第168話 やっぱり人類のために≪教授≫は殺そう
本部長に協会に呼び出された俺はちーちゃんと話し合い、一応、≪魔女の森≫の方針を決めた。
俺とちーちゃんは家を出て、協会に向かう。
そして、協会に着き、中に入ると、いつもように、たくさんのエクスプローラがいた。
どうやら、協会の閉鎖はしていないようだ。
ロビーにいるエクスプローラ達はざわざわと騒がしくしているが、俺が中に入り、マイちんの所に行こうとすると、俺に気づいたらしく、俺とちーちゃんに注目してきた。
「何、見てんだ? 死ぬか、おい!」
俺はガンをくれるボケどもを睨む。
「あんた、シズルがいないと、チンピラになるのやめてよ」
チッ!
しかし、こいつら、まったく目を逸らさんな。
「何、こいつら? マジで死にたいん?」
「あんたが強欲な小娘さんだからじゃない?」
うーむ、やはり特定されたか…………
「よし! 誰か殴ろう」
「勝手にしな。あたしはもう知らない」
「やめてください」
俺が一人、二人殴ろうとすると、協会の職員が止めてきた。
よく見ると、いつぞやのかわいい女職員さんだ。
「本部長は? 呼ばれて来たんですけど」
「こちらです」
職員さんが歩いていくので、俺とちーちゃんはついていく。
職員さんは2階に上がると、いつも使っている応接室を通りすぎ、奥の部屋に行く。
「奥? 応接室じゃないの?」
俺は前を歩く職員さんに聞く。
「今日は大勢いらっしゃいますので、広い会議室をご用意しました」
職員さんはこちらを振り向き、優しい笑顔で答えた。
かわいい人だねー。
癒されちゃう。
『お前、親父さんが言うように、本当にこういう女が好きだな。二股とかはやめろよ』
しねーよ。
なんか怖いわ。
清廉潔白で有名な俺は気を引き締め、ついていく。
職員さんが奥の部屋の前で、立ち止まると、扉をノックする。
「本部長、神条さんと斎藤さんがお見えになりました」
お見えになったよー。
「入れ」
えらっそうに!
本部長のくせに、何様だ!
俺がイラッとしていると、職員さんが扉を開け、俺達に部屋の中に入るように促す。
「どうもでーす」
「ありがとうございました」
俺とちーちゃんが職員さんにお礼を言うと、職員さんはニコッと笑い、頭を下げた。
マジで、いい人!
「あたしは何も見なかったことにするよ」
「うっせ」
俺は余計なことを言うちーちゃんを黙らせ、部屋に入る。
部屋に入ると、そこにいたのは本部長、≪Mr.ジャスティス≫、そして、≪Mr.ジャスティス≫の手下であるおっさんAだけだった。
「少なっ! 10分前だぜ?」
俺は部屋の壁に備え付けてる時計を見ながら言う。
「お前が遅刻しなかったのが驚きだ」
本部長が首を振りながら言った。
いや、何で皆、俺が遅刻するイメージを持ってるんだ?
俺、遅刻しないよ?
「チッ! 社会人としての自覚もなければ、人間としてのマナーもねーな。マジでゴミ共だわ」
「ゴミは貴様だ。勝手に報酬を決めおって……」
おっさんAが俺を睨む。
「何、お前? 俺が女のままがいいのか? ドスケベめ!」
「このクソガキ……!」
「落ち着け。一応、ルミナ君のおかげで10階層減ったんだからいいだろ」
そうだ、そうだ!
