど2万円ですねー」
計算が速い!
さすがは本職!
「現金でちょうだい」
「わかりましたー。しかし、初日でこれはすごいですねー。これでしたら、そのうち、もっと稼げますよ。頑張ってください」
我が野望が見えてきたな……
「今日一緒だった他の人達は?」
「皆さん、お帰りになってますよ。まあ、初日なので感覚を掴みに来たって感じです」
「なるほどねー」
ふむふむ。
やはり最初はそんなもんか……
「あのー、ハルカさんはパーティーを組まれないんですか?」
「何? いい感じのロリでも紹介してくれんの?」
「いや、それはちょっと…………」
話にならんな。
「何でパーティーを勧めるの?」
「いやー、今日の新人で若い子達がいたじゃないですか?」
「女子3人組?」
「その人達もなんですが、ほら、4人組がいたじゃないですか?」
いたね。
確か、男女2人ずつだったかな?
「その子達がどうかしたの?」
「あの人達、まだ高校生なんですよー……ちょっと心配で……」
若いとは思っていたが、高校生だったのか……
「高校生かー…………微妙。ちょっと成長しすぎかなー」
「えー……そっちですかー…………ってか、ストライクゾーンが狭すぎじゃないですか?」
私はローボールヒッターなのだよ。
「というか、高校生が探索者になれるの?」
「はい。未成年の場合は親の同意書があればなれます」
「ふーん」
「基本、ギルドは探索者については放置なんですが、さすがに、高校生ですと……」
まあ、何かあれば、外聞が悪いかもしれない。
「それで、私にそいつらと組めと?」
「まあ、はい。一応、同期ですし、女性の方が良いかと思って…………」
「パス! 女子はともかく男子はないわ! 男子2人が死んだら言って。その後、味見して決めるわ」
何が悲しくて男子高校生とかいうサルと組まなきゃならないのよ。
ないない。
「ですかー……わかりましたー。他の手を考えてみます。あのー……本当に捕まらないでくださいね」
「そんなヘマはしないわよ。私を誰だと思ってるの?」
「≪少女喰らい≫ですかー? 嫌な二つ名ですねー。私、ハルカさんと同い年でよかったですよ」
同い年か……
ということは、この人は24歳……
「あなた、妹はいないの? それとも娘が出来る予定は?」
「妹はいませんし、子供が出来る予定もないです。というか、いても紹介しません。怖いので……」
「あなたは顔の造形が悪くないんだから早めに娘を産むことね。私も鬼じゃないから3歳までは我慢するわ」
(吸血)鬼だけど。
「3歳って…………ひえっ…………こわー。ハルカさん、保育士とかベビーシッターとかにならないでくださいね」
キミドリちゃんがめっちゃ怯えだした。
「昔はそう考えてたんだけど、男もいるのがねー」
邪魔ですわ。
「やっぱり早く捕まってください…………」
この前、捕まりかけたけどね。
「あーあ、どっかに合法ロリとかいないかなー」
「私の目の前にいますよ。違法ペドロリ女が……」
こいつ、縮まないかな?
そしたら従順な眷属にしてあげるのに。
まあいいや、かーえろ。
私は帰りはちゃんと電車で帰ることにし、探索者初日を終えた。
◆◇◆
コンコン……
薄暗い部屋に扉を叩くノックの音が響いた。
「入りたまえ」
ノックの音を聞いた部屋の主は入室を許可する。
「失礼します」
入室してきたのは黒髪の女性である。
「どうだった?」
部屋の主は挨拶もせずに、女に用件を尋ねた。
「初日にもかかわらず、ゴブリンを20匹分の素材を持ち帰りました。そして、武器屋の話では武器を使った形跡がないそうです」
「そうか…………魔法だな」
「おそらくは……登録に来た際も妙な魔法を使い、影に謎の存在を隠していましたし、魔法が使えるのは確実でしょう」
「ふむ」
男は手を顎に付き、考える。
「人間性は?」
「一言で言えば、ペド女です」
「ん?」
男は聞き間違えかと思い、聞き返した。
「ペド女です」
「んー? ペドってペドフィリア?」
男は動揺している。
「そうです。しかも、あれは常習犯というか、捕まってないだけで、アウトな存在です」
「そ、そうか…………そうなのか…………」
男は頭の中を必死に整理している。
「二つ名は≪少女喰らい≫だそうです」
「んんー? ≪少女喰らい≫? ≪冷徹≫ではなく? エターナル・ゼロではないのか?」
「ハルカ・エターナル・ゼロだそうです」
「…………うーん、もう一度、特徴を言ってくれ」
男は予想が外れたようで、悩みながらもう一度、黒髪の女性に尋ねる。
「はい。赤い目をした金髪の女です」
「ふむふむ」
男は頷く。
「それと小さいです」
頷きが止まる。
「え? 大人の女性って感じじゃなかった?」
「いえ、どう見ても子供です。ただ、年齢は私と同じ24歳です。車の免許証に書いてありましたし」
「え? 子供? 車の免許証? どういうこと?」
「長官。それは私が聞きたいです」
「……………………」
男は沈黙してしまった。
「一度、会いたいな」
男は長らく沈黙していたが、ふいに口を開く。
「長官は娘さんとかいらっしゃいますか?」
「いや、息子はいるが、娘はおらんな」
「じゃあ、大丈夫でしょう」
「何が!?」
「時を見て、先方に伺ってみます」
「いや、何が!?」
「それでは失礼しました」
女は一礼をすると、踵をかえし、部屋を退室する。
「おーい」
女は男の問いを無視して退室してしまった。
「うーん、真祖の吸血鬼、≪冷徹≫のエターナル・ゼロ…………何百年もの間、夜の世界を支配した王級吸血鬼…………ペドだったのか? あんなにかっこつけてたのに?」
男は納得がいかずに、ずっと首を傾げ続けた…………
本日の成果
武器代 -3万円
スライムゼリー 500円× 8個 = + 4000円
小鬼の角 800円×20個 = +16000円
計 -1万円
はるるんの所持金 8万5千円
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