第007話 試験はバッチリ!
「それでは試験を開始します。どうぞ」
受付嬢はそう言い、ストップウォッチを押した。
これから筆記試験を行うのだ。
私は配られた問題用紙を見る。
ふむふむ…………
いや、わかんねー……
どこが、難しくないの?
問題はダンジョンについてやダンジョンに関係する法律の問題ばかりだ。
そりゃあ、数学や英語の問題が出るとは思ってないけど、法律なんか知らんし、ダンジョンについても知らないよー。
4択の選択問題だが、80点以上を取らないといけないらしい。
ダメだこりゃ。
無念…………
『最初の問題はBじゃぞ』
うぃ、ウィズ……!
持つべきものはファミリー!!
私は第1問をBと書く。
『第2問は?』
『これもB』
ウィズはすごいなー。
私が寝ていた1週間の間に勉強してたんだー。
『いや、そこの受付嬢が答えを持っておる。それを透視魔法で覗いているだけじゃ』
えー……
カンニングじゃん。
『魔法でカンニングすると言っておったではないか』
まあねー。
私は顔を上げて、受付嬢を見る。
確かに、受付嬢は解答用紙と思われる紙を持っている。
「どうしました?」
いきなり顔を上げたので、受付嬢と目が合ってしまった。
「いえ、これってどれくらいの人が落ちるんです?」
「あまりいませんねー。ぶっちゃけ、問題も答えもネットに出回っていますし、試験代も安くはないですからね。皆さん、きちんと覚えてきますよ」
5万円だもんね。
「それでいいんですか?」
ダメじゃね?
試験の意味ないじゃん。
「まあ、一応、法律やダンジョンの事を覚えてきていただければ、それでいいので…………」
あとは自己責任か……
「わかったー」
私は引き続き、ウィズの透視で問題を解いていく。
そして、答えを書き終えたので、受付嬢に提出する。
「はい。お疲れ様でした。ちょっと待ってくださいね」
受付嬢はその場で持っていた用紙と私の用紙を見比べ始めた。
この場でやるのか…………
『手っ取り早くて良いではないか』
まあねー。
「はい。結構です。すごいですねー。100点ですよ!」
そらね……
「次は面接になります。私が質問しますので、正直に答えてくださいねー」
このままするんだ…………
なんか、緊張感がないなー。
「はーい」
『おぬしも緊張感ゼロじゃろ』
だって、この人、軽いんだもん。
「えーと、まず、どうして探索者になろうと思ったんですか?」
受付嬢が面接っぽくない軽い口調で聞いてくる。
「お金ー」
「まあ、そうですよね。実入りがいいですもんね」
だよね。
「次にダンジョン内で困っている人がいたらどうしますか?」
「自己責任じゃないの? そんなの知らなーい」
少女なら助ける。
そして…………
「ですね。ちなみに、女性探索者を嵌めるための罠という可能性もあるので、極力、無視してくださいね」
答えを言ってるし……
その後も面接という名の質問タイムが続いていく。
しかし、面接っぽくないなー。
「最後にですが、犯罪歴はありますか?」
「犯罪? どっからどこまでー?」
誰だって、信号無視くらいはするだろう。
「えーと、警察の御厄介になったことはありますか?」
「うーん、何度もあるねー」
私は隠さずに正直に答える。
「え!? 何をしたんですか?」
「うーん、学生の頃に不審者で通報されたことが何回か…………」
『おぬしは何をしてるんじゃ…………いや、言わなくていいぞ』
ウィズが呆れた感じで聞いてきたが、予想がついたらしい。
「あのー、不審者って…………通報されるようには見えませんが…………」
むしろ、私は通報する側だろう。
「いや、小学校で張ってたら捕まったー」
「小学校って……………………え? ≪少女喰らい≫ってそれ?」
それ。
「でも、注意だけだから逮捕はされてないよ。高校の時だし」
大学になったらナンパは辞めて、ネットで活動していたし。
「えー…………小学生が好きなんですか? 確かに絵面的にはまあ、わからないでもないですけど…………ん? 少女喰らい? 少女? え? 女子?」
「あなたはちょっと年齢を重ねすぎね。不合格だわー」
『これは落ちたな……』
ウィズからやれやれ感が伝わってくる。
「あのー、人様の趣味に首は突っ込みませんが、やめたほうがいいですよ。最近はうるさいですし」
「あなたは真のユートピアを知らないのね…………かわいそうに」
「えー………………まあ、いっかー。別に探索者に少女がいるわけでもないし」
いないの!?
『いるわけないじゃろ……』
がびーん!