いやー、≪Mr.ジャスティス≫は人間が出来てるわ。
さすがはオーダーの聖騎士さまだ。
「いいから座れ」
本部長が俺達に座るように促す。
この部屋は長机が置いてあり、複数人が対面で並ぶように椅子が置いてある。
よくアニメや漫画で出てくる悪い組織の会議みたいだ。
そして、特等席であるお誕生日席には本部長が座っている。
また、≪Mr.ジャスティス≫とおっさんAは本部長近くの席に並んで座っている。
「どこに座ればいいんだ?」
「どこでもいい」
「じゃあ、この辺で」
俺達は≪Mr.ジャスティス≫達とは違う列であり、本部長から一番離れた端っこに座る。
「遠くない?」
≪Mr.ジャスティス≫が離れた席に座った俺達に聞いてくる。
「お前らの俺やちーちゃんを見る目がいやらしいから」
「ひど。誤解だよ」
いーや、見てる。
怖いわー。
「あたしを巻き込まないでくれる?」
ちーちゃんが冷ややかな目で俺を見る。
「まあ、俺らは学生だから謙虚に端っこにいようぜ」
「謙虚? 強欲な小娘さんのくせに?」
まだ言うか、このサイドテールは……
俺達が他のヤツらが来るのを待っていると、5分前には続々とやってきた。
最初に来たのはサエコとショウコだ。
サエコは予想通り、ショウコを連れてきた。
まあ、≪ヴァルキリーズ≫を運営しているのはショウコだし、当然の選択だろう。
次に来たのは≪教授≫とクーフーリンだ。
この2人は同行人を連れて来なかったようだ。
てっきり、ハヤト君を連れてくるかと思ったのに。
その次に来たのは、あきちゃんとキララだ。
こいつらは5分遅刻した。
遅れたことを謝っているキララとは対称的にあきちゃんはふんぞり返っている。
実にダメな人間である。
「全員、揃ったな」
あきちゃんがやって来て、座ったところで本部長が切り出した。
「ユリコが来てねーぞ」
俺はいくらユリコでも無視はかわいそうだろうと思い、本部長に言う。
「あのアホはアメリカに飛び立った。もう知らん!」
本部長は頭にきているようで、机をドンっと叩く。
こら、物に当たるんじゃない!
俺の正面に座っているあきちゃんがビクッとしたじゃないか!
ちなみに、右列はサエコ、ショウコ、クーフーリン、俺、ちーちゃんの順番で座り、左列は≪Mr.ジャスティス≫、おっさんA、≪教授≫、あきちゃん、キララの順番で座っている。
「アメリカ? もしかして、あの女を追って行ったのかな?」
ユリコの餌食になり、俺のスカートを脱がそうとした変態女だ。
「知らん。あいつはこういう時になると、必ず、いなくなる。こういう時にしか役に立たんくせに!」
辛辣だが、まったくもってその通り。
「まあまあ。とにかく、全員揃ったんですから始めましょうよ」
≪Mr.ジャスティス≫が本部長を宥める。
「ああ、そうだな。じゃあ、始める。まず、全員、昨日の声は聞いているな? もしくは、把握しているな?」
本部長の問いに全員が頷く。
まあ、当然だ。
こんなビッグニュースを把握していないエクスプローラはいないだろう。
「よろしい。早速だが、お前達に要請だ。1ヶ月以内に50階層を攻略してほしい」
そうだろうな。
これについては、誰も予想していたようで、特に異論は出ない。
「俺のおかげで50階層になったんだぞー」
俺がまず自分の優位性をアピールする。
「ルミナ君はよくあんなのに要求できるね? バカじゃないの?」
あきちゃんから辛辣な言葉が返ってきた。
「いや、60階層なんて、どう考えたって無理だろ。あの神様じゃない人はいい加減らしいぞ。実際、あっさりハードルを下げたし」
本当にあっさりだった。
じゃあ、50階層にします、だもん。
じゃあって……
「それについてはよくやった。実は他の協会とも情報を共有しているが、存続が絶望的なダンジョンもある。まだ、20階層程度なのに、50階層と言われたらしい」
