第169話 オールスターだね


 話し合いによりトランスバングルは俺のものとなった。

 ≪教授≫は死ね。


「≪教授≫については仕方がないが、お前らは要請を受けてくれるということでいいな?」


 ≪教授≫が退室したので、本部長が改めて、確認をする。


「僕達は受けます」


 ≪正義の剣≫は受けるようだ。


「もちろん、私らも」


 ≪ヴァルキリーズ≫はきっと俺のために受けると思っていた。


「俺もだ」


 クーフーリンも受ける。

 でも、お前1人か?

 さすがに40階層以降をソロはヤバくないか?


「私達もー」


 あきちゃんもらしい。

 あれ?


「ん? 達? え? 私も!? レベル10だよ!?」


 キララはあきちゃんの隣で我関せずとしていたが、あきちゃんの言葉に驚く。


 おー、キララもついに大台の2桁になったかー。


「大丈夫だよ」

「絶対に大丈夫じゃないだろ!? 自殺行為すぎるわ!」


 まあ、確かに…………


「春田、無理強いをするな」


 本部長があきちゃんを諫める。


「いや、ユリちゃんが不参加なんでしょ? じゃあ、踊り子のキララは必要だよ。キララがいるだけで、戦力が上がるんだから」

「まあ、そうだが…………レベル10だぞ。その辺の学生と同レベルだ」

「大丈夫、大丈夫! キララ、歴史に名を残そう。そして、報酬で金持ちになろう」


 あきちゃんは軽く答え、キララの手を取った。


「え? まじ?」


 キララは俺を見てくる。


「まあ、後ろでバフをかけるだけだろうしな。それだけで金をもらえるのは確かだ。ただ、攻撃を食らったら確実に一撃死だぞ」


 踊り子はそんなに防御に長けたジョブではない。

 多分、レベル10では即死する。


「えー……」


 キララは嫌そうだが、悩む。

 こいつは実家の農家を再建するという目標があるのだ。


「なあ、あの子って、ウチの人間じゃなかったか?」

「そうなんだけど、いつのまにか、春田さんに取られたっぽいんだよな」


≪正義の剣≫の2人はコソコソと話している。


 そういえば、キララって、≪正義の剣≫じゃん。


「まあ、とりあえず、全員、要請を受けてくれるということだな」


 俺達は聞かれてませんけど?


「リーダーは≪Mr.ジャスティス≫とする。具体的なスケジュールや方法はお前達に任せるが、必ず期限内に50階層を攻略してくれ」

「わかりました」


 リーダーに指名された≪Mr.ジャスティス≫が拳で胸を叩いた。


 まあ、リーダーはこいつだわな。


「じゃあ、具体的な話をしていきたいんだが、意見はある?」


 早速、リーダー振りおった。


「参謀、何かある?」


 俺はちーちゃんに振る。


 行け! でしゃばり!


「あのー、そもそも、チームというか、どういう編成で行くんです?」


 ちーちゃんが手を上げて、聞いた。


「あー、どうしよう…………バラバラはマズいかな?」


 ≪Mr.ジャスティス≫は悩んで、サエコに意見を求める。


「あんたのところは39階層、私の所は37階層で足止めを食らっている状況だろ? 今のまま行って、40階層以降を突破できるとは思えないな」


 情けないヤツら。

 少なくとも、40階層は俺一人でも突破できるぞ。


「レイドでいくしかないでしょうね」


 サエコの話を聞いていたショウコが提案した。


「レイドか…………」


 ≪Mr.ジャスティス≫はその提案を聞いて悩む。


 レイドというのは、複数のパーティーが組んでダンジョンを攻略したり、ボスを倒したりすることだ。

 かつて、PK犯掃討の時もレイドだった。

 まあ、俺はレイドされた方だけど…………


「ショウコさん、≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫はクランだからレイドに慣れているだろうが、俺達は経験がないぜ? 大丈夫か?」


 クーフーリンが異を唱える。


「瀬田君はソロだったもんね。って、秋子もないか…………」

「あの、俺、クーフーリン…………」


 クーフーリンはいつもように訂正するが、声が小さい。

 なんで、こいつはこんなにもショウコにビビっているんだろう?


