第167話 9連休だぜー! 半分は廃工場と病院だったけど……


 ダンジョン消滅のピンチだが、それと同時に男に戻れるチャンスのイベントが起きた。

 俺達はその情報をまとめてマイちんに伝えた。


 そして、その日はもう遅かったので、シズルとちーちゃんを寮に送り、帰ることにした。


 家に帰った俺は久しぶりのような気がする我が家でゴロゴロしている。


「相棒、学校から連絡が来たぜ。明日は臨時休校だってさ」

「マジで? 明日も休みかよー」


 はよ言えや。

 だったらシズルを家に泊まらせるのに。

 まあ、でも、明日は金曜だから、次の日からは土日だ。


 ってか、俺、今週は一度も学校に行ってない。

 軽い長期休みみたいだな。


「まあ、あんなことが起きればな。先生達も対応しきれんだろ」


 そうかも。

 ロクロ迷宮が消滅すれば、学園の存続も危うい。

 というか、どれだけのダンジョンが残るのかね。


「ロクロ迷宮がなくなれば、先生達もクビかねー」

「いや、クビにはならんだろ。別の残ったダンジョン近くに新たなる学園が出来るだけだと思うぞ」

「俺らもそこに転校か?」

「いや、校舎建設とか色々あるから、既存の学園に転校じゃね?」


 そうなると、川崎に転校かな?

 川崎のダイダラ迷宮の存続条件は知らないが、あそこは存続するだろう。

 所属しているエクスプローラというか、東条さんとクズ共は強さが他の協会とは一線を画している。


「川崎支部かー。俺、あそこを追放されてんだけどなー」


 戻れるのかね?

 ってか、俺だけじゃなく、他の連中もか…………

 シズルは危ないなー。

 あいつら、マジでクズだもん。


「まあ、ロクロ迷宮が無事ならいいだろ。お前、どうするん?」

「どうすっかねー」


 俺は人差し指を口に当て、悩む。


「トランスバングルはいらねーの? やっぱり女として生きるのか?」


 やっぱり……?


「いや、トランスバングルは手に入れる。これを逃せば、男に戻れる方法が2ヶ月に一回のトランスリングだけになる。足りぬ」


 せめて、1週間に1回だな。


「脳内がピンクなお花畑だなー」

「しゃーない。俺はえっちな魔女だから」

「知ってる。それで、どうするんだよ。50階層に行くのか?」


 そこなんだよなー。


「俺らで行けると思うか? 期間は30日だぜ?」

「ちょっと厳しいかもな。強引に行って、死にまくるか?」

「それでパーティーが維持できるといいな」


 誰かの心が折れる気がする。

 俺のトランスバングルのために、そこまで付き合わせるのか?

 俺達には将来がある。

 トランスバングルも50階層も通過点でしかない。

 