それは無理だ。
絶対に無理。
「実際のところ、いくつくらいが残りそうなんですか?」
≪Mr.ジャスティス≫が聞く。
「半分残ればいい方だ」
日本のダンジョンは30か所くらいあるはずだ。
これの半分ってことは15か所か。
「きつー。ヤバくない?」
サエコが頭を抱える。
「ヤバいな。だが、他所のダンジョンは他所の協会に任せるしかない。一応、政府からも援助がある」
政府も重い腰を上げたか。
こんなに早く動くのは珍しいことだ。
まあ、ダンジョンの消滅は国力の低下に直結するからな。
政府も協会も大変なんだろう。
「援助? なんかあるの?」
「ポーションや帰還の結晶等の物資はこちらが用意する」
「そりゃあ、有難いけどさ…………無理じゃね?」
サエコがあきらめの言葉を漏らす。
「本部長、本題を。時間がないのでしょう?」
ショウコが何もかもわかってそうな顔で本部長を促す。
「うむ。今回、お前達には50階層に行ってもらうが、攻略は40階層からになる」
「はい?」
「何で40階層?」
本部長が告げると、≪Mr.ジャスティス≫とサエコが首を傾げる。
「そこの強欲な小娘の魔法で40階層まで飛んでもらうのだ」
「感謝しろよ。あと、その強欲な小娘って流行ってんの?」
皆、言う。
「どういうことですか?」
≪Mr.ジャスティス≫はいまだに理解できていないようで、聞いてくる。
「いや、皆が強欲な小娘さんって言うから」
「掲示板を見てきなよ。で? 本部長?」
≪Mr.ジャスティス≫は早口で俺に言い、すぐに本部長を見た。
俺は携帯を取り出し、掲示板を見てみる。
「そいつのメルヘンマジックとかいうふざけた魔法の中には転移魔法がある。そいつら≪魔女の森≫が驚異的なペースで30階層を攻略できたのは、その魔法があったからだ」
「転移魔法……」
「まじ?」
うーむ、俺のあだ名が≪陥陣営≫から強欲な小娘さんに変わっている。
どうやら、強欲な小娘も、トランスバングルを要求したのも、俺だということは完全にバレているようだ。
「ああ。制限として、そいつが攻略した階層にしか飛べないらしい。だが、そいつはスタンピードの時に40階層のホワイトドラゴンを倒しているから…………」
「40階層に行けるわけですね」
うーむ、ここはあきちゃんに責をなすり付けよう。
俺は『強欲な小娘さんはあきちゃんでは?』と書き込んだ。
しかし、すぐに『あきちゃんは小’娘’じゃねーよ。あいつ、アラサーだろ』と書き込まれた。
ごもっともです。
「40階層からなら、何とかなりそうな気がするね」
「それでも40階層以降はきついでしょ。サエコさん達はどこまでいった? 僕達は39階層までだけど」
「私らは37階層だ。ナーガ軍団がきつい」
「だよね」
どうしよ?
ここで擁護すると、すぐに本人認定されるのがオチだ。
「おい、神条、聞いているか?」
本部長が俺に聞いてくる。
「今、強欲な小娘さんをあきちゃんに擦り付けるのに忙しいから聞いてない」
「おい、クソガキ! 何してんだ!! あきちゃんを巻き込まないでよ!」
あきちゃんが怒った。
うるさいなー。
俺は携帯をしまう。
「話は終わった?」
「お前の魔法で40階層まで飛べることを説明したところだ」
「ふむふむ。お前ら感謝しろよ。というわけで、トランスバングルは俺のものということで」
反対したら殺す!
「トランスバングルについてはお前に譲渡する。ただし、報酬はそれだけだ」
「えー……金もくれよー」
「うわ! 図々し! 絶対に強欲な小娘さんはルミナ君じゃん!」
うるさい小アラサーだな。
「まあ、僕はいいですけど」
「トランスバングルなんて、いらんしな」
≪正義の剣≫は反対しないらしい。
ええヤツらや。
「私達もいいわよね?」
「え? あ、うん。まあ」
強欲なサエコは若干、反対っぽいが、ショウコが押し切った。
さすがはショウコ!