「ルミナは?」

「あると言えばあるが、ないと言えばない。川崎支部の時に似たようなことをしたが、協力はゼロだった」


 前衛しかいないし、各自が勝手に突っ込んでいくだけだった。

 実に野性的だ。


「うーん、でも、各パーティーで勝手にいって、50階層に行けるとは思えないわ。時間が1ヶ月しかないのよ」

「まあ、そうだね。じゃあ、レイドでいこう。クーフーリン君達には少しずつ慣れてもらうしかない」


 レイドねー。

 俺の魔法が完全に死ぬな。

 フレンドリーファイヤーになっちゃうもん。


「レイドかー。ちーちゃん、他のヤツらに電話で伝えて。それで参加の有無を聞いてきて」

「わかった。ちょっと席を外します」


 ちーちゃんは立ち上がり、部屋を出ていった。


「ってかさ、お前の所のヤツらも参加させんの? 30階層を突破したはいえ、レベルが低いだろ」


 クーフーリンが退室するちーちゃんを見た後に聞いてくる。


「当人らの意思次第だな。シズルは諜報能力に長けてるし、ちーちゃんはエネミー鑑定を持っている。あと、地図を覚えさす。40階層以降は地図もなければ情報もない。だから、そういうのが大事になってくるんだよ。そんでもって、その二人は耐久力がないからタンクの瀬能が必要。タンクは遠距離戦が出来ないからメイジのカナタもいる。当然、ヒーラーのアカネちゃんも必要になってくる」

「ふーん。お前らって、マジで特化型だな」

「お前の所もだろ。お前は? ハヤト君達を参加させないのか?」

「無理。せめて、あと半年あればなー」


 まあ、そうだろうな。

 ハヤト君達は今年ダンジョンに慣れさせ、パーティーとしての本格的な始動は2年になってかららしい。


 俺がクーフーリンと話していると、ちーちゃんが戻ってきた。


「はえーな。どうだって?」

「全員、参加するってさ」

「お前も?」

「そりゃね」


 俺は実にいい配下を持ったな。


「クーフーリン君の所の≪勇者パーティー≫は不参加で、ルミナ君の≪魔女の森≫は参加だね。本部長、いいですか?」


 ≪Mr.ジャスティス≫が本部長に確認する。


「よくはないが、お前らに任す。絶対に学生に被害を出すなよ。学園長には俺から話しておく」

「わかりました」


 まあ、今さらだわな。


「ねえ、ルミナの所はわかったけど、瀬田君と秋子はどうするの? キララさんを入れて、まとめても、3人だけど」


 ショウコが余りモノの3人を見ながら聞く。


「どうする? ウチに入れられるか?」

「いや、ウチは6人でバランスが取れてるし、長年のパーティーだ。これを崩すのは危険だ」

「うーん、いくらクーフーリン君と春田さんでも3人は危ないよねー」


 ≪正義の剣≫の2人が相談し、悩んでいる。


「ウチに入れるか?」

「瀬田君がいるけど……」

「仕方がないだろ」

「だったら、私達とセツね。そこの3人はヒーラーがいないし、ヒーラーのセツを入れましょう」


 サエコとショウコもヒソヒソと話している。


 セツって誰?

 ヒーラーって、言ってたから、あのダジャレ女かな?


「クーフーリンと秋子とキララはウチで引き取るよ」


 相談が終わったようで、サエコが≪Mr.ジャスティス≫に言う。


 しかし、いつの間にか、キララは参加が決定しているんだな。

 キララさんはまだ悩んでますけど……


「そう? じゃあ、頼むよ」

「えー…………サエコちゃんの下ー?」


 ≪ヴァルキリーズ≫に決まると、あきちゃんが不満を言う。

 とはいえ、どうせ≪正義の剣≫になったとしても文句を言うだろう。


「なんか言ったか?」


 サエコが不満タラタラのあきちゃんを睨んだ。


「ううん。ショウコさん、よろしくね」

「はいはい」


 うーん、力関係が見えるなー。


「じゃあ、メンバーは決まったね。この3パーティーでレイドしよう」


 メンバーの選出が終わったので、≪Mr.ジャスティス≫がまとめだした。


 まあ、このメンツならなんとかなるだろう。

 1ヶ月以内に50階層のボスを倒し、ダンジョンを存続させる。

 そして、俺はトランスバングルを手に入れる。

 そして…………


 わはは。

 楽しみだなー!


「あのー、あたしら、学校があるんですけど。もっと言えば、期末テストがあるんですけど。その辺はどうするんです?」


 でしゃばり女が余計なことを言う。


 公欠だし、テストは免除に決まってんだろ!!


『それはない』


 補習は嫌だー。

 春休みに学校に行くのはいやー!





攻略のヒント

 攻略が難しいボス戦では、複数のパーティーが組んで討伐することがある。

 これが俗に言うレイド戦である。


 レイドは単純に戦力が上がるというメリットがあるが、一方で大所帯となるため、連携が難しいというデメリットもある。

 また、経験値はあくまでもパーティーに分配されるため、報酬を含めて、揉めやすいので注意が必要だ。


『週間エクスプローラ レイドの注意点』より

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