「じゃあ、面接は以上です。一応、合格にしますが、本当にやめてくださいね。少なくとも、捕まらないでください。もし、捕まってもギルドは一切関係ありませんから」
軽いなー。
『受かっちゃったぞ、おい! ギルドとやらはどうなっておるんじゃ!』
知らなーい。
「ん? 合格? 実技試験は?」
あるんじゃなかったっけ?
「あー、実技は合同です。というか、実技試験という名の初心者講習ですよ。そこで基本的なことを先輩探索者から教えてもらうんです。落ちる人はあまりいませんねー」
この試験の概要がなんとなくだが、わかった。
筆記試験も面接も実技試験も落とす気のない試験だ。
試験をやったという体なのだろう。
「落ちる人もいるんだ?」
初心者講習で落ちる人っていなくない?
「実技試験はモンスターと戦います。いざ実戦になると、動けない人が一定数いるんですよ。もしくは、その場でケガをしたり、運が悪いと……その、まあ、お亡くなりに……」
まあ、どんなモンスターかは知らないけど、死ぬヤツは死ぬだろう。
「死ぬんだ? その先輩探索者とやらは何をしてるの?」
ちゃんとやれ。
「いくら指導する探索者がちゃんとしていても、武器を持ったり、調子に乗ったりと、テンションが上がって勝手なことをする方がいるんですよ。そういう方はまあ…………」
ガキかな?
「ふーん。まあ、そんなヤツらはどうでもいいわね」
慎重な私には関係のないことだろう。
「いやー、あなたはそういう人にものすごく絡まれそうですよ。なんかテンプレのハゲ、デブ、チビの3人組に『ここは子供のくる所じゃねーぜ、げへへ』的な……」
受付嬢は『ここは子供のくる所じゃねーぜ、げへへ』のところを低い声で言った。
本当に軽い人だな。
「ちなみにだけど、その場合はどうするのが正解?」
「近くのギルド職員に言ってください。注意します」
注意って……
ダメだ、こりゃ。
まあ、どうとでもなるか。
「実際、探索者同士の争いはどうなの?」
「もちろん、禁止です。私が見てない所でやってください」
ダメだ、こりゃ。
「まあ、わかったー。実技はいつ?」
「毎週金曜日にやっていますので、明後日ですね」
うーん、明日が暇になっちゃった。
まあ、寝るか……
『妾はゲームがしたい』
じゃあ、積んでたゾンビゲームでもするかなー。
「じゃあ、明後日に来ます」
「お待ちしております。あなた方の活躍と合格をお祈りします」
◆◇◆
「あ、死んだ」
「まさかゾンビが走ってくるとはのう」
「びっくりするよ、もう!」
筆記試験と面接を終えた翌日、私は予告通り、家でゾンビゲームをしていた。
私の操作キャラが死んでしまったのでコンティニューし、少し前から再開する。
「のう、おぬし、昨日の面接で何故、正直に答えた?」
警察や趣味のことかな?
「正直にって、言ってたじゃーん。それに補導歴は調べればわかることだし」
「おぬしは正直に言うつもりだったか?」
まあ、気になるよね。
「まさかー。趣味まで言うつもりはなかったよ」
でも、言った。
「何故言った?」
「そういう魔法をかけられたから」
嘘を言えなくなる魔法はアトレイアにもある。
よく王族が使っている魔法だ。
「やはりのう…………あの受付嬢はただものではないな」
「まあ、レジストも出来たけど、やめといた方がいいと思ってねー」
「それがよかろう。疑われると面倒じゃし」
ウィズがうんうんと頷いている。
「まあ、それは手遅れかなー」
「何でじゃ?」
「帰る時に『あなた方の活躍と合格をお祈りします』って言われたし」
あなた方…………
あの場には私しかいなかったのにね。
「妾の存在に感づいたのか?」
「ウィズは魔力を消してたけど、存在は消してなかったでしょ。あのレベルの魔法を使えるメイジは感づくでしょー」
「うーむ、失敗」
「ウィズは私と違って、隠れるような生き方をしてないし、しょうがないよ。まあ、どうでもいいしね」
実際、悪意は感じなかったし、軽い人だから問題はないだろう。
「うーむ」
ウィズは何かを考えている。
「上から睨まれるかもだけど、些細なことでしょ」
「いや、ペド女の時点で睨まれるのは確定じゃろ」
「ペド言うな」
私は綺麗な花に群がる蝶。
蜜をちゅーちゅー。
「キモ……」
ウィズが呆れた目をしてつぶやく。
「うっさいわね。とりあえず、明日で試験は終わるから、稼ぐわよ」
「そうじゃのう…………この狭い家も飽きてきたし、早くもっと広い家に引っ越そうぞ」
「狭い言うなし」
「ところで、吸血はいいのか?」
あ、忘れてた……
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