「俺もいらね」
「まあ、≪陥陣営≫に譲るのが現実的だろう」
クーフーリンと≪教授≫もいいらしい。
≪教授≫は死ね。
「ルミナ君が欲しがってるものだしねー」
「私は…………私は何でここにいるんだろう?」
あきちゃんとキララも反対ではないようだ。
キララはマジで何でここにいるんだ?
いや、あきちゃんが連れてきたのはわかるけど。
「よし、では決定だ。お前らは40階層から攻略を開始してもらう」
「あー、本部長、ちょっといいかね?」
≪教授≫が話の腰を折ってきた。
「何だ、≪教授≫」
「すまんが、私は不参加でお願いしたい」
はい? 殺すよ?
「どうしてだ?」
「私はエクスプローラでもあるが、その前に大阪の大学に席を置く教授でもある。私の研究はダンジョン関連なのだが、大阪のダンジョンも危ういのだ。あそこのダンジョンがなくなると大学的にもまずい。大学からも要請が来ているし、私は大阪の方に行きたいのだ」
そういえば、こいつ、大阪の人間だったな。
消えろ、消えろ。
どのみち、マジカルテレポートを使う時にお前に触られたくないわ!
「わかった。元々、大学の方を優先するという条件で東京本部に来てもらっているから反対はできん。≪教授≫は大阪支部の方を頼む」
よくわからんが、そういう契約があったようだ。
「すまんな。瀬田君、君はどうする?」
≪教授≫は瀬田君に聞く。
「クーフーリンですって…………いや、俺は残りますよ。ここがなくなると、ハヤト達が困るでしょう。せっかくこれからって時なんですから」
「そうだな。すまんが、あとは任せる。皆、こういう時に力になれなくて申し訳ない」
≪教授≫は頭を下げた。
「いえ、≪教授≫は大阪の方をお願いします。問題はこの東京本部だけではありませんから。こちらの方は僕達に任せてください」
≪Mr.ジャスティス≫が大人な対応を見せる。
「うむ」
「いいから、はよ行け。そして、二度と帰ってくんな」
俺はシッシッと≪教授≫を追い払う。
「ふむ。≪陥陣営≫、トランスバングルを手に入れたら、姿が変わる瞬間を見せてもらえないだろうか? 人体がどのように変わるのか、性別が変わる瞬間を見てみたいのだ。できたらビデオに収めさせてもらえるとありがたい」
俺は何も言わずに、立ち上がった。
「よせ!!」
「ルミナちゃん、落ち着いて!!」
俺の両隣に座っていたクーフーリンとちーちゃんが俺を抑える。
「離せ! こいつを殺す!!」
「≪教授≫、早く行け」
「うーむ、何が悪かったのかな? まあ、死にたくないので、すぐに退散するとしよう」
教授は足早に部屋を出ていく。
「待てや、コラ! その首を置いていけ!!」
「落ち着け、神条」
≪教授≫が出ていくと、本部長が座ったまま、諫めてくる。
「あのクソ野郎!! 次に会ったら殺す!!」
俺は≪教授≫が出ていってしまったので、不機嫌に椅子に座る。
「何あれ? こわ」
「とんでもないことを言う人ねー」
サエコとショウコが引いている。
「ごめんねー、ルミナ君。あの人は頭がおかしいんだ」
「すまん、本当にすまん……」
≪教授≫の教え子であるあきちゃんとクーフーリンが謝ってきた。
「お前ら、よくあんなヤツの下についたな」
俺だったら1億円をもらっても嫌だ。
「いいところもあるんだよ…………多分」
「普段はまともなんだよ…………多分」
自信ないのね。
ないだろうなぁ。
攻略のヒント
ダンジョンでは、パーティーを組むと、パーティー内の1人でもダンジョンから生還すれば、例え、他のパーティーメンバーが死んでも生き返ることができる。
ただし、生還して、一定以上の時間が経過すると、生還した人間はパーティーから外れる。
『選定の言葉』より
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