「だったら、≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫に任せんの?」

「それが一番だと思う。俺のマジカルテレポートで40階層まで送る」


 俺は31階層から39階層までは飛べないが、40階層は飛べる。

 40階層のホワイトドラゴンは討伐済みだからだ。


「40階層からって考えれば、1ヶ月で10階層。行ける気がしないでもないなー」


 シロは微妙な言い方をする。


「やっぱきついん?」

「ちょっとなー」

「50階層のボスはなんなん?」

「うーん、あれ、言えるな……進捗率とやらが10パーセントに達したからかな?」


 知らね。

 そもそもお前がどこまで知ってるかも知らねーし、興味もない。


「言えるんなら教えろ。彼を知り己を知れば百戦危うからずだ」

「お、孫氏か……いや、何でお前が知ってんの?」


 シロの顔にはバカのくせにって書いてある。


「これ」


 俺は誕生日に先生からもらった歴史の本を見せる。


「あー、それ。ちゃんと読んだんだ」

「おもろかったぞー。もう活字はいいけど」


 疲れるね……

 やっぱ絵が欲しいわ。


「ふーん。だったら、俺っちも読んでみるかねー。あ、50階層のボスはデュラハンだ」


 ついでに言うな。


「デュラハンって、首がないやつ?」


 弱そうだな。


「そうだな。言っておくが、強いぞ。魔法も接近戦も出来る騎士様だ。しかも、お供にリビングアーマーやキリングドールを連れている。めんどいし、強い」


 リビングアーマーもキリングドールも知らないけど、50階層って考えると、強いんだろうなー。


「あいつらでいけるかねー」


 無理くさいな。


「それは明日決めな。本部長から招集命令が来たぞ」


 シロがそう言ってきたので、シロから携帯を受け取り、メールを見る。


 内容は明日の昼に協会に来いというものだ。

 メンツを見ると、なかなか個性的だ。


「チッ! ≪教授≫とユリコの名前もありやがる」

「メンバーを見る限り、戦力重視だろうなー」


 確かに実力者達だが、ロクな人間がおらんな。

 こうして見ると、本部長が外部からエクスプローラを招集しているのも頷ける。


「同行者を一人か……誰にしようかね」

「お前はシズルを連れていきたいんだろうが、順当にチサトにしとけ」


 まあ、参謀兼会計兼書記だしなー。

 神様じゃない人の説明も全部覚えているだろうし。


「ちーちゃんに明日の昼に家に来るように連絡して。ついでに、他のメンバーにも明日の昼から連絡を取れるようにしとけ、とも」

「はいよ」


 俺は携帯を放り投げ、シロに渡す。


 俺は明日にしようと思い、風呂に入って寝ることにした。




 ◆◇◆




 翌日、昼前にはちーちゃんがやってきた。

 俺は家にやってきたちーちゃんにコーヒーを出し、座らせる。


「シロから聞いていると思うけど、これから協会に行く」


 俺はさっそく用件を言う。


「聞いてる。多分、50階層攻略に向けた要請と対策会議だね」

「やっぱそれだよな」

「だと思う。ロクロ迷宮の消滅はどうしても回避したいんだと思うよ。ここが消滅すると、ダンジョン学園どころか、ここの協会の存在意義がなくなる。ここは本部で中枢だからね。まずいでしょ」


 だよねー。


「報酬は期待できそうかな?」


 わくわく。


「あんたはまず無理。トランスバングルを貰えるだけ」

「えー……まじでー」

「ホント、強欲な小娘さんだわ」


 お前に小娘とか言われたくない。

 年齢だって、1歳しか違わねーだろ。


「俺への要請はマジカルテレポートか?」

「間違いなくそうだね。あんたは40階層まで飛べる。このアドバンテージを生かさない選択肢はないでしょ」

「その辺を上手く使って、報酬を上げれないかね?」

「無理。良くて現物支給だと思う。そもそもトランスバングルだって、他の連中から譲ってもらう形なんだ。さらに要求したら絶対にこじれるよ」


 そうかもー。

 あいつら、強欲で意地汚いしな。


「じゃあ、俺の役目はタクシーか?」

「それをあんたに聞きたい。あたしらはどうする? 50階層を目指す? 協会に行く前に方針だけは決めておきたい」

「俺は行こうかと思ってる。正直、あの雑魚どもを信用できん」

「雑魚って……≪Mr.ジャスティス≫もいるんだけど」

「そもそもだ。プロのエクスプローラはここが消滅しても、他所に移ればいいだけ。そして、俺以外はトランスバングルも別にいらない。協会からの要請だし、なるべく移籍はしたくないから真面目にはやるだろうが、必死にはやらんだろ。ダメだったらしゃーないで済ますと思う」


 絶対にそう。

 サエコとか、あきちゃんとかは絶対にそう。


「うーん、まあ、そうだろうね。じゃあ、行くの? あたしらのレベル的にきついよ? ってか、あんたでもきつい」

「期間が短すぎるからなー。まあ、ついてきたいヤツだけでいい。最悪、ユリコと≪教授≫以外のヤツと組む」


 ≪正義の剣≫も厳しいかもしれんな。

 ≪ヴァルキリーズ≫に入れてもらおうかね。

 俺、女だし、ショウコに頼めば、何とかなるだろ。


「まあ、わかった。そんな感じでいこう。あたしらがどうするかは本部長の話を聞いたあとに決めるよ」


 そうしなさい。

 無理は禁物。


「じゃあ、ちょっと早いけど、行くか」

「ん。あんた、絶対にケンカとかしないでね」


 いや、≪教授≫は殴る。





攻略のヒント

 人間を倒しても経験値を得ることはできない。

 しかし、パーティーを全滅させ、殺した場合は経験値を得ることができる。

 そして、その経験値は殺した相手のレベルによっては大幅に得ることができる。


『選定の言葉』より

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