第009話 今日から私は探索者!


 武器を選んだ私達は武器屋を出ると、ロビンソンについていき、奥の部屋に入った。

 その部屋には下へ降りる階段だけがあった。


「おめーら、ここがダンジョンの入口だ。この階段を降りれば、ダンジョンとなる。説明はもういいな。じゃあ、行くぞ」


 早くない?


「せんせー、防具はー?」


 またもや、大学生っぽい女子が質問する。


「せんせーはよせ。そんな柄じゃねーよ。防具はいらねーな。今日は1階層のスライムを相手にする。攻撃を食らえば痛いが、死にはしねーから安心しろ。というか、防具までを無料で貸し出す金はねーんだ。怖かったら戻って借りてこい。有料だがな」


 防具とかダサいし、絶対に借りない。

 というか、私は不死だから死なんし。


 他の皆も顔を見合わせるが、借りに行く人はいない。

 皆、お金がないんだね…………


「もう質問はないなー。防具は買ったほうがいいが、まずは安全な低階層で稼いでからにしろ。その辺の情報はネットにもあるし、勉強すること。まあ、最初は動きやすい格好にすればいいんじゃね? あー……………………ドレスはー……まあいいか」


 ロビンソンは律儀に補足説明をしていたが、私を見て、悩んだ。

 しかし、結局、何も言わなかった。


『皆、ジャージとか動きやすい格好なのに、おぬしだけ背中がざっくりなドレスじゃな。めっちゃ浮いておる』


 こだわり、こだわり。


『持ってくるのを忘れただけじゃろうに……』


 とはいえ、もう引き下がれない……

 これで明日、ジャージを着てきたらダサすぎるでしょ。

 もう、この高貴な吸血鬼キャラで通そう。


「じゃあ、行くぞ。1階層はそんなに危なくないが、俺から離れるなよ」


 ロビンソンはかっこつけて、そう言い、階段を降りていく。


『ランカーって、皆、あんな感じなの?』


 私はキャラを仕上げているロビンソンの後ろ姿を見ながらウィズに念話で聞く。


『まあ、≪早打ち≫はまだマシな方じゃの。妾の推しの≪ダークマター≫はめっちゃすごいぞ』


 ウィズ……

 もう完全に≪ダークマター≫とやらのファンになってんじゃん……


 私はウィズのこの世界への染まり方の早さに呆れながら階段を降りていった。




 ◆◇◆




 ダンジョンに降りた私達を待っていたのは、ただのレンガが積まれた通路だった。


「ここがダンジョンだー。特に説明することはないが、まず、これを渡しておく」


 ロビンソンはそう言って、私達一人一人に紙を渡してくる。


 私は受け取った紙を見る。



  スライム → スライムゼリー(500円)

  ゴブリン → 小鬼の角(800円)

  コボルト → コボルトの牙(1000円)



 何これ?


「これは1階層から3階層で出てくるモンスターとそのドロップ品だ。あ、買取価格も書いてあるぞ。武器も防具もない初心者はこの辺で稼ぎ、鍛えるのが通例だ。今回は1階層だからスライムだな」


 500円かー。

 スライムは雑魚いから仕方ないけど、やっすー……


「なあ、ポーションとかがドロップするって聞いてたんだが……」


 私が買取の安さに嘆いていると、ガラの悪そうな男が質問する。


「あー、そういうのはレアドロップって言うんだ。ポーションだったり、武器だったり、様々な物を落とす。確率は低いが、良いものだし、買取価格も高いから稼ぎになるぜ」


 ロビンソンは誰であろうと、差別せずにちゃんと質問には答えるようだ。


「へっへっへ、そうかい!」


 ガラ悪いなー。

 まあ、ロビンソンもどちらかというと悪いけど……


「さーて、まずは見本を見せてやる。ついてきな」


 ロビンソンはそう言って、奥に歩いていったため、私達も続く。

 しばらく歩いていると、どう見てもスライムらしきモンスターが見えてきた。


『スライムじゃのう』

『スライムだねー』


 私とウィズは同時に念話でつぶやいた。


 透明なゲル状のモンスター。

 アトレイアにいるスライムとまったく一緒。


「おめーら、あれがスライムだ。説明はない。見ての通りだな」


 全員、わかっているようで、質問はない。

 まあ、アトレイアにいなくても、ゲームや漫画に出てくるため、皆、わかっているだろう。


「見ておけよー……ハッ!」


 ロビンソンは腰にある銃で早打ちをする。

 すると、スライムはあっという間に煙となって消えた。


「は、はえー!」

「全然見えなかった……」

「さすが……」


 皆が感嘆している。


 ふむ、私も見えんかったね……


『見たか!? すごく速かったな! 人間とは思えん!』


 探索者大好きなウィズが興奮している。


『ええ……とても速かったわ。私じゃなきゃ見逃してるわね……』


 見えんかった……


『かっこいいのう! かっこいいのう!』


 興奮するのはいいけど、腕の中で暴れないでくれる?


「とまあ、こんな感じだ。おめーらは銃じゃないから参考にはならんだろうが、こうやって倒す。そして、ドロップ品だ」


 ロビンソンは自慢げにそう言うと、ドロップ品を拾う。


「これがスライムゼリー。用途は様々だが、主にクッションなんかの素材に使われる。ほれ、やる」


 ロビンソンはそう言い、私にスライムゼリーをくれる。


「ありがと」


 500円だけど、一応、礼は言っておこう。


「次は魔法だ。見ておけー……ハッ!」


 ロビンソンが通路の奥に手をかざすと、手のひらから火の玉が現れ、飛んでいった。


「これが魔法だ。色んなのがあるらしいが、俺はこれと回復魔法しか使えない。まあ、銃がメインだから別に要らないんだがな。魔法はモンスターを倒していくと、ある日使えるようになる。意味わからんが、何となく使えそう……ってなるんだ。理由は聞くな。俺も知らねー」


『魔力を持つモンスターを倒すことで、魔力を吸収し、体に魔力が貯まる。それが力や魔法力になるんじゃ。勉強不足じゃぞ、≪早打ち≫』


 ふーん、私も知らね。


『ある日使えるようになるって言ってたけど?』


 ついでにウィズ先生に聞いておこう。


『アトレイアでは魔導書があるし、そこから学ぶのが普通じゃ。こっちの世界はおそらくイメージじゃろ。この世界は創作物の影響で、ある意味では魔法が身近じゃ。頭の片隅にあるそのイメージで魔法を使えるようになるんじゃろ。多分な』


 イミフ……

 まあ、いいや。

 私の魔法はかっこいいし、強い。

 ただ、それだけだ……ふっ。


「さて、講習は以上だ。全員合格!」


 私達、何もしていないのに合格になっちゃったよ……


「いいんですかー?」


 大学生女子が聞く。


「基本的に誰でも受かるようになってんだよ。ギルド的には探索者の数を増やしたいんだそうだ。というわけで、全員合格! あとは勝手にしな。あ、ただし、2階層には行くな。どうしても行きたかったら一回戻って、受付で探索者カードを貰ってからにしろ。これは規則だからなー」


 ふむ、どうしようかな?


「あのー、私達、自信ないんですけどー……」


 大学生女子3人組が顔を見合わせながら言う。


「あー…………まあ、しゃーないか。おめーらはもうちょっと指導してやる。他に希望者はいねーかー?」


 ロビンソンがそう言うと、若そうな4人組と数人が手を挙げる。


「多いなー……まあ、仕事だし、やるかね。おめーらはいいのか?」


 ロビンソンは手を挙げなかったガラの悪そうな3人組にも聞く。


「俺らは争いごとには慣れてるからよ。問題ねーよ」


 きゃー、物騒!


「おめーは?」


 ロビンソンは私にも聞いてくる。


「いらぬ。我は孤高がゆえに群れない」


 かっこよくない?


「そうか…………まあ、気を付けな。じゃあ、おめーらは俺についてこい!」


 ロビンソンはあっさりと納得し、奥に向かっていく。


 ロビンソンに指導を頼んだ大学生女子は私のことを心配するような目で見ていたが、ロビンソンについていった。

 また、ロビンソンに指導を頼まなかったソロの人達も散らばっていく。


 この場に残っているのは、私とガラの悪そうな3人組だけだ。


「おい、嬢ちゃん。本当に一人で大丈夫なのか?」


 ガラの悪そうな3人組の1人が聞いてくる。


「気にする必要はない」

「そうかい。まあ、自己責任らしいからな。俺達も行くぜ。じゃあ、またどこかで」


 あれ?

 ここで絡んでくるんじゃないの?


『つまらんのう……ここは子供のくる所じゃねーぜ、げへへを待っていたのに……』


 まあ、私もちょっとは期待していた。


「もうしゃべってもいいわよ」

「そうか? ひとまずは探索者になれたのう」


 めっちゃ簡単にね。

 もうちょっと苦労するかと思っていたんだけど……

 まあ、楽なら楽でいいか。


「これからスタートね」

「ああ。で? どうする?」

「一回、戻りましょう。探索者カードとやらを貰うわ」


 私は一度、受付に戻ることにした。


 階段を上がり、ギルドに戻ると、まっすぐに受付に向かう。


「あれ? もう戻ってきたんですか?」


 私を見たキミドリちゃんが驚いたような声をあげる。


「ロビンソンが適当だった」


 私は実技試験の内容を一言で伝えた。


「あの人はホントに…………まあ、いいです。じゃあ、ハルカさんの探索者カードを渡します」


 キミドリちゃんはそう言って、私にカードを渡す。

 カードは運転免許証と変わらないサイズだ。



  名 前   : ハルカ・エターナル・ゼロ

  二つ名   : 少女喰らい

  パーティー : なし

  ランク   : E

  順 位   : -

 

 

 うーむ、Eか。

 まあ、ルーキーだし、仕方がない。


「順位が書いてないけど?」


 棒線だけだ。


「100位以内にならないと表示されません」


 へー。

 ってか、このカードは何?


「順位はどうしてるの?」

「持ち帰ってくる素材や依頼の達成度などで点数をつけて、決めています。アドバイスはできますが、具体的な点数は言えません」

「ランクは?」

「ランクは試験があるんですよ。ただ、ランクが上がると、10位以内から外れますので、わざと試験を受けない人も多いですね。Aランクで圏外より、Bランクで10位以内の方が名前が公表されますので、目立ちますし」


 なるほどね。

 気持ちはわかる。


「わかった。ありがと」

「一度、戻ってきたということは2階層に行かれるんですか?」

「500円はちょっとね」


 他もたいして変わらないけど。


「あー、なるほど。2階層はゴブリンになりますので、ご注意ください。あ、素材についてですが、基本的にはこちらにご提出ください。他所で買取してもかまいませんが、面倒なのでおすすめしません」

「そうなの?」

「悪徳な店が横行しているんですよ。その点、ウチはクリーンがモットーですので」


 クリーンとは思えないが、面倒だし、ここでいいか。


「わかったわ。じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃいませー」


 私はキミドリちゃんに手を振られながらダンジョンに向かった